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資本市場でのディスクロージャーについて
投資銀行について(9月11日)
金融教育の3つの流れについて (8月21日)
少し分からない事・ディスクロージャーの方向性 (8月13日)
企業のIR活動に対して、業界は(8月10日)
ディスクロージャー制度−投信の場合 (8月6日
虚偽記載事例について (7月10日)
期待される取引所:東証 (7月1日) 
市場仲介者としての証券会社の取組み (6月19日)
経済界の要望―金融関連 (6月17日)
インサーダー取引=業界の対応 (5月27日) 
タンス株の行方 (5月25日)
株主総会へ向けて (5月18日)
発行登録制度の利用促進を (4月21日)

新年度のディスクロージャー (4月3日)
隗より始めて下さい―東証上場 (3月24日)
開示制度改革―発行登録制度について (3月18日)
上場会社のファイナンスかくあるべし―野村HDの資本調達 (2月9日)
   
 


投資銀行について (9月11日)
投資銀行という言葉は、この一年多少使いにくかった。ベアー・スターンズやリーマンなど米国型投資銀行が金融危機の元凶とされ、高い報酬を求める貪欲さとともに、意外にもリスク管理の甘さが同居する矛盾を顕わにした。但し、欧米ではと断っておく。それ以前は、投資銀行という言葉の持つイメージは、金融機関にとっては、収益性の高い企業や投資家相手のビジネス、金融マンを目指す学生などからは、金融知識水準や報酬も高い憧れの仕事であった。
 そもそも投資銀行とは何か。企業や機関投資家を相手にするビジネスであることは間違いないので、証券会社的区分であれば、リテール業務に対してホールセール業務という大雑把な分け方ができる。しかし、業務内容に関しては明確な定義がないので、以下の業界で使われている定義だと、
A:【伝統的投資銀行業務】債券や株式の引受、債券や株式など金融商品のトレーディング、M&Aアドバイスなど
B:【拡大した投資銀行業務】証券化ビジネス、自己投資、ファンド関連ビジネスなど
となり、現在だとAとBを総称したものを投資銀行業務と呼ぶのが一般的になっている。
 Aの部分は、証券会社内ではホールセール部門として、企業や機関投資家との良好な関係を基に、ここ数十年ビジネスをしてきているが、Bの部分は、この10年で急拡大した部門であり、自己投資部門は他の部門との利益相反リスクもあるので、組織的には分離している場合が多い。
 今回の金融危機で問題となったのは、欧米投資銀行のB部分の業務でのレバレッジが高くなりすぎ、証券化商品が流動性を失った瞬間に、一気に破綻まで追い込まれた。また、この部門のマネージャー・クラスの報酬が、一般の感覚では異常に思える程に高かったこともあって、金融機関の報酬規制の動きが欧米行政サイドで強まった。金融機関特に投資銀行の貪欲さを非難する動きは、グローバルに広まっている。この様な動向を受けて、嘗ての投資銀行業界内(欧米において)では、Aの伝統的投資銀行に戻ろうという考えも出て、A業務のアドバイスを中心とするブティック型投資銀行を目指す動きもあるようだ。しかし、間違いなく言えることは、Bの証券化もファンドも、現在の金融機能の中で重要な役割を果たしており、重要でかつ必要な投資銀行業務であるということだ。又、レバレッジを掛けることが問題ではなく、レバレッジが管理されていなかったことが問題で、これは経営と監督の問題に集約される。
以上は、欧米でのことである。
 リーマンショック後一年たったが、日本ではその投資銀行に関する銀行と証券の考え方の違いから合弁解消の動きが明らかになった。三井住友FGは大和SMBCへの出資(4割)を引き揚げる。
 発表によると、当初三井住友FGは大和に対して銀・証一体化で投資銀行業務を強化する為、合弁の大和SMBCへ出資を増やすことを大和に提案した。確かに、投資銀行業務において引受でもM&Aでもメガバンクと組むメリットは大きい。また証券化や自己投資においても、後ろに金融資産や金融機能が控えている強みもある。欧米の投資銀行が再編と業務縮小を余議なくされている今こそ、周回遅れと言われていた投資銀行業務について、追いつくチャンスと考えるなら日本の金融グループの戦略としては当然の戦略だろう。
 一方、大和は金融危機の影響から、グローバルな金融行政は銀・証分離の方向に向かっているとして、自らの投資銀行業務に銀行の影響力が強まることを拒否した。投資銀行業務において、銀行の金融機能と組む場合、Bの証券化や自己投資のメリットの方が大きいが、このB部分のメリットが大きくなりすぎるとA部分への弊害も出始める。投資銀行内における利益相反の問題である。投資銀行にとって、顧客である企業や機関投資家のメリットを第一に考えていくなら、Bの部分が過大になることを避けねばならない。
これはこれで正しい。
 双方の投資銀行戦略が異なった結果の合弁解消だが、一方はここ10年来の欧米型投資銀行モデルを、一方は金融危機によって修正された投資銀行モデルを、其々目指すとし、相反した状況であり、今後の展開が注目される。

 


金融教育の3つの流れについて (8月21日)
  “貯蓄から投資へ”の流れを促進する為には、学校教育の段階から金融・資本市場に関する教育が必要である、いや引退された方など高齢者にも理解してもらうべきだ、大学のゼミでの専門的研究を助けるべきだなど、どれも必要な金融教育について、前回の金融危機(日本の)以降もう10年近く取り組まれているが、業界としてもコストの掛かる話しなので、最近は証券会社などのCSRなどの一環で取り組まれることも多い。厳しい業界環境を反映して、金融教育に関する熱気は多少下火になっている。
 この金融教育に関して、3つの視点=流れで考えてみたい。

【上流の金融教育】
この部分は、最近なかなか厳しい状況かもしれない。ここでいう上流というのは、金融の専門家達と見做されている層のことである。例えば、買収防衛策に関する法律解釈、企業統合に係る米国法基準対応(米国株主の為の)、複雑な金融商品に関する会計処理方法、複雑になった開示制度への対応とその対策などについて、専門家である投資銀行・専門分野の弁護士・専門処理する会計士は、どの位、企業側の複雑なニーズに対応し、投資家側の透明性の確保要請に応えられているだろうか。
 そんな背景もあって、金融業のなかでも、さらに金融の専門家“金融士”制度をつくろうという動きが金融専門人材に関する研究会(金融研究研修センター)で検討されている。内容は、金融法務・財務会計・ファイナンス理論(リスク管理を含む)に関して専門性を問う試験を行い“金融士”(仮称)の資格を与える。金融の業務に携わる弁護士や会計士も、この資格を求められるようだか、金融の専門性を業とする金融機関の経営層などのマネージメント部門も、何らかの資格条件が求められていく可能性がある。
 業界としては、グローバルに競争する上で、欧米の金融機関と競合できる金融の専門性を求められていくので、良いことなのだろう。逆にいうと、現在の日本の金融専門家の専門性について、企業側も投資家側も不満があるということなのだろうから、業界としては良く議論してもらって、結果を謙虚に受け止めるべきだろう。

【中流の金融教育】
この部分は、段々厳しくなっている。ここでいう中流とは、金融サービスを使う企業のことである。例えば、企業が金融・資本市場の機能を使って、金融機関からそのサービスを受けようとした場合、その前提となるディスクロージャー制度負担は年々重くなっている。加えて、金融サービスを使おうとした場合、その影響の測定も、会計基準や内部統制上求められそうなのが、最近の考え方になりつつある。
 つまり、企業の経営者は、投資銀行や弁護士・会計士の専門家任せでは、企業に大きな影響を及ぼす金融サービスは使えず、コーポレート・ガバナンス上の責任や、国際会計基準上で求められる企業としての判断基準に対応する為に、金融サービスに対する専門知識が、企業の経営者にも求められそうだ。
 前述の、金融のプロ“金融士”資格を、CFOなど企業の財務部門に拡大して、その資格基準を義務付けては如何かとの議論もあるようだ。しかし、業界としてはプロの専門性が求められているので、専門的な情報提供を、企業側に容易に理解出来るよう提供することも、プロの仕事と考えるなら、余り金融サービスを使う側の負担を、これ以上負荷すべきでないと私見では思う。

【下流の金融教育】
上中下の下の意味ではなく、ここでは拡大する裾野の意味である。金融知識の裾野拡大の為には、学校教育は当然必要だろうし、業界としても持続的な教育支援を行っていくことは誰しも否定しない。しかし、現在協会やNPOで行われている学校への金融教育が、本当に実になるよう、金融教育の成果が生きるようなビジョンも必要だと思う。“必要”こそ教育の基本なのだから、学校教育で行う金融知識が広く必要となるシステム構築にも尽力する必要がある。平成21年度税制改革で、創設が決定した日本版ISA(少額非課税投資制度)でも良いし、証券業協会が提案するチャイルド・ファンド構想でも良い。日本版401Kの参加者拡大や制度充実でも良い。業界として、これらの少額投資スキームを、個人投資家拡大のビジョンとして注力することこそ、金融教育が活きる金融ビジネスの裾野拡大になると信じたい。

 


少し分からない事・ディスクロージャーの方向性 (8月13日)
 毎年の様に企業のディスクロージャー負担は重くなるように思うが、それは会社と株主、あるいは株主間(将来株主の投資家を含める)の情報の非対称性を、可能な限り減じるという目的だと思っている。つまり、“貯蓄から投資へ”のような政策目標があるのなら、個人の株主や投資家の視線に合わせたディスクロージャー制度が構築されるべきである。
・内容は、分かりやすく
・タイムリーディスクロージャーというか、情報の公表は迅速に
・公表される情報の入手手段は、一般個人にも負担なく
以上のようなディスクロージャーの方向性は概ね守れていると信じるが、時々少し分からなくなる様なことに遭遇することがある。
 内容の分かりやすさに関しては、企業のディスクロージャーはIRなどの経験も踏まえて随分進歩して、有価証券報告書や決算短信等の記載は、一般的に平易なものになっていると思う。しかし、時として難解なディスクロージャーに出会うものの代表は、MBOなどのM&A関連についての会社の意見表明である。
 買付け側の買収目的も悪文の典型のようなものが目に付くが、株主からの訴訟リスクに備え、法的リスクを避ける目的で弁護士が作成したものなので仕方ないかもしれない。しかし、会社側経営者は、その賛否に関しての理由を、株主に明確に伝える義務がある。
 また、投信の目論見書(有価証券届出書)記載が、個人投資家には分かり難いと言われ、予定される開示制度改革では簡素化・標準化の動きがあるようだ。証券などの販売現場では、目論見書交付義務があるので、投資家には配布するが、実際は販売員も投資家も販売用資料(目論見書内容に沿った)で対応しているのから、不便を感じないのかもしれない。しかし、販売用資料は販売時しか入手できないので、その後、投資家が内容を知る手段は、EDINETで提供される目論見書内容だけになる。よって、目論見書改革は、個人投資家の立場からは期待されている。
 一方、株主や投資家に対する業界からの情報提供も、一種の業界ディスクロージャーだと思うが、業界の統計資料などは、過去何十年も同じ手法で集計しているような物を公開していたのでは、投資家のニーズに応えられない。例えば、証券化商品は一括の集計になっているが、証券化されているものの内容を知りたいし、空売り規制で各証券からの報告一覧表を見たいのではなく、銘柄毎の集計が知りたいが、その集計表はない。株主や投資家ニーズを意識した情報の集計や公開は、業界の責任であると思うが、情報ベンダー頼りでは、少し情けない。
 情報入手手段については、殆どの投資家が何らかの形でネットにアクセス可能なので、EDINETやTDNETにより、投資家間の情報入手の非対称性は随分と解消された。しかし、この情報入手(企業側からの情報発信)体制についても、多少疑問を感じることがある。それはEDINETやTDNETでの、情報提供側に対応が義務付けられたXBRLであるが、導入目的は、投資家の企業間の財務データ比較等を容易にし、海外投資家への英文表示にも対応できるとされている。このこと自体は、海外・機関投資家の売買を促し、国際間のM&Aへの利便性も強化されるという事なので、非常に重要なことである。しかし、現段階では投資家サイドがこのXBRL開示を利用しようとすれば、何十万、何百万とする専用ソフトが必要である。現段階では、この情報入手手段において、投資家間の非対称性があると言わざる得ない。
 確かに、XBRL処理はお金の掛かることだろうが、それなら業界が負担し、個人投資家利用も可能とするべきではないだろうか



企業のIR活動に対して、業界は(8月10日)
 公開企業のディスクロージャーに関する負担は相当に重い。会社法での株主通知の早期発送や総会での議決権行使状況の開示要望、金融商品取引法開示での四半期開示や内部統制報告書、取引所上場規則での適時開示要請やコーポレート・ガバナンス報告書作成義務など、とても財務・経理部だけでは対応できそうにない状況になっている。更に、少し先とはいえ連結決算内容が大きく変わる国際財務報告基準(IFRS)対応が控えている。
 加えて、株主や投資家とのコミュニケーションの充実要望から、IR活動は当然の様に求められる。
その状況に関して、東証によるコーポレート・ガバナンス白書2009(今年1月公表)から取り上げてみると以下の様になっている。
【個人向け定期的説明会実施】
東証上場会社の全体の26.9%が実施(前年比+4.8%)。実施会社の83.3%が代表者による説明。
※一部特定投資家に対して優先的に企業業況等の情報開示を実施するセレクティブ・ディスクロージャーをポリシーとして行わない会社も。
【アナリスト・機関投資家向け定期的説明会実施】
東証上場会社の全体の70.9%が実施(前年比−0.5%)。実施会社の98.4%が代表者による説明。
開催方法として、遠隔地からのネットや電話を使ったミーティング開催もある。
※限定された投資家のみを対象とする問題点を認識して。その内容を自らのホームページで配信する取組みも。
【海外投資家向け説明会実施】
東証上場会社の全体の16.3%が実施(前年比+0.7%)。実施会社の90.0%が代表者による説明。
年一回、説明会や個別ミーティングを開催する方法が一般的で、欧米だけではなく、最近は東南アジアへも。英文によるネット説明会や、アニュアルレポートの充実も施策に。
【IR資料のホームページ掲載】
何ならかのIR資料を自社のホームページ上で掲載しているのは、東証上場会社の全体の87.5%が実施(前年比−5.1%)。IRの補足説明資料として掲載されているもので、「決算情報」24.0%、「有価証券報告書」36.9%、「株主総会招集通知」8.3%。
【IR専任部署(担当者設置)】
東証上場会社の全体の80.7%がIR専任部署を設置している。
 これらの公開企業のIR活動に対して、日本アナリスト協会では、証券アナリストによるディスクロージャー優良企業の選定(平成20年度は、13業種215社対象)を行っていたり、東証もディスクロージャー表彰制度を実施して毎年5〜7社程度を表彰している。また、IRコンサルティング会社などが、企業のホームページをIRの視点から評価する表彰制度もある。
 公開企業のディスクロージャー制度の負担は相当に重くなっているので、企業によりIRの深度が異なっても仕方がないようにも思うが、表彰制度等で、企業に一層の投資家・株主向け情報発信を促すのは、これも市場仲介者として当然の行為だろう。しかし、同一企業情報にあっての、個人と機関投資家、外人と日本の投資家の情報の非対称性があってはいけない。
 表彰して、IR意欲を引き出すことも良いが、企業が発信する株主・投資家向け情報を、集約するインフラがあった方良い。例えば、同業他社の決算説明会比較が出来るサイトの提供などは、協会などが率先して行うことの様に思う。企業がコストを払うIRコンサルティング会社のサイトに頼るのではなく、市場仲介者がコストを負担してIR情報を集約化し、投資家・株主にIR情報を提供するインフラ整備は、業界としての当然のコスト負担だと思うのだが。

 


ディスクロージャー制度−投信の場合 (8月6日)
 公開企業にとって、ディスクロージャーの負担は相当に重くなっている。
会社法による事業報告等の株主関係書類、金融商品取引法の開示制度による有価証券報告書・内部統制報告書など、そして適時開示を求める取引所開示、加えて会社説明会などIR活動。
これらディスクロージャーの充実は、投資家にとって情報の非対称性をなくし、投資判断を容易にする目的で実施されている。
 片や、これだけ一般に広く販売されるようになった投資信託の開示制度は、金商法による有価証券届出書をベースにした目論見書に殆ど頼っている。企業なら、当然製品を作ったりサービスを提供したり企業活動を行っているので、投資家は開示制度によるディスクロージャー以外でも、投資判断する情報を持つが、投資信託は投資活動のみなので、その内容は目論見書を読まなければ分からない。
しかし、多くの投資家は、投信の目論見書を分かりに難いとして、投資家の約6割があまり読んでいないという調査もある。読まない理由は、
@分量が非常に多い。
A全般的に専門用語が多く、表現が分かりづらい
B全体の構成が複雑で、どこに何か書かれているか分からない
C重複も多い
などである。実際の販売現場でも、この目論見書は交付されるものの、販売活動では余り使わず目論見書内容を要約したり図式化した販売用資料(社内のコンプライアンスのチェックを受けた)を使っている。
 投資家の立場からすると、株式への投資は、有価証券報告書内容を比較したり、取引所等の開示情報を使って比較検討できるが、投信の場合は、目論見書(=有価証券届出書)を比較検討する気にはなかなかならない。といって、各金融機関から自分が求める投資ニーズに沿った投信の販売用資料を取り寄せる手間もなかなか大変である。
 現状のA投信が提出している有価証券報告書の構成を見てみる。
【交付目論見書相当部分】(必ず投資家に渡さなければならない)
“第一部証券情報”として投信の名称や発行総額・発行価格や手数料などが記載されていて、その他欄の受益権に関する取り扱い以外は、平易な記載になっていて、3Pの分量。
“第二部ファンドの情報”で、投資判断には重要になるファンドの目的や仕組み・投資方針・投資対象証券や運用体制・運用実績などが32P分記載されている。
【請求目論見書相当部分】(投資家からの請求に応じて投資家に渡される)
“ファンド(投資法人)の詳細情報”として、ファンドの沿革から始まって、各仕組みの定義や手続の詳細、管理内容や財務内容の定義と詳細記載がなされていて、一応マザーファンドの財務の付属明細表として有価証券明細表があるので、現状何に投資しているか分かる。この部分が20P分の記載。
 これらの投資信託の目論見書が、簡略化され標準化されることによって、投資家が比較検討しやすくなるのは大変いい事だと思う。しかし、投信の目論見書改革は本当にそれだけで良いのだろうか。
以下の問題を、筆者は一投資家として感じる。
・例えば、日本のこの成長分野に投資したファンドを探したいと思ったとき、現状の目論見書さえネット上で比較されるように公開されていない。(EDINETで有価証券届出書は閲覧できるが、内容の比較する為の検索は現状出来ないので、投信のネーミングから投資家が探すことになり、事実上の投信間の比較は困難)
・投資方針が変更された時、投資家に対して適時開示されているか疑問(公開会社であれば、重要な資産売却や購入は開示対象である)、つまり発行募集された後の、何らかのファンド内容の変更に関する適時開示がなされていない。(いちいち銘柄の入れ替えを報告することを言っているのではなく、エコファンドといって募集されたものが、エコと定義しにくい投資比重が高まった場合などの開示)
・公募された投信の目論見書が、ネット上で自由に引き出させ様、協会や販売会社・運用会社で工夫して欲しい。(投信比較サイトはあるが、正確な内容や、内容の変更などの情報が提供されていない。)
 郵便局の窓口でも、投信が買える様に一般化した金融商品なのだから、情報の集約やその提供に関係者は努力すべきと考える。



虚偽記載事例について (7月10日)
 資本市場を利用しようとする企業にとって、投資家との接点はディスクロージャーによるが、そのデスクロージャーの中核になっている開示制度(法定開示)において、虚偽記載は株主や投資家に大きな損失を負わせ、かつ資本市場に大きな負担を残した。企業側に対しても、コーポレート・ガバナンス強化議論では、外部のチェック機能として独立取締役導入議論を呼び、内部統制報告の負荷を負わせることになった。
 その虚偽記載に関して、先月証券取引等監視委員会(SESC)から課徴金事例集が公表されており、23件の事例が公表されている。事例の概要は以下。
・架空売上計上で、純損益が約5.4億円過大計上→課徴金約223万円
・工事進捗率による売上げの過大計上及び原価の過少計上・損失引当金の過少計上により純利益額が約204億円過大計上→課徴金約16億円
・2期に渡り、工事関係の売上げの過大計上及び売上げ原価の過少計上で、純利益を約7億円・約9億円過大計上→課徴金約2500万円
・3期に渡り、不動産に係る売上げの過大計上、貸倒引当金繰入額の過少計上で、純利益を約17億円・約23億円・約23億円過大計上→課徴金約1200万円
・2期に渡り、システム開発プロジェクトでの売上げ及び棚卸資産・前渡金等の過大計上で、純利益を約1億円・約2億円過大計上→課徴金約2000万円
・4期に渡り、自動車販売に係る売上げの過大計上・貸倒引当金の過少計上等で、経常損益を約9億円・約24億円・約6億円・約2億円過大計上→課徴金約2億円
・工事に係る売上げ原価の付け替え・繰り延べで、経常利益を約3億円過大計上→課徴金約1.3億円
・システム開発に係る損失の繰り延べで、純利益を約6億円過大計上→課徴金約2000万円
・3期に渡り、循環取引やスルー取引でソフトウェアの架空売上げ等により、純資産額を約9億円・約1億円・約1億円過大計上→課徴金約3000万円
・子会社が100%支配する孫会社を連結に含めなかった・EB(交換社債)発行に係る日程の虚偽による評価益の計上で、連結経常利益を188億過大計上→課徴金5億円
・工事に係る売上げの前倒し経常により、連結の純資産額を約10億円過大計上→課徴金165万円
・建物の引き渡しに係る売上げの前倒し計上で、純損益約3億円過大計上→課徴金約200万円
・受注の扱いで、売上げの前倒し計上により、純損益約3億円過大計上→課徴金300万円
・コンサルティングなどの売上げ前倒し計上により、純損益約4億円過大計上→課徴金300万円
・機械出荷に係る売上げ前倒し計上等により、純損益約1億円過大計上→課徴金300万円
・2期に渡り、ソフトの売上げ・のれん・売上債権の過大計上等で、純資産額約40億円・約26億円の過大計上→課徴金600万円
・2期に渡り、アウトレットに係る売上げ原価の過少計上により、純損益約4億円・約8億円の過大計上→課徴金500万円
・3期に渡り、棚卸資産の過大計上で、純資産額約5億円・約4億円・約5億円の過大計上→課徴金750万円
・2期に渡り、売上げ原価の過少計上で、純損益約6億円・約9億円の過大計上→課徴金600万円
・2期に渡り、リース収益及びリース資産の架空計上等で、純資産額約10億円・約10億円の過大計上→課徴金約350万円
・退職給付引当金の過少計上で、経常利益6億円の過大計上→課徴金200万円
・自治体プロジェクトに係る架空売上げ及び架空仕入れの計上で、純利益や約4億円過大計上→課徴金300万円
・関係会社株式の過大計上・関係会社損失の過少計上で、純資産額が522億円過大計上→課徴金830万円

 なにか、うっかりミスの様なものまで含まれているようにも思うが、監査されている以上、投資家には言い訳できない。また、内部統制上、経営者が知らなかったということも出来ない。


  


期待される取引所:東証 (7月1日) 
 最近、色々な問題の対応が、東証に求められていると思う。
○上場会社のコーポレート・ガバナンス向上
○株式市場の先行き見通し
○商品取引所もグループ下に置く、総合取引所構想
○最近、金融機関や上場企業で目立つインサイダー取引への教育
○取引システムの強化
以上は、先月24日、東証の斉藤社長の定例記者会見での記者からの質問項目である。
・コーポレート・ガバナンスについては、金融審議会のスタディグループと経済産業省の企業統治研究会で其々議論されていたが、先月中旬には議論を取りまとめた報告書が公表された。注目されていた上場会社の独立性のより強い社外取締役の法制度上の義務化は、実質見送られた。しかし、東証がコーポレート・ガバナンスモデルを示し、企業がモデルを選択した理由を開示したり、何らの上場ルールで社外取締役の導入を促するような提言になっており、ゲタは東証に預けられた格好である。
これを受けた東証は、上場制度整備懇談会を中心に、年内までに議論を取りまとめる意向だ。
 何度か繰り返して恐縮だが、上場企業のコーポレート・ガバナンス向上の背景には、2000年以降の旧商法改正で、M&Aやファイナンス・自己株取得の資本政策に関して取締役会に授権拡大されたことが多かった。その結果、M&Aに係る粉飾や、第三者割当での問題のあるファイナンスなどが目立ち株主・投資家が被害を受けた。
 問題のない一般の上場企業には、一律規則で義務化されるのには違和感があるのだろう。しかし、外部のチェックが入る仕組みの方が、海外及び機関投資家の投資資金を集めやすく、上場企業としても資本市場を使いやすくなるという企業への教育こそ、東証に求められていることかも知れない。
・市況見通しに関しては、つい記者が聞きたくなるかもしれないが、あまり意味が無い。東証の社長は、日本の資本市場インフラの機能の中核をなす取引所運営のトップであって、取引のプロでもないので、何らかの投資活動に影響を及ぼすとは考えない方がベターだろう。
・よく東証トップが聞かれる総合取引所構想については、先月中旬に金融商品取引所と商品取引所の相互乗入れを可能とする改正金融商品取引法が成立した。また、グローバルな取引所間連携の中には、証券取引所グループが商品取引所を傘下に収めるケースも目につく。しかし、その前に、商品取引所側は、清算機関の強化及び取引システムの拡充とその為の資本強化という宿題がある。(つまるところ、お金がかかる。)
この資金は、取引参加者から集めるしかないが、システムや清算機関が強化されなければ、その取引参加者も呼び込めない。東証グループの支援が必要だといったら言い過ぎだろうか。
・インサイダー取引に関しては、本来は個人の問題なのだが、東証が出来ることは、上場会社や金融機関の役社員への教育だけだろう。平成19年11月東証の自主規制部門は、自主規制法人として発足しているが、東証COMLECでの上場会社及び取引参加者へのコンプライアンス研修を強化する。
・資本市場インフラとして、取引システムの強化は非常に重要なことである。新オプション取引システム(Tdex+)がこの秋にも導入され、また2010年1月にはarrowhead(次世代売買システムが稼働する。
 以上の期待に応えていく東証グループは、資本金115億円従業員数約800名の株式会社であり、118社の取引参加者でもある証券会社を株主に持つ。また、取引所と自主規制組織を持つ認可業種でもある。
 最近は、上海などアジアの取引所と比較する記事も目立つが、資本市場のインフラとして期待されることは多い。多少加えると、新興市場問題もアローズの一人勝ちではなく、インフラ機能として見直していただきたい。


市場仲介者としての証券会社の取組み (6月19日) 
 16日、日本証券業協会より証券業界として取り組むべき施策・政策要望について取り纏められた報告書が公表された。
 証券業界を先導して協会が推進していく施策と思うが、内容は以下の4つに纏められている。
【1】金融リテラシーの普及推進について
【2】市場仲介者に求められる役割について
【3】投資家との対話を重視したコーポレート・ガバンンスの推進について
【4】投資環境の整備について
となっているが、【1】は今までの学校における金融教育中心の取り組みで、多少目新しいのは上場会社の役職員に対するインサイダー取引規制・確定拠出年金制度や日本版ESOP知識普及である。また【3】については、経済産業省の研究会や金融審議会、取引所で相次いで公表されているので内容は省略する。
 問題は、市場仲介者の証券会社の協会であるのだから、【2】で市場仲介者として証券会社に何を行わせるか、若しくは協会として何を行うかの具体策である。
@顧客満足度の向上に向けた取組みの強化
※CS調査を実施する証券会社が、全体の6割ということに不満らしい。
A証券会社のディスクロージャーの強化
※FX業者も含めて最近色々な形の証券会社(第一種金融商品取引業者)が増えてきたが、300以上ある証券会社のうち上場会社は18社のみ。業法で店頭備置が定められる業務報告書でさえ協会で閲覧できるのが50社にも満たないのが現状。一般投資家向けに、協会として真剣に取り組んで欲しいと筆者は考える。
B証券会社のCSRの取組み等の強化
※証券会社の取組みが62%と銀行87%・保険79%に比べて低いとのこと。
C証券会社のコンピューターシステム安全基準作りへの関与強化
※金融情報システムセンターで行っている安全基準づくりへの参加が17社(参加金融機関は669社)のみ
D反社会的勢力に関する情報収集の強化と照会業務の拡充
※取引・ファイナンス・IPOなどの“反社会的”のチェックは厳しくなっているが、確認するためのデータベース整備は協会として早急に行うことが証券会社から望まれていた。
E横断的かつ包括的な裁判外の苦情・紛争化解決サービスの提供
F証券市場における不適切行為等の早期発見及び対応に向けた
※上記2つは協会そのものの問題のように感じるのは筆者だけだろうか。
以上は、其々が証券会社として大事な事案だろうが、市場仲介者としての投資家に望まれる重要な取組みは以下の【4】で取り上げられたことかもしれない。
@資産運用手段の拡大
・確定拠出年金制度(日本版401K)の拡充=拠出額の拡大や主婦や公務員の参加が望まれる。
・投資家ニーズに合わせた商品・サービスの多様化=取り合えず投信商品の多様化。
・社債市場の活性化=個人も利用できるような市場環境の整備。個人の社債投資も増えているので、本気で早急に整備する努力をして欲しい。
A投資を促進するための税制の構築
・少額の上場株式等の非課税措置(日本版ISA)の適正な実施
・金融所得課税の一本化の推進
・納税者番号制の積極的な検討
・配当の二重課税の撤廃
・子供を対象とした税制優遇投資スキーム(日本版 Child Trust Fund)の創設に向けた検討
B金融・資本市場統計情報等の整備・充実
※協会の市場関連データは、業者へのヒアリングベースが多くて、使い難いというのは筆者の個人的感想。
税制改正要望に力点があるようにも思うが、投資家にとっては重要なことなので、オバマ流に、数値を定め、期限を決め、優先順位をつけて取り組んでいただきたい。


経済界の要望―金融関連 (6月17日)  
 16日、日経連より2009年度日本経団連規制改革要望が公表され、金融関連でも10の規制緩和要望が出されている。その内訳は、企業のディスクロージャーに係るものが2つ、銀行業務に係るものが6つ(うち信託が1つ)、保険業務に係るものが2つとなっていて、証券業務に関する要望がないのは、少し寂しい。
 この内容に関して、資本市場的視点で、以下に取り上げてみたい。
(証券業界としての問題は、日本証券業協会が同日の16日に、“金融・資本市場に関する政策懇談会”報告書を公表しているが、上記の件と直接繋がらないので、後日取り上げる。)

【企業のディスクロージャーに係るもの】
@物的分割時のおける有価証券届出書の廃止
−分割時に新会社の株式を割当てることから、自動的に有価証券届出書提出義務を負い、その後の5年間の継続開示を義務付けられる。その事が分割した会社の負担となる。その為、新会社の株主50名未満なら、そもそもの有価証券届出書提出義務を負わないことを要望。かなりテクニカルな事象ではあるが、開示制度の目的を考えれば、筆者もその通りと考える。
A四半期報告書制度の簡素化
−45日以内に監査証明を受けて公表する内容が多くて負担・四半期決算短信と整理統合を要望。東証の開示制度である決算短信との整理要望は分かるが、ディスクロージャーは資本市場の基本なので、企業側の努力は必要。まして内部統制を進めたはず。ただし、新興企業への開示負担に関しては、軽減策検討の余地があると考える。

【銀行業務に係るもの】
B不動産デリバティブ取引等の差金決済型デリバティブ取引の解禁
−銀行でも排出権や商品のデリバティブが出来るのだから、不動産や船舶運賃のデリバティブも銀行及び証券子会社で認めて欲しいとの要望。取引参加者が増えることは良い事だが、筆者の不明でこの様な要望が銀行にあるのは知らなかった。
C銀行の株式保有ルールである5%ルール・15%ルールの運用対象から信託資産を除外すること
−銀行も信託業務を行う現状では、信託との同様の措置(信託は既に除外)が望ましいと考える。
D業務報告書等の見直し
−開示制度・取引所開示で重複する部分も多いので、銀行や保険持株会社の業務報告書は簡素化若しくは廃止を要望。これについて、筆者は少し違和感がある。そもそも業法で定められた業務報告書は、証券会社も提出・備置義務があるが、一般へのディスクロは義務化されていない。未上場会社が多くなった証券などは、むしろ積極的な業務報告書の公表が求められる。
E銀行代理業の許可要件に関する規制緩和
−届出期限・内容の簡素化、銀行の子会社の兼業承認基準対象外へ。
F信託契約代理業に係る規制の適正化
−信託契約の内容によって、信託契約代理業なのか金融商品取引業なのか、その定義を整理して欲しいと要望。(現状=自益信託→金融商品取引法、他益信託→信託業法)
Gコミットメントライン契約の借主の対象範囲拡大
−中小企業(資本金3億円以下)や地方公共団体、学校法人、医療法人、相互会社、海外債務者、また証券化のための合同会社、有限責任中間法人を対象範囲に新たに加えること。また証券化の適格借入人に、PFIや船舶ファイナンスに係るSPCを加えることなどを要望。

【保険業務に係るもの】
H特別勘定に関する現物資産による保険料受入、移受管
−年金制度に現物拠出する場合、コストや市場への影響を避ける目的で、株、債券等の現物資産による保険料受入、移受管を可能にする要望。
I保険会社における会社分割等の単位の見直し
−責任準備金の問題点の整理
 


インサーダー取引=業界の対応 (5月27日) 
金融・資本市場関係者から、インサーダー取引関連の問題が明らかになると、またかという思いに捉われる。別に業界だから、金融商品取引法上問題になりそうな行為に対して、厳格に対応し、範をたれろと言うつもりではない。
 5月21日、M&Aに関連したTOB5件の情報を使った公認会計士のインサイダー取引で、野村証券のM&A部門の社員から情報が伝えられたことが明らかになった。証券会社社員からの内部情報でのインサイダー取引摘発は、初めてで、学校時代の後輩・先輩の関係での内部情報漏洩らしい。
 昨年も、同証券のM&A部門の社員によるインサイダー取引が、摘発されている。
M&Aは、当然であるが、何らかのかたちで株式を集めようとする為、公開会社が対象の場合、TOBを実施しなければならず、その為、市場価格以上のプレミアムを乗せて、TOB価格を、決定する。
M&Aがこれほど一般的になり、かつ増加もした現状では、この情報の事前取得でのインサイダー取引増加は、容易に想像されることでもあった。
昨年は、NHKの報道関係の社員・TOB公開資料などを扱う宝印刷の社員・そしてデューデリジャンスに参加する新日本監査法人の公認会計士など、M&A業務に深く係る人達のインサイダー取引事件が相次いだ。
これらのことを、少し冷静に考えたい。
勿論、違法行為を行う本人たちが一番悪いのだが、M&A情報など、法人の非公開情報に係る専門家達は、それぞれ厳しい社内ルールを設けている。前述の問題を起こした企業や組織も、
・株式の売買の事前申請
・株式取引に関する短期売買の禁止
・仕事で担当する銘柄の売買禁止
など、厳しく規制している。
NHKに至っては、事件後、役職員の株式売買を全面禁止にした。
再発防止策として、社員の株式取引ルールの厳格化で、今まで対応する事が多かったが、本当にこれらが有効なのだろうか。
社員に、行動規範の徹底を行い、社内ルールを厳しくしても、インサイダー情報を日常扱う、証券会社や会計事務所における、問題解決にはならないのではないか。
証券会社の社員であろうが公認会計士だろうが報道スタッフであろうが、普通の人たちがするようなミスは、普通にする。つまり、意図的な違反取引はしなくとも、うっかり誰かに言ってしまう、偶然インサイダー情報に触れてしまうようなことはあるだろう。今回の証券会社社員から公認会計士に情報が伝わったのは、この様なケースかも知れない。
問題の本質は、このM&A関連情報の管理にあるのではないか。
 M&A業務で、インサイダー関連情報が発生するのは、必須なのだから、その現場での情報管理の徹底こそ、業界で早急に求められていることで、対象となる未公開の法人関連情報をシステム的に管理する必要がある。例えば、その情報に誰が何時アクセスしたが記録が残るようなタグを、その情報そのものに付けて、管理することなどあるのではないか。
 少なくとも、社員の株取引を禁止することは、業界内では、問題の解決にならないと考える。



タンス株の行方 (5月25日) 
株券電子化という世紀の(?)イベントが年初に行われ、上場株式・公募投信・公募社債(つまり個人が制限されずに売買できる有価証券)に関しては、物理的な証券は無くなり、完全にデータ化されたペーパレスの仕組みになった。
 この有価証券のデータは、全て証券保管振替機構(ほふり)に集約され、管理される。
 もちろん(ほふり)に、個人が直接アクセス出来ないので、これら有価証券を株主や投資家から預かる証券・信託銀行などの金融機関が(ほふり)に直接アクセスできる口座をもち、株主や投資家の有価証券データを管理する。これら有価証券の売買・貸借・担保提供する場合には、データを動かすため(ほふり)に指示する必要があるので、結局証券・信託銀行に、有価証券データを管理する口座を作らなければならない。
 しかし、売買も貸借もするつもりなく、資産として(長年タンスの中で?)保有してきた株券は、多数あって、このような株券を“タンス株”と呼び、そのままでは将来の売買等に支障がでるということで、証券会社等が“タンス株”を自社で口座開設してもらって預かりましょうというキャンペーンを、昨年は大々的に行い、株券電子化移行をイベント化していた。
 で、このタンス株はどうなった。
 証券や信託銀行に預けられたタンス株は、(ほふり)の証券・信託が管理する口座にデータとして加わったのだが、残ったタンス株は、これもデータとしてちゃんと纏められ発行会社が管理する“特別口座”に入れられた。
実際は、この“特別口座”の管理は、発行会社が名義書換代理人の信託銀行等に依頼しているので、この費用は、発行会社の負担になっている。
つまり、そのままにしておいたタンス株は、自動的に発行会社の特別口座でデータが管理される仕組みに切り替わって、タンスの中の株券は無効になってしまった。このタンス株主は、特別口座の管理費用はかからないが、将来売買等する為には、証券・信託に口座を作り、この特別口座からデータを出さなければならず、この間の口座費用は発行会社が負う。
 こんな特別口座が、この3月末で、まだ1000万口座もあるらしい。
大半が資産として保有されて、当面の売買・相続などの予定がない方が保有するものだろうが、金融機関からみると、有価証券として活用されていないので、非常に“もったいない”思いがする。
 この新タンス株=特別口座で管理する株式データは、発行会社から見てもコスト削減から減少させたいだろうが、このタンス株の中には、本当にタンスの隅に残ってしまった所在不明株主の保有する分もある。
 5月22日、富士通がこの新タンス株の中にある所在不明株主の株式買取を実行した。
 この制度は、旧商法の時に導入され会社法に受け継がれたが、
【所在不明株主】株主名簿に記載された住所あてに発した通知または催告が5年以上継続して到達せず、かつ5年間配当金を受領していない株主
○所在不明株主の株式買取を、取締役会で決議することができる。
○所在不明株主には、公告及び催告を行い、3か月以上を経て実施できる。
○株式の売却代金は、会社が供託し、株主からの申し出で支払う。債務消滅の時効まで10年と考えられている。
という制度になっている。
 この制度は、2006年8月に新日鉄が最初に行い、約2万名の所在不明株主の株式を売却した。
 今回の富士通は、昨年7月末に取締役会決議し、この22日に約2000名分を2億円で自社で買い取ったものである。
 所在不明株主への対応に関しては、歴史が長く株主数が多い企業ほど頭を悩ませていたが、株券電子化で新タンス株化した分は、その処理が促進されていくのだろう。


株主総会へ向けて (5月18日) 
3月決算期の6月株主総会シーズンまでひと月余りとなったが、企業側は、そろそろ株主招集通知の発送時期に入る。個別に注目される総会もあるだろうが、全体としては主要な法制度改正に係る部分が終わっているので、そもそも論に関したものが、注目されるのではないか。
 つまり、会社運営の仕組みを問うコーポレート・ガバナンスに関するもので、これを強化しなければならないという方向性は、一致しているものの、その方法については、公開会社の3%未満の委員会設置会社が良いのか、4割程度が導入している社外取締役制度の強化が良いのか、最近提言され始めた社外監査役が半数以上必要な監査役会制度の改革がいいのか、別れる現状がある。
 これらの議論は、6月までに金融審議会のスタディグループや、経済産業省の企業統治研究会で、報告書として纏められるようだが、金商法にせよ、取引所ルールでの運用にせよ、会社・会社経営者から独立した外部のチャック機能強化を、上場企業が、求められる方向は、変わらない。
 よって、今株主総会での取締役・監査役選任案について、社外の方の独立性が注目されるケースも、多くなるのではないだろうか。
 このことは、投資家の反対が強い買収防衛策(昨年度は500社以上が導入)への賛否行動にも影響するであろう。
海外のアクティビストのみならず、日本の機関投資家も、上場企業の社外役員(監査役を含む)選任に当たっては、以下の様な独立性基準を持つものが増えている。
・メインバンクの関係者でないこと
・一定株式を保有する実質的親会社の関係者でないこと
・経営者の親族でないこと
・会社と取引関係にある弁護士・会計士・税理士等でないこと
・一定期間以上長期にわたり社外役員として在任していないこと
・社外役員を相互に派遣していないこと
など
 一方、これだけの経済環境悪化の時期でもあるので、企業の戦略に係るものにも、注目は集まる。
総会議案の中には、当然事業戦略に関するものは含まれるわけではないが、資本政策戦略に係るような定款変更や自己株取得・償却、剰余金処分に関する議案は、通常以上に、関心が高まるだろう。
 折しも、金融機関や大手企業の大型の資本調達が、相次いで公表されている時期でもある。
一例として挙げると、野村ホールディングス(8604)が、5月15日以下の定款変更案を公表している。
定款の一部変更に関するお知らせ

 この中で、BIS対策の資本基盤強化として、4種類合計8億株の優先株式の発行を可能とする定款変更案が示されている。この半数には、優先配当額を抑える為、普通株へ転換が可能な条項が含まれている。
同社は、この3月に3000億円発行済み株数を3割以上も増加させるファイナンスを行ったばかりでもある。再び、潜在株数を大量に発生させるファイナンスに対して、その資本が、企業価値を増加させる事業戦略に沿ったものであることも、株主には、明確にしていくのだろう。 


発行登録制度の利用促進を (4月21日)  
野村ホールディングスに続き、三井住友ファイナンシャルグループによる大型の公募増資が公表されている。最大8000億円という募集額は、多分今年最大の公募増資になる可能性があり、相次ぐ金融機関の増資と、今年の市況を占う意味でも、注目されている。
 この増資は、発行登録制度を使って行われているが、通常の届出書制度に比べて、企業が機動的にファイナンスを行うことが出来る為、社債の発行において利用されることが多かった。
発行登録制度は、
 ○発行する有価証券の種類ごとに登録しておけば、1年ないし2年の期間中、発行条件さえ決定すれば、最善と思える時期に直ぐ募集できる。
 ○価格等の条件が決まる前、発行登録目論見書で、実質的に事前の勧誘活動が出来る。
 ○需要状況を勘案して、一部の発行も、問題ない。
などの利点が利用されていたが、株絡みについては、発行登録金額が大きければ、市場からダイリューションを懸念したネガティブな反応が懸念され為、企業の利用は慎重だった。
 しかし、本当に必要な資本なら、その使用目的を明確にし、リスクを明示して、市場や株主に需要を問うのも、資本市場の大事な機能だと考える。極論かもしれないが、需要が無ければ、ファイナンスは実行しなければ良い。それらを推し量る道具として、発行登録制度はエクイティ・ファイナンスでも多様されるべきと考える。
 多少テクニカルな面に触れると、野村Hや三井住友FGのファイナンスの様に国内・海外同時募集のグローバルオファーリングの場合、国内・海外其々の投資家需要の変化に合わせて、国内募集分と海外募集分の調整が直前までしやすい事も、発行者のメリットとしてある。
 一方、この発行登録制度の利便性を向上させる為の開示制度改革が、新年度に予定されている。
1.利用適格要件の見直し
周知性の要件を見直し
  ・格付け要件の廃止
  ・例えば5年間で100億円など、過去の有価証券発行実績を新たな条件に
2.SPCによる発行登録制度の導入
資産流動化法上あるいは外国のSPCも利用可能に
  ・資産流動化法上の特定社債券
  ・優先出資証券
  ・新優先出資引受権及び海外SPCの発行する同類の有価証券
3.プログラム・アマウント方式の採用
機動性のあるファイナンス機能を
  ・期間中に償還された額を、発行上限額に追加
など、制度も改善される。
 2000年以降の改正商法と会社法制定で、会社の資本政策に関しては、随分取締役会に授権された。その為、機動的な資本政策は企業にとって必要であり、資本調達における発行登録制度の利用促進を期待している。勿論、不必要な資本に関しては、自己株買いとその消却で対応する機動性も求められるが、その結果判断をするのは、株主である。



 新年度のディスクロージャー (4月3日)

ようやく東京でも桜も満開になった新年度であるが、公開会社のディスクロージャーに関しては、一連の不祥事や法改正・経済環境の激変もあって、企業側でご担当されている方々は、なかなか大変な思いをされているのではないかと思う。

 そのポイントに関しては、金融庁より3月31日、

 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意事項について(平成21年3月期版)             

という形で、公表されているが、なんといっても大変なのは、この6月から提出が始まる“内部統制報告書”ではないか。
 これは、米国でのSOX法施行や、会社法での内部統制の義務化を受けて、金融商品取引法が定める開示制度においても、有価証券報告書とは別に提出義務が課されたものである。
平成20年4月から始まる事業年度について、企業は対応をしなければならない。4月2日に、これも金融庁から公表された“内部統制報告書制度に関するQ&A”には、107のQ&Aが載せられてはいるが、内容を拝見すると、やはり企業側の負担感は、相当なものだとも感じた。(この内容については別途、取り上げたい。)
 この制度は平成19年の金証法施行時には決まっていたので、準備期間は長かったが、今後はむしろこの報告書を使う側、投資家や金融機関がどう使いこなしていくのか注目される。

 他には、前年度の有価証券報告書に対する重点審査(3月決算期)での不備の指摘が21%の提出企業に対してあり、特に、定款の定めにより役員等の任務懈怠責任の一部を取締役会決議により免除できるとしていることにつき、その旨と理由の記載不備が409社であると指摘している。

 有価証券報告書に対する新たな記載としては、“継続企業の前提に関する注記”として、

(1) 当該事象又は状況が存在する旨及びその内容

(2) 当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策

(3) 当該重要な不確実性が認められる旨及びその理由

(4) 当該重要な不確実性の影響を財務諸表に反映しているか否か

が求められてもいる。

それ以外の概要は、

○関連当事者の開示については、会社や組合に準ずる事業体や親会社の役員等が追加など

○リース取引について、ファイナンス・リース取引を通常の売買取引に準じた会計処理へ

○棚卸資産の評価について、トレーディング目的のものは、通常の販売目的のものと区分、等

○稀の場合において満期保有目的の債券へ変更が可能になったが注記事項等について

○市場価格が無かったり、オファーとビットの乖離が大きい金融資産に対するプライイシングモデル関連の記載等

○監査報酬に関する開示内容の明確化等

 いずれの項目も、使いこなさなければならないのは投資家であり、その投資家が使いこなす為の支援は、市場仲介者の責務でもある。

 



 隗より始めて下さい―東証上場 (3月24日)
  売りたい人と買いたい人、リスクを取りたい人と回避したい人。市場の機能とは、そのニーズをマッチさせる事から始まる。
 諸兄には恐縮な物言いで始めてしまったが、では、東証はどちらなのだろうか。東証は上場したいのか、如何。市場運営者及び我が国の資本市場機能の要として、自らの上場問題をどの様に考え、そして実行すべきなのか。東証上場問題を考える。
(3/24日経によると、2009年度に予定していた自らの上場を、市場低迷で来年以降に延期するとのこと)
 そもそも上場の目的とは何か、東証のHPには以下の様に記している。(※ポイントのみ抜粋)
 (1)公募増資・CB発行など資本調達力がつく
 (2)上場会社としての社会的なステイタスの確保
 (3)パブリックカンパニーとしての組織・内部管理体制の構築
では、東証自らの上場目的は如何なのであろうか。少なくとも十分な社会的地位を占められているので、(2)ではないだろうし、上場会社には(3)を強く求めているのであるから、これも上場の主目的ではない。
 金融危機からの脱却の為のみならず、金融・資本市場の競争力強化の為にも東証への期待は強まっている現状で、
  ○売買の高速化や決済機能の拡張に対応した次期東証システムへの投資
  ○商品取引所との連携強化を含めた総合取引所機能への期待
  ○アジアでも出遅れている我が国ディリバディブ市場整備への注力
  ○排出権取引市場創設に係る市場機能活用への期待
など、いずれも資金が必要となる案件を課題として抱えている。
であるなら、今が企業としても資本調達が必要な時期なはずで、その為の前提となる上場が何故延期されるのであろうか。
 確かに上場前提としては、
  ・収益の拡大傾向の確認
  ・事業環境の良好さ
など、自ら上場希望会社に課したルールはあるが、ここは形式基準に囚われるより、上記の課題の先を、投資家に示すことで対応されては如何か。
 折しも、東証はこの春からプロ向け新市場=TOKYO AIM を開始されるが、先ずは自ら隗となって、この新市場に上場され、資本調達をされ、新市場を活性化して欲しいのは筆者のみならず日本の資本市場の期待でもある。
 環境が悪ければ、一般投資家に期待した通常の新規上場ストーリーを追うより、プロに理解させ、リスクマネーを調達してこそ、市場運営を行う企業として相応しいとも考える。
 ここで思い出すのは、この最悪の発行市場の環境下、発行済みの3割上の株式を増加させ、3000億円もの公募増資を決行した大手証券のことである。(筆者は、この大手証券とは一切関係ない)
 


開示制度改革―発行登録制度について (3月18日)
 最近の国内発行市場において、注目された野村ホールディングスの約3000億円の公募増資であったが、発行登録制度を利用しての調達であったことを、以前筆者としては評価した。
 グローバルな資本調達は、その需要把握とともに情報管理が難しいが、発行登録制度により、最大限の必要な資本調達額を市場に示し、又、投資家の需要があった分だけ発行することが可能で、機動的でかつ柔軟な調達が可能である。
 確かに、大量の資本調達を示されることは、ダイリューションを嫌う市場にはショックを与えるかもしれないが、資金使途が明確に示され、情報管理さえしっかりしていれば、市場で消化される額しか発行されないので、この発行登録制度は、株や優先株などの資本調達でもっと活用されるべきである。
 しかし、この発行登録制度を含めて、日本の開示制度(金融商品取引法上の)は、やはり重い。
それは、発行者(つまり開示制度上の必要な情報を提供する側)にとっては勿論、利用者である投資家にとっても、この制度はかなり重装備になっていて、かつ、その仲介者の金融商品取引業者の負担さえ重くしている。
 この開示制度改革は、2009年度の金商法改革に上がっているが、
  (1)発行登録制度の見直し
  (2)目論見書目論見書制度の見直し
  (3)有価証券の売出し概念の見直し
の3つが取り上げられることは、既にお伝えした。
 今日は、そのうち発行登録制度の見直しについて。
 開示制度そのものは、資本市場を使う企業・発行体全てが、その対応を求められるが、その中の発行登録制度は、大企業の大量な資金調達というイメージが強かった。
 この制度は、発行者の機動的な発行を目的としたものであったが、その前提としては、よく知られている大企業を想定して利用基準が作られていた。
 又、発行枠は一度使い切ると、再度申請し直す必要もあり、真に機動的かの疑問もあった。
昨年、後半に金融審議会のワーキングチームで検討された結果、以下の改革が予定されている。
 (1)周知性要件の緩和=企業規模で利用が制限されていたが、例えば過去5年間に100億円以上の有価証券を発行している発行体ならOK
 (2)格付け要件の廃止=2つ以上の格付け機関からA格以上、といった要件の廃止
 (3)SPCによる発行登録制度の導入=証券化商品も利用可能に
 (4)プログラム・アマウント方式の導入=発行残高の上限を記載し、償還等により発行残高が減少した場合に発行可能額の増額を認める方式

発行環境の厳しい現状の様な時期にこそ、この機動的で柔軟な新しい発行登録制度の活用を、資本市場参加者の皆様にも求めたい。

金融審議会ディスクロージャーワーキングチームにおける資料
「発行登録制度」関係資料


上場会社のファイナンスかくあるべし―野村HDの資本調達 (2月9日)
 2月6日(金)東証大引け後、野村HDが株式による3000億円の資本調達を発表した。通常、株式による資本調達は、市場への需給悪化によるマイナス要因と、新たな資本が生み出す新たな企業価値のプラス要因をもって、市場での評価は定まる。とはいっても、実際は市場は常に変化しているのだから、、企業の調達したい金額と、市場の受容量が一致するようなベストディールはなかなか難しい。
 この様な難しいことを、企業と市場の間に立って媒介するのが投資銀行だったはずだが、実際は企業側の調達ニーズに寄るか、IPOの様に逆に極端に投資家側の受容=需要を偏っていた。調達ニーズにより過ぎれば、長期の株価低迷が予想されるが、ファイナンスは企業にとっても重い作業なので、投資銀行は事前の需要予測(ファイナンスが公表される前の需要調査)を綿密にしようとする。いきおい大口の機関投資家などにソフトヒアリングしたがる業者もいたように思う。
 勿論、投資銀行だから情報管理はキッチリしているだろが、ファイナンス銘柄ほど直前株価の低下傾向が強かったのを否定出来ない時期もあった。
 企業が、ちゃんと必要資本額を明示して、市場の受容=投資家の需要に沿った調達をする仕組みとして、発行登録制度は、上場会社のファイナンスには、もっと使われるべきである。
 企業側は、その時需要が集まらなくても、期間内に何度も市場需要に合わせたファイナンスがトライできるのが、この発行登録制度で、社債では多用されていた。
昨年の金融危機以来、事実上エクイティファイナンスが難しい今こそ、この市場需要に応えやすい発行登録制度を利用した株式発行による資本調達を選んだ野村HDは、流石に資本市場のリーディングカンパニーである。
 多少注文をつけるとすると、調達の効果=資金使途に関しての情報提供を、一般投資家にも分かりやすいものにする必要がある。(発行登録書のリスク情報には、リーマン買収について具体的記載がなされているが)現行の開示制度では、事実か会社の決定したことしか書けないが、”連結子会社への出資もしくは融資”のみの記述では、個人投資家には分かり難い。
 幸いにして、2009年度に予定されている金商法改正では、開示制度改革が上がっていて、投信の目論見書の分かり易さと共に、発行登録書の使い勝手の良さが改正されそうである。
 金融・資本市場の機能強化のために、大いに期待したい。
【金融審議会 ディスクロージャー・ワーキンググループ報告案2008.12.9】
―開示制度の見直し
  ☆発行登録制度の見直し
  ☆目論見書制度の見直し
  ☆「有価証券の売出し」概念の見直し



   

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