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金融商品としての排出量取引 (9月17日)
政権ネタはかり追うのは本旨ではないが、新政権は2020年までに二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスを1990年比25%削減する高い目標を掲げた。これに対して、17日に日経に掲載された新日鉄会長のコメントは、無理な削減目標では、生産拠点を海外に移さざる得なく雇用も減り、また中国やインドなど新興国を利するだけだと、相変わらず強い抵抗を示している。しかし、民主党は、日本でもキャップ&トレード方式による実効性のある国内排出量取引市場を創設することを政策として公表している。
 ここで、金融商品としての排出量取引の概要について、少し整理して考えてみたい。
排出量取引は、金融商品取引法において金融商品として定義付けられている。また、金融商品である以上、金融商品取引所において上場及び取引が可能であることが、排出量取引市場拡大にとって必要であるので、東証の事業計画にも、排出量取引市場創設への検討という項目が、2年連続で盛り込まれている。
また、日経・JBIC排出量取引参考価格では、1トン当たりのCO2は、1751.6円(9月14日)となっている。この排出量取引に関して、金融的視点で見直すなら、それは実際の経済活動によって発生するCO2など温暖化効果ガスの削減枠に対するデリバティブ取引と見なすことが出来る。加えて、この金融商品は、通貨の様な性格をもっている。それは、国際的に流通する通貨もあれば、国内で主に流通する通貨、そしてある特定の地域にしか通用しない地域通貨・・・イメージとしては、この仕組みに近い。
【国際通貨としての京都ユニット】
全ての排出量取引のベースになる仕組みだが、以下の4つに通貨の呼称及び取扱い可能者が分かれる。(但し、単位は1t当たりのCO2量)
AAU(Assigned Amount Unit):京都議定書に参加した先進国に割当てられた排出量枠。取引は国のみ。
RMU(Removal Unit):森林拡大部分など加味して、追加した排出量枠。取引は国のみ。
ERU(Emission Reduction Unit):主に東欧やロシアなどに割当て枠で、省エネなどの削減プロジェクト(JI)を実施すると与えられる。個別企業も売買することが可能。
CER(Certified Emission Reduction):主に発展途上国に割り当てられた枠で、個別企業の削減プロジェクト(CDM)に対して与えられる。個別企業も売買することが可能。
※ERUやCERは、例えば火力発電所に代わりに水力発電所を建設したことによるCO2削減予定枠を売買するということになり、京都クレジットと呼ばれる。実際の売買は、CDMによるCERが多い。
【欧州通貨としてのEU-ETS】
 2005年からスタートしているEU域内の排出量取引EU-ETS(European Union Emission Trading Scheme)は、EU域内の大企業の発電所や工場など1万ヶ所以上に対して、温暖化効果ガスの排出量枠を割当るキャップを行い、それを取引するトレードを行わせている。キャップを適用された企業は、必要に応じて排出量EU-ETSを売買するが、それ以外にもトレード主体の業者の売買も認められている。この制度のポイントは、上記の国際通貨である京都ユニットと、このEU-ETSが交換可能な仕組みとなっており、EU-ETS取引の影響が京都ユニットに及ぼす影響も大きい。
【日本の制度:国内排出量取引制度】
 日本国内においてのCERを中心にした京都ユニットの輸入やそれに伴う売買は、電力会社や業界団体の実需をベースに、商社や排出量取引仲介業者も参加して、店頭取引(OTC)で行われている。国内通貨の状況としては、環境省・経済産業省中心に試行的に行われていたが、昨年10月より国内クレジット制度が始まり、以下の概要となっている。
・参加主体:事業所・個別企業(トレード主体の金融機関も可能)・鉄鋼及び自動車の業界団体
・取引対象:今までの試行制度で交付された排出枠、京都ユニット、“国内クレジット”
・国内クレジットについて:この制度に参加する企業が自主的に削減目標を設定、不足が予想される部分は、中小企業などの削減プラン(大企業が技術・資金支援=このプランは政府の委員会が承認する必要がある)を国内クレジットとして購入し、削減枠を達成する仕組み。ちなみに、国内クレジットについては、7月までに約1600トン分(約280万円分)が承認されている。(省エネ法により、削減目標を求められるものは、2010年4月からは、年間のエネルギー使用料1500klの事業者が対象となることが決まっている。)
 現在は、欧州でのキャップ・アンド・トレードとは程遠く、取引所の必要性は見いだせないが、民主党による実効性のある政策で、強制的に削減枠を割り振るキャップ・アンド・トレードが実施されれば、多くの排出量取引需要が生まれる。京都ユニットにおけるCERの様に、国内クレジットも大手企業の削減目標に沿って中小企業が温暖化効果ガス排出量削減に参加することは、中小企業の技術・経営改革にも繋がるので重要な仕組みだろう。しかし、それらの有効にするためには経済効果が明確になる市場原理を使うべきだし、その条件として国内クレジットと国際通貨の京都ユニットの交換を円滑化する仕組みも必要だ。そうすれば、一律の温暖化対策税に頼る必要がない排出量取引市場が、日本に生まれるかもしれない。


新大臣に業界が望むべきこと (9月16日)
 新政権が確定した9月に入っての株式市場で、米国や中国などは景気回復基調を織り込み始めたのに比べ、日本の市況が何とはなく力弱く感じるのは、新政権への不安があるのかも知れない。
 しかし、いよいよ16日から民主党政権が発足し、亀井氏が郵政民営化・金融行政の担当大臣に起用されると報じられている。予算執行への対応などから、どうも今までより政治家(民主党)主導で行政がおこなわれそうだと市場は感じ始めており、また政権の状況や民主党のスタンスから大臣任期も長くなるかも知れない。つまり、業界にとって亀井新大臣による金融行政が、今後4年近く続く可能性を、明確に認識しておく必要がある。 
 一部には、亀井新大臣の郵政民営化に対する姿勢を不安し、また民主党の大企業には厳しそうな姿勢を懸念する見方もあるが、大手金融機関への行政関与が厳しくなりそうなのは、グローバルでみても金融危機再発防止の視点では避けられない。むしろ、業界としては、大手金融機関のビジネスに関与する部分が大きいグローバルなルールや基準作りにおいて、日本の金融・資本市場強化を目的として、戦略的に関与する部分を強化し、方や中小企業向け融資返済猶予だけではなく、中小企業も成長企業なら利用できる資本市場の整備等を、進める施策を早急に政策提言していくべきではないか。
【グローバルな金融・資本市場の基準作りに関する戦略】
・新BIS規制において、グローバルに活動する金融機関の自己資本規制が強化されることがG20で決定されているが、普通株を中心にしたコア自己資本規制に動きが欧米当局中心に強まっている。既に公的資本注入した欧米金融機関に比べ、優先株等の比率の高い日本の金融機関には不利になる可能性があり、この基準づくりにグローバルな金融競争力戦略として、積極的に関与して欲しい。
・IFRS(国際財務報告基準)への早期適用は既に金融庁から示されているが、金融危機によって現在IASB(国際会計基準審議会)では、金融商品会計に関する見直しも進めている。金融商品区分では、金融機関の国債保有や企業の持合い株、時価問題(IFRSでは公正価値という)では欧米金融機関が多く保有する証券化商品、また保険契約の時価測定の問題もある。これらは、当然ではあるが日本の企業に大きな影響を及ぼす。
・民主党政権は、温暖化ガス25%削減政策を進め、排出量取引についてはキャップ・アンド・トレードの市場整備を唱っている。欧米に比べ、相当遅れている排出量取引市場の早期創設を後押していただきたい。排出量取引は金融商品として既に定義付けられているが、グローバルな取引とリンクし、かつ他の金融商品(含む電力量取引や天然資源取引)と相関しあう整備なされれば、日本の金融市場の機能も充実する。その為にも、年末に予定されているCOP15(国連気候変動枠組み第15回締約国会議)に向けて、排出量取引市場整備を、炭素税議論とは切り離し進めていただきたい。
以上、グローバルな金融の基準づくりは、国益として関与強化を提言していくべきと考える。
【中小企業が便益をうける金融・資本市場の整備】
一方、中小企業向けには救済型の政策も必要かもしれないが、成長支援型の政策も期待したい。
・中小企業基盤整備機構や地方自治体中心に、地域ベンチャー・ファンドが整備されてきているが、この中から成長企業をピックアップしていく仕組みとして、ファンド間でベンチャー企業株式を売買したり、ファンドそのものを売買するプロ市場があっても良い。
・エンジェル税制活用を促進する為、経済産業省と共同で対象企業やファンド売買の仕組みを整備してはいかがか。
・金融行政としては、新興市場改革やグリーンシート市場整備など、中小の成長企業が活用できる仕組みには、当然注力して欲しい。(多くは、業界自体の責任ではあるが)
【生活者視点の金融機能の整備】
日本版401Kの一層の促進の為に、主婦や公務員も参加させれば参加者は一ケタ増加し、国の制度として定着する。また、既に導入が決定されている日本版ISA(少額投資優遇措置)の取組みを着実に進めることも、業界として要望すべだ。チャイルド・ファンドなどの考え方も、民主党政策に合うかもしれない。業界としては、証券優遇税制廃止(既に日本版ISA導入を前提に、2012年には廃止予定)に怯えるのではなく、金融一体課税推進の流れの中で、生活者視点の要望を強く行うべきだろう。

以上のような事が、金融行政として取り組んでいかれるなら、業界としては、郵政関係の民営化案件IPOに頼らなくても、業務の拡大に取り組んでいける。



TOBの風景 (9月15日)
TOB(Take Over Bid:公開買付)は、個人投資家にとってはIPOとともに関心の高いテーマである。
それは、通常のTOBの場合、時価(半年若しくは3カ月の平均株価を指すケースが多い)の3割程度プレミアムが上乗せされて公開買付価格が決まる事が多いので、株主や投資家にとって、TOBに関する話題は、注目せざるお得ない。それだけ投資家の関心の高いTOBに関する証券会社の現場の対応について少し触れてみたい。(ちなみにTOBは、実質的に証券会社でなければ実務業務を行うことが出来ない。)
【スタート:目的探し】
 TOBは、あくまでも株を大量に集める手段(原則発行済み株数の5%以上、以降3分の1、過半数と適用除外規定が狭められる)なので、証券会社は企業やファンドに対し、その大量に株を買い集める目的を提案し、また相談にのる。その目的とは、M&AやMBOなどがほぼ全株式を集めようとする買収案件から、業務提携を強化する為の資本提携、企業救済型の増資とセットになったもの、また大株主の売却意向に自社株取得で対応しようとするものなど、資本政策や大型の投資に関わる様々なケースがある。
【ローンチ:具体化へ】
 TOBは、買い手の行為なので、その目的に沿って売り手(既存の大株主)や企業経営者と大まかな合意が必要となるが、アドバイザーとして証券会社はその仲介をお膳立てする。買い手と売り手場合によっては企業経営者との正式な交渉スタートは、基本合意契約書からローンチ(実務的開始という意味)する。
 この段階に入ると、TOBの実現性は高まるので、案件に関する情報は当然インサイダー情報として管理されなければならない。もっとも証券会社としては、買い手・売り手が具体的検討に入った段階から、これらの情報は法人関連情報として厳格に管理されるが、TOBに係る案件を進めるアドバイザーとして、他の関係者から情報が漏えいする可能性を排除する努力をする必要もある。
【案件進行のポイント】
 案件進行のポイントは、DD(デューデリジェンス=財務を中心にした精査)と公開買付価格の二つある。DDそのものは、買い手が会計系事務所を使って行うことであり、アドバイザーとしてはDD作業の為の支援をするということだろうが、実際のM&A案件では、このDDの結果で案件が消滅してしまう場合も多い。買い手としては、DDは当然の行為なのだが、売り手にとっては自らの機密情報を相手に晒してしまうので、そのリスクは高い。公表されていたローソンによるam/pmや三菱UFJ信託による日興信託の買収交渉は、この段階で白紙撤回されている。売り手側には、この段階では別のアドバイザーが指名されているのが通常だが、交渉決裂した場合の防衛措置として違約金を定めることが必要な場合もある。
 公開買付価格に対するプレミアムの目途も検討しておく必要があるが、単に株価算定書だけではない。買い手側の買収メリットと売却予定の大株主や対象企業の経営陣の考え方を調整しておくことは必要で、アドバイザーとしてその仲介を行うこともある。また、自社株取得などは財源が企業の配当可能利益なので、プレミアムが余り高すぎても問題があるし、救済型のTOBの場合は特定の売り手以外を排除する目的でマイナスプレミアムの場合もある。プレミアムに対するアドバイスは、市場の専門家として証券会社の重要な機能である。
【TOB実務】
 TOBそのものは、市場外での株式大量買付行為なので、株の受渡しができる証券会社の専任業務である。売却希望の株主の口座を設け、株式を受入れ、キャンセルにも対応し、時には株主からのTOBに関する問い合わせにも応じる。証券会社の機能をTOBの為に貸し出す訳だが、この対価に数千万円のフィーを課す事が出来るM&Aアドバイスとは独立したビジネスである。しかし、この段階になると証券会社内の関係者も増加するので、TOB公表まで、より厳格な情報管理が求められる。
【TOB公表まで】
 段階が進捗するに伴って関係者が増加してくるが、このTOBに関する情報は、証券会社内は勿論、関係する金融機関、印刷会社、会計事務所等での厳格な管理が求められる。アドバイザーとしての証券会社は、これら関係者にもインサイダー情報の管理の徹底を促す努力も必要だ。
 社内売買の管理は勿論、公表前に情報を限定された関係者以外にメールで流すようなことは決してあってはならない事である。
以上、しつこいくらいの情報管理徹底である。



誰が為の公開会社法 (9月14日)
 会社は誰のものか、といったコーポレート・ガバナンス上の議論をする時、それは会社という組織内において権力を有する経営陣を牽制したり、短期的利益の追求から、組織にとって時に横暴と思える要求をする株主の行為を制限しようという意図が含まれる場合が多い。
 勿論、会社は株主を含むステークホルダーのもの(社会全体の)であろうが、公開会社の場合は、市場の機能を使って資金調達もするのだから、投資家という将来株主もこのステークホルダーに含める必要がある。
民主党の新政権になって新しい政策が注目されるが、マニフェストにはなかったものの政策INDEX2009には公開会社に適用される特別法として公開会社法の検討がある。目的は、公開会社の情報開示や会計監査などを強化し、健全なガバナンス(企業統治)を担保する為である。民主党には、公開会社法プロジェクトチームもあり、7月に纏められた素案が9月14日の日経では特集記事となっている。
 この素案は、日本取締役協会や経済財政諮問会議のワーキンググループで検討され2年前に纏められた“公開会社法要綱案(第11版)”がベースになっているようだが、元々の要綱案には、従業員代表が監査役会に参加する案はなかった。
ここで、目的としているコーポレートガバンンス強化の一連の動きについて整理しておきたい。
そのそも、エンロンやワールドコムの不正に限らず、日本でも、虚偽記載や偽装問題など明らかなる不法行為以外にも、大量の第三者割当増資や大幅な株式分割・併合など少数株主にダメージを与える資本政策などがあった。経営者の行き過ぎた行為を誰がチャックするのか、経営者が知らなかったという会社の歪みをどう修正するのか。
このコーポレートガバンンス強化に関しては、2つの流れがあったが、一つは開示の徹底、もう一つは経営や業務に関する監視機能の強化である。
【開示の徹底】
会社法上では、内部統制システム構築の基本方針の明文化義務付け(大会社)とその事業報告での開示。
金融商品取引法では、四半期開示・内部統制報告書の提出。
取引所開示では、適時開示(タイムリーディスクロージャー)の更なる徹底、コーポレート・ガバナンス報告書の充実。
これらの結果として、公開企業の開示負担は、ここ数年相当に重くなってきている。
【監視機能の強化】
・J-SOX法対応ということで、内部統制システムの構築を公開企業はここ数年求められてきた。
・M&AやMBOなどで、経営者と株主の利益相反が懸念されるような場合、最近は第三者委員会を設置して、外部意見書を公表するケースが増えている。
・社外取締役の独立性に関しては、機関投資家や海外投資家などから独立性強化を求める動きが強く、これを受けて上場規則改正の動きがある。
・監査役の監査機能強化については、大会社は半数以上の社外監査役が必要で、その監査機能強化の為にも、監査役選任への監査役会参加や監査スタッフの充実をするための上場規則改正の動きがある。
つまり、コーポレート・ガバナンスの強化に関する開示対応は、現在相当行われているし、監視機能の強化については、取引所の上場規則で対応しようとする動きがある。
 会社法・金融商品取引法・上場規則と確かに3つにわかれている事を、公開会社法として一つに取りまとめることは一見効率的にも思えるが、ことコーポレート・ガバナンス強化を目指すのであれば、今は最近取り組まれた諸々の施策の実効性を見極める事と、この6月まで議論されてきたガバナンス強化策を早急に取引所規則に取り込み実効性を上げる時期ではないだろうか。
 公開会社は、コーポレート・ガバナンス強化は勿論必要だが、企業として成長しなければならない。また、次のテーマとしてIFRS(国際財務報告基準)への対応も控えている。
公開企業のあり方について、常に議論していくことは必要だろうが、統合議論による混乱は、ステークホルダーが避けて欲しいと思うことでもある。


投資銀行について (9月11日)
投資銀行という言葉は、この一年多少使いにくかった。ベアー・スターンズやリーマンなど米国型投資銀行が金融危機の元凶とされ、高い報酬を求める貪欲さとともに、意外にもリスク管理の甘さが同居する矛盾を顕わにした。但し、欧米ではと断っておく。それ以前は、投資銀行という言葉の持つイメージは、金融機関にとっては、収益性の高い企業や投資家相手のビジネス、金融マンを目指す学生などからは、金融知識水準や報酬も高い憧れの仕事であった。
 そもそも投資銀行とは何か。企業や機関投資家を相手にするビジネスであることは間違いないので、証券会社的区分であれば、リテール業務に対してホールセール業務という大雑把な分け方ができる。しかし、業務内容に関しては明確な定義がないので、以下の業界で使われている定義だと、
A:【伝統的投資銀行業務】債券や株式の引受、債券や株式など金融商品のトレーディング、M&Aアドバイスなど
B:【拡大した投資銀行業務】証券化ビジネス、自己投資、ファンド関連ビジネスなど
となり、現在だとAとBを総称したものを投資銀行業務と呼ぶのが一般的になっている。
 Aの部分は、証券会社内ではホールセール部門として、企業や機関投資家との良好な関係を基に、ここ数十年ビジネスをしてきているが、Bの部分は、この10年で急拡大した部門であり、自己投資部門は他の部門との利益相反リスクもあるので、組織的には分離している場合が多い。
 今回の金融危機で問題となったのは、欧米投資銀行のB部分の業務でのレバレッジが高くなりすぎ、証券化商品が流動性を失った瞬間に、一気に破綻まで追い込まれた。また、この部門のマネージャー・クラスの報酬が、一般の感覚では異常に思える程に高かったこともあって、金融機関の報酬規制の動きが欧米行政サイドで強まった。金融機関特に投資銀行の貪欲さを非難する動きは、グローバルに広まっている。この様な動向を受けて、嘗ての投資銀行業界内(欧米において)では、Aの伝統的投資銀行に戻ろうという考えも出て、A業務のアドバイスを中心とするブティック型投資銀行を目指す動きもあるようだ。しかし、間違いなく言えることは、Bの証券化もファンドも、現在の金融機能の中で重要な役割を果たしており、重要でかつ必要な投資銀行業務であるということだ。又、レバレッジを掛けることが問題ではなく、レバレッジが管理されていなかったことが問題で、これは経営と監督の問題に集約される。
以上は、欧米でのことである。
 リーマンショック後一年たったが、日本ではその投資銀行に関する銀行と証券の考え方の違いから合弁解消の動きが明らかになった。三井住友FGは大和SMBCへの出資(4割)を引き揚げる。
 発表によると、当初三井住友FGは大和に対して銀・証一体化で投資銀行業務を強化する為、合弁の大和SMBCへ出資を増やすことを大和に提案した。確かに、投資銀行業務において引受でもM&Aでもメガバンクと組むメリットは大きい。また証券化や自己投資においても、後ろに金融資産や金融機能が控えている強みもある。欧米の投資銀行が再編と業務縮小を余議なくされている今こそ、周回遅れと言われていた投資銀行業務について、追いつくチャンスと考えるなら日本の金融グループの戦略としては当然の戦略だろう。
 一方、大和は金融危機の影響から、グローバルな金融行政は銀・証分離の方向に向かっているとして、自らの投資銀行業務に銀行の影響力が強まることを拒否した。投資銀行業務において、銀行の金融機能と組む場合、Bの証券化や自己投資のメリットの方が大きいが、このB部分のメリットが大きくなりすぎるとA部分への弊害も出始める。投資銀行内における利益相反の問題である。投資銀行にとって、顧客である企業や機関投資家のメリットを第一に考えていくなら、Bの部分が過大になることを避けねばならない。
これはこれで正しい。
 双方の投資銀行戦略が異なった結果の合弁解消だが、一方はここ10年来の欧米型投資銀行モデルを、一方は金融危機によって修正された投資銀行モデルを、其々目指すとし、相反した状況であり、今後の展開が注目される。

 


 
 
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