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ファイナンスについて
券会社として襟を正すべきこと (9月9日)
社債市場への改革意識 (8月24日)
社債市場に対する問題意識  (7月23日)
IPOというビジネス (7月15日)
社債市場の改革にあたり (7月14日)
2つのエクイティ・ファイナンス (6月29日)
個人という債券投資家 (6月8日)
新興市場について (5月21日)
IPO市場回復の為には (4月27日)
J-Nomadと主幹事 (4月9日)
リーマン破綻と日本の決済システム (3月12日
優先株とMSCB (3月4日)
こんな今こそ、ハイブリットなIPOビジネスを   (2月26日
それでも、やはり学ぶべし米国金融  (2月19日)
ファイナンス―市場仲介者はもっと頑張ろう(東洋紡の資本調達)  (2月18日)
   
 
証券会社として襟を正すべきこと (9月9日)
最近は、証券会社等に対する行政のありかたもベターレギュレーション・プリンシプルベースと言われ、結果として規制強化への方向性が強まってきている様にも感じるが、ルールを遵守する側の証券会社にも、多少疑問符がつくような事もあるように思う。中には、明らかなルール違反もあるが、ルールには違反していないが、市況や経済環境から、若しくは投資家の立場から見て、好ましくないと思われる事である。
 これらの行為は、市場仲介機能をもち又市場への影響力も強い証券会社として、襟を正して対応すべきと考えるので、敢えて取り上げる。

【自社グループのファイナンス】
 野村総研(4307)のCB500億円発行が、転換価格(新株予約予約権行使価格)決定日直前の9月8日に中止された。中止理由は、本社債には格付けがされていないので、主幹事の野村証券が引受けられないことが判明した為という。発行会社の理由ではなく、引受会社選定の問題になってしまった。
 そもそも証券会社は、グループ会社の有価証券の引受主幹事となることが、弊害防止措置として金融商品取引法上禁止(法第44条の3)で禁止されているが、例外として
A:格付けを取得した有価証券(内閣府令第153条4号イ)
B:売買高もしくは時価総額が100億円以上のなど一定の条件を満たす上場有価証券(内閣府令第153条4号ロ)
については、主幹事が審査を甘くしたり、発行条件を歪めたりする問題がないとみられ、規制を適用除外されていた。つまり、格付けを取得した債券(CBを含む)か、株式の引受であれば今までも問題がなかった。少し問題が複雑なのは、本年6月から施行されたファイアーウォール規制緩和に伴い、上記AとBの規制に追加する形で、一定の人的・資本関係(直接保有で5%未満)を有していなければ、
・引受幹事会社として登録され
・引受業務に十分な経験を有していれば
例外的に許容されると項目が、内閣府令第153条4号ハに追加された。まさか、この項目をミスリーディングしたとは思えないが、上記規制のAとBは法律上そのまま残っている。
 何故東証に上場を予定するCBなのに、格付け取得をしなかったか疑問が残るが、CBの償還直前に会社側が強制的に買取り、新株発行し、その時の時価から見て新株が安ければ不足分を現金交付で補うことが出来る(会社側選択により)新しいスキームは、それなりに評価できたのに惜しい気がする。
しかし、引受中止は、株主・投資家にとって不信を招く行為であることを、引受証券会社は強く意識する必要がある。

 【自社のファイナンス】
 野村を書いたので、次は大和という訳ではないが、発行会社としての大和グループの対応にも多少の疑問が残る。マスコミにも大きく取り上げられた、三井住友グループとの合弁解消の動きであるが、業務提携見直しまで進むかどうか分からないし、会社側からの公表もない。しかし、7月に大型の時価発行増資を行っていて、この時期に報道されることに多少の違和感がある。加えて、格付け機関の格下げは8日に公表されている。ファイナンスも提携戦略も、そして格付け見直しも、一つ一つのことは、きちんと市場対応されていると思うが、全体の流れが悪い。せめて、情報開示を徹底していただく事で、業界の雄として市場に配慮されることを期待したい。
 証券会社でも、事業会社の一つなのだから、多くの問題や課題を抱えて会社は運営されていくのだろうが、一方で市場仲介者として、企業に対してコーポレート・ガバナンスの強化や適時開示の徹底を求める立場でもある。それが故の厳しいルール遵守姿勢は、プリンシプルベースでも求められているのではないだろうか。  


社債市場への改革意識 (8月24日)
少し前の経済番組で、個人投資へのインタビューを聞いて、少し考えさせられた。
“最近は、新興国の債券を買っています。”(為替リスクなどありますが、・・)
“いや、為替リスクがあったとしても、人口も増加して、結局長い目でみれば経済成長するんですから、日本の国債より安全ですよ。”こんなやり取りだったと思う。
 確かに最近は、高金利の外債や外債ファンドが個人投資家に売れているようだ。一方、日本の社債市場においても、個人向けの発行額の増加が話題になった。銀行劣後債や、一部低格付け高金利銘柄が個人投資家に売れたようだが、金融危機からの社債市場回復の一助になったようだ。
 そもそも、日本の社債市場は、どうなっていて、またどうなるべきなのだろうか。金融危機から発行市場が回復したのに安堵しているのではなく、元々流通市場機能の未整備が言われていたのだから、この機会に抜本的な改革をし、欧米市場の機能に追いつく活性化を目指したらどうか。そんな動きが、業界・行政・日銀・民間識者などを集め、日本証券業協会において“社債市場の活性化に関する懇談会”として7月から始まっている。金融危機回復期のこの時期に、日本の社債市場の遅れを取り戻そうとする良い動きだ。
※日本の社債市場の現状 (資料)
 先週末に、7月に実施された会議の議事要旨が公表されているが、市場改革のポイントになりそうな意見を下記に紹介する。
【全般について】
・日本の社債市場の現状は、発行体・投資家とも、非常に参加者が限られている。一方、個人や年金など巨額の資金を有するが、社債の保有が少ない投資家が存在する。
・制度や市場関係者などグローバルなプラット・ホーム化を進める必要があり、アジア市場との連携も。
【発行市場】
・機関投資家の社債への潜在的な需要はあるものの、発行ロットが小さく、また流通市場でも一定数量を買えない。
・日本の金融機関の貸付けは意外に機動的であるが、社債発行の効率性を改善していく必要がある。
・BBB債は期待収益に見合うため注目しているが、なかなか発行されない。また低格付け債は、分散投資が必要なので、発行銘柄数を増やすことが投資の前提だが、柔軟なプライシングも求められる。
・四半期開示の義務化から、起債可能な時期が狭まり発行が集中する傾向がある。またこれによる引受証券会社の審査事務も発行会社の負担になっているので改善を。
・個人投資家の存在感が増している。
・BB格以下の社債発行は出来ないが、それには格付機関の努力による格付けへの信頼性向上も重要
・格付け費用が、発行者負担のままで良いのか
・証券会社は市場仲介者として、発行・流通市場の分断化を解消すべく、投資家への情報提供等に努力する必要がある。
【流通市場】
・社債レポ市場を整備すれば、業者間のポジション調整などにより仲介者が需要をつなぐことができインセンティブも働く。
・フェイルを全く容認しないマーケットでは流動性の向上は望めない。
・社債市場の基礎データ御世に市場関係者・投資家向け情報を充実すべき
・国債市場の様に、現物市場とデリバティブ(CDS)市場の橋渡しを強化すれば、流通市場も活性化する。
・決済システムはペーパレス化してはいるが、海外振替機関の様に付随サービスを強化すべき。

※筆者は、先ず投資家の求める社債関連情報を、集約して提供することから始めるべきと考える。また、同会議の議論の進展と、業界での社債市場改革実行に強く期待する。


社債市場に対する問題意識  (7月23日)
 
 国債も社債も、同じ債券という有価証券であるが、国債市場と債券市場の間には、その機能と実態に随分隔たりがある。つまり、国債市場は、発行市場も流通市場も整備され、決済においても、いち早くDVPが実現し、実務的には、T+0も可能な市場機能を、有している。片や、社債市場は、発行市場はあるが、流通市場については、一部に店頭取引があるだけで、とても市場というレベルではない。ただし、我が国の決済制度改革(有価証券の)によって、今年の年初に完了した株券電子化よりいち早くペーパレス対応(スタートは2006年1月)になり、今は殆ど流通しない私募債も、株式保管振替機構の投資家口座内にデータとして管理されている現実がある。社債市場に関して極論してしまえば、発行はなんとかあるが、高格付けや一部の業種に偏っていて、流通は市場として整備されていないが、決済・保管だけは電子化で完備されているという、ちょっとアンバランスな状況になっている。
 上記の様なコメントをしなくとも、金融・行政当局や業界も、シンジケートローン・社債・CP・CDSなどのクレジット市場の中で、社債市場の改善は必要として、業界関係者による検討会などを立上げている。日本証券業協会による取組みは、7月14日の拙稿で取り上げたが、金融庁金融研修センターにおける研究会で、以下の様な調査報告がなされている。

クレジット市場における検討課題
その内容から、社債市場に関する問題点を取り上げてみると、以下のようになる。
(カッコ内は、筆者のコメント)
【根本的な社債市場の問題】
・社債市場の規模が、欧米と比べて小さい
・社債保有の半数近くが金融機関で、社債投資家が育っていない
(社債市場改革は随分前から言われているが、進まないのは、社債に関する証券業者の収益性の低さがあるのではないかと思う。以下の問題を解消するためには、業界としても、人的負担とコストが掛かる。社債のビジネスとしての収益性を高める可能性は、CDSなどのデリバティブ・証券化・ファンド組成・指数化にあるのではないかと考える。)
【発行に関する問題】
・社債の利回りが低すぎる
−金融機関のローンの代替になっている可能性
−発行時の条件決定において、今の主幹事による主要投資家へのあいまいなヒアリングではなく、投資家へのロードショーやPOT方式のような需要精度を高める仕組みが必要。その為の金商法改正を。
(金融機関同士が、保有する社債の社債要項などの情報を共有する仕組みがあれば、ポートフォリオ内での、社債入れ替え需要が起きるのではないかと考える。)
【流通に関する問題】
・社債流通価格に関する情報が、取引実態を反映していない。
(単なる業者へのヒアリングベースではなく、取引実態を例えば15分以内に報告するシステムを業界で共有しては如何か。また、この秋からCPについては、証券保管振替機構が毎日かなり細分化された取引実数を公表する予定になっているが、社債の決済に関しても同様の取組みがされれば、発行・取引実態の情報が共有化されるのでないか)
・流通における税制の問題=非課税法人・課税法人・非居住者ごとに異なる源泉税、譲渡益課税など金融所得課税の一本化(これが本当に有効と思われるなら、業界として税制改正要望を強く行うべきと思う。)
【仕組みに関する問題】
・社債管理会社=融資を発行会社に行っているメインバンクが行っている現状で、社債券者との利益相反問題に関する疑念。
・社債に関して、国債のような清算機関がない。このことが、社債の貸借(レポ取引)サービスなど取組み難くしている。(国際的な流れで、CDSの清算機関を整備する動きがあり、東証や東京金融取引所での取組みが伝えられている。CDSと社債は連動制が高いのだから、業界として両所に社債の清算機関設立を依頼しては如何か)

※紙面の関係で、一部のみ取り上け恐縮に思う。
 社債市場改革の影響は、日本の金融・資本市場の仕組みを大きく変えていく可能性があるので、関係者の頑張りに期待するとともに、是非、粘り強く取り組んでいただきたいと思う。



IPOというビジネス (7月15日)
 結論からいうと、IPO(株式公開)という業務は、証券会社内における単独のビジネスとして成り立たなくなっている可能性がある。ただし、“今のやり方のまま”ならという注釈が付く。
 元々、証券会社においてIPOビジネスは、装置産業的なところがあり、
A:新規上場企業を発掘する営業部門
B:発掘してきた企業に対しIPOコンサルティングを行う支援部門
C:社内の審査及び取引所審査に対する指導を行う審査部門
の、IPOの為の専門部隊が必要で、取引所のOKが出て上場スケジュールが見えたところから、引受・アナリスト調査・販売戦略などが加わる。
上場に至るところでは、投資銀行としての総力戦になるのだか、そこに達するまでA〜Cが対応する部分が、平均で1〜2年、長ければ3〜4年を要することもある。元々、大手の証券会社でも、数年に一度の民営化案件や大型金融機関の上場・再上場でもなければ、単独のビジネスとしてのA〜Cの様な組織の維持は難しかった。 実際、IPO案件の減少期には、A部門を他の営業部門に配置転換させたり、Bなどは会計系コンサルが代替するケースも増加していた。
 しかし、IPOは企業にとって資本市場の入口になるのだから、証券会社の機能としてIPOは重要である。Aの様なIPO企業発掘の為には、市場誘導業務として地域金融機関など連携したり、有望企業に対してはファンドの形で投資したり、M&Aビジネスとリンケージさせたりし、証券会社はこのビジネスの収益性改善に努力してきた。
 現実のIPO市場は、極端に縮小している。この様な経済情勢と、市況環境なので仕方ないという見方で良いのだろうか。
 14日に、あずさ監査法人のIPOサポート室が、本年上半期(1〜6月)のIPO動向について公表している。以下、概要。
IPO社数:9社←24社(2008年同時期、年間では49社)←73(2007年同時期、年間では121社)←93社(2006年同時期、年間では188社)
調達資金:常和ホールディングス(不動産業)の34億円を除けば、数億円規模、調達なしが2社
上場初値:3社が公募価格2倍前後の初値、それ以外は公募(売出し)価格前後。
 この様なIPO市場の縮小原因について、経済情勢と市況環境以外に次の2つの問題があると筆者は考える。
○審査の問題(取引所、証券会社)
○公募価格プライシングの問題
ここ数年、新興市場を中心とした問題として、粉飾決算や極端な第三者割当・ファイナンス・反社会的勢力との関係など、投資家にとってコーポレートガバナンスを問題にしたくなるような案件が相次いだ。この事で、証券及び取引所の審査が厳しくなることは問題ない。しかし、審査のグリップが緩まったり、締められたりする(多分、行政の姿勢を、審査する側が勘案してということだろうが)ことがもしあれば、外部からは分かり難い。そのことで、市場誘導する側の混乱があるのではないか。
また、プライシングに関して、新興企業ということで価格算定根拠から大きくディスカウントして公募価格を抑え、初値が高くつくのがよい事ではない。販売する側は、プレミアム商品ということで重宝するだろうが、結果は、初値で公募価格の倍、その後半年で初値の半分以下になってしまう新興市場であれば、短期売買以外の投資家が離れていくことは、現実の新興市場が証明している。このことは、関係者の努力で、現在改善しつつあると信じたい。

証券会社の社員なら、入社した時に、一度は下記の様な話しを聞いているだろう。
戦後、取引所を再開した時に松下を、上場した時にソニーを、1000株(最小の売買単位という意味)数万円で買っていれば、それが数億円の資産になっている。と
 目先の利益ではなく、投資の夢を語れる新興市場にする為には、どう市場の仕組みを作り直していくか考える時期に来ている。プロ向け市場で、審査対応を簡便化するのもある。また、新興企業のファイナンスに関して、投資家がその成長を見守ってやれる仕組みとして、株主割当増資は有効かもしれない。
そう言えば、高度成長期のファイナンスは、株主増資割当が主流だった。


社債市場の改革にあたり (7月14日)
 資本市場において、資金調達側の企業は、ファイナンス方法として株式か債券で行う。しかし、その株式市場と債券市場は随分とイメージが異なる。簡単に言ってしまえば、株式市場は流通マーケット主体であり、債券市場(国債以外の)は発行マーケット主体である。また、債券の投資家についていうなら、金融機関中心の機関投資家に限られていたし、企業が発行した社債が、株の様に流通しているといったイメージには随分遠かった。
 その様な社債市場について、改革しようと、日本証券業協会で経済界・金融界の有識者を集め、社債市場の現状及び活性化に向けた様々な課題の検討、取組を進めるため、今月初め「社債市場の活性化に関する懇談会」を設置した。このこと自体は、日本の資本市場強化においても非常に重要なことで、是非実行力のあるプランを、数値目標・期限・優先順位のオバマ流で進めていただきたい。
 以下、日本の社債市場に関して、多少のコメントを、資本市場強化の観点から述べる。
【社債市場の実況】
株式保管振替機構の6月末データによると、以下のような実態となっている。
・社債(公募)=2,432銘柄、発行残高57.6兆円
・社債(非公募)=55,945銘柄、発行残高12.6兆円
・資産担保社債(公募)=62銘柄、発行残高1兆円
・資産担保証券(非公募)=927銘柄、発行残高5.4兆円
・非居住者の国内発行合計=361銘柄、発行残高9.9兆円
※国内で発行される社債もペーパレス化が完了している。現状は殆ど流通していない、私募債(上記の社債(非公募))も電子化されており、流通・保管に掛かるコストは、著しく低下している。
【社債発行市場の問題点】
・公募債では、低格付けの発行が未だ機能していない。
・公募債は引受業者との関係で、発行額の下限がある。
・私募債に関して、財務制限条項(発行会社の財務的な制約)を含めて、社債の発行要項を入手しにくい。
【社債流通のプロセス】(簡略化して)
社債に関する情報の集約(売買価格情報、信用格付情報、企業情報、社債の発行要項等を集約)
     ↓
売買ニーズの集約(実際は、証券会社(仲介者)が投資家ニーズを収集して、社債を仕入れる場合が多い)
     ↓
売買ニーズのマッチング(上記の流れで、証券会社が取引相手となる場合が多い)
     ↓
社債の受渡決済・保管(投資家のポートフォリオを管理する口座に移動若しくは証券会社に取りあえずそのまま)
【社債流通市場の問題と課題】
・全般的に流通市場があまり機能していない。
・特に私募債が流通する仕組みは、中堅・中小企業の資金調達力に大きく影響するが、ほぼ無い。
・流通の為に何が必要かについては、上記社債流通プロセスにあるように、社債の電子化で決済・保管の負担が投資家・流通業者たる証券会社双方軽くなっているので、まず初めのプロセスの社債に関する情報集約とその公表に注力するべきと筆者は考える。
・社債の価格情報については、現在行われている証券会社へのヒアリングベースのものではなく実際に売買された情報を集約し、公開する仕組みが必要。(実際に売買されていないものは、類似する社債の売買価格情報が比較可能へ)
・社債の格付け情報に関しては、グローバルな格付機関規制の中で、格付情報(更新分も含め)の公表が義務付けられるので、これを活用してどうか。
・社債の発行要項に関しては、既にデータとして株式保管振替機構に集約されているので、この情報を活用し公開される方法を検討するのが現実的。
・実際の売買に当たり、カウンターパティー(取引相対者)リスクを低減する為、機関投資家間で社債クリアリングを共有する方法が望まれる。
・更に、売買ニーズのマッチングの為に、機関投資家が自分にニーズを流通業者の証券会社に引き合えるシステムの構築(国債では既にある)が望ましい。 ・大和証券が個人向けに国債PTS(私設取引システム)を始めたが、個人向けにはこの様な取組みも必要。

 
2つのエクイティ・ファイナンス (6月29日)
 先週、今年の資本市場の流れを象徴するような2つのエクイティ・ファイナンスがあった。
一つ目は、25日に公表されたラオックス(8202)の約19億円の第三者割当増資。二つ目は、26日に公表された大和証券グループ(8601)の約2400億円規模の公募増資。
 一つ目は、会社の再生にかける業務資本提携に関するもので、既にニュース等では好意的に取り上げられているが、蘇寧電器など中国企業2社との業務提携に依る。ラオックスは、自らの再生について郊外型家電量販事業から撤退して、本拠地の秋葉原での事業集約にするという。そこにアキバというブランドに価値を見出す中国企業が、業務資本提携で救済していくという内容である。そのファイナンスの中身を少し詳細に見てみると以下の様になっている。
≪調達資金≫19億円
≪新規発行株数≫125百万株別途、新株予約権部分が20百万株(既発行が約68百万株なので、第三者割当の株・新株予約権を合わせると、新株主の保有割合は2/3超となる。)
≪発行価額≫株は12円、新株予約権の行使価格は20円(中国企業との提携の報道がなされる6月中旬以前は30円台の株価推移、有利発行となるので7月24日の臨時株主総会において、発行決議が必要)
≪資金使途≫15億円は、秋葉原事業の強化の為、残りの約4億円は昨年2月に他のファンドに発行した優先株の償還代金。
≪経営参加≫この増資により、中国2社から取締役4名・監査役2名の過半数の役員が経営に参加する。
≪ポイント≫発行価額の12円は、時価から低すぎるようにも見えるが、増資の緊急性・業務提携のメリットなど株価は大幅に上場、200円を超える場面もあった。しかし、このファイナンスの可否を決めるのは、約3400名の個人株主に委ねられている。

 一方、二つ目の大和証券グループの公募増資は以下の概要となっている。
≪調達資金≫約2400億円相当とみられている。(今後の株価次第では、一割程度減少する可能性も)
≪新規発行株数・売出株数の総数≫新株発行に係るもの344.6百万株と自己株売出し分57.8百万株の合計402.5百万株(発行済株式数の28.6%に相当)
≪発行価額≫未定7月8日〜13日までの日のいずれかの終値の90〜100%未満。
実際は、上記の期間の重要を勘案して投資家が払い込む発行価格(募集価格)が決定され、それから引受手数料数%を差し引いた発行価額分が払い込まれる。
≪資金使途≫
リテールビジネス及びアジア・新興国を中心としたビジネス拡大の為に、子会社の大和証券中心に1250億円、ファンド出資金として480億円、残り600億円強は借入金返済へ。
≪ポイント≫
昨年来の金融危機を契機にした金融機関の大型ファイナンスが以下の様に相次ぐ。
昨年12月、三菱UFJファイナンシャルGの約2900億円の公募増資(他に3900億円の優先株調達)
3月、野村ホールディングスの約2900億円の公募増資
6月、三井住友ファイナンシャルGの約8600億円の公募増資
5月公表、みずほファイナンシャルG約6000億円の公募増資(他に優先出資証券で約1400億円を6月に調達)

 この様に、金融機関の大型公募増資が相次ぐ意味を考えるのは、投資家なのだろうが、我が国の金融が、産業としてグローバルに戦っていくための必要な資本基盤と思えるように、斬新な事業戦略を示して欲しい。
金融機関は、資本市場によるところが大きいのだから、投資家や株主を感動させるような戦略取組みを、見せて欲しいと感じるのは、筆者だけだろうか。


個人という債券投資家 (6月8日)
 債券市況を述べる立場ではないが、昨年の金融危機後、各国の金融緩和政策を見込んだのと安全資産として、国債などの高格付け債券に、機関投資家や金融機関の資金が集まった。その反面、信用リスク不安から、一般社債市場は不調で、銀行の劣後債や一部の高格付け債のみの発行となっていたが、どうやら発行市場機能は、回復してきたようである。5月の国内社債発行市場は、25本で8,213億円の発行となったが、その中には、ソフトバンク債(BBB)600億円の発行があった。
 この債券は、期間2年で、利率5.1%というもので、個人投資家の人気を集めたようであるが、ここ一年ぐらいは、社債発行市場において、信用リスクをとることが可能な投資家としての機能を強めていた。
ちなみに、昨年度の個人向け社債の発行額は、2兆144億円で前年度の4,370億円から大きく増加しているが、このことは個人の安全資産への投資選考の結果なのだろうか。
 機関投資家が、安全資産への投資選考を強め国債への投資を増加させていた時期に、個人はその低利率から、国債への資金流入を大きく減少させていた。4月募集の個人向け国債は、募集額3,200億円と、1月募集の5,047億円からも大きく減少し、ピーク時の5分の1程度まで水準を落としている。
考えて見れば当たり前だろうが、個人投資家は機関投資家の様な安全資産へ投資する必要がなく、そのまま預金口座に置いておけばよい。機関投資家のとり難いような時期にも、信用リスク・為替リスクそして市場変動リスクを取ることが出来る。
上記の5月発行社債以外に、国内で個人向けに売り出された債券は、約2000億円あるが、高金利通貨の為替リスクを取る外貨建て債であったり、株式市場の変動リスクを利用するデジタル・クーポン債などがあり、債券を使った投資の多様性が見える。
CDS市場や証券化市場の崩壊から、今や市場機能で最も重要なことは、多様な価値観をもつ投資家を 確保することが常識となったが、その為に取引を標準化し、透明性を上げることが、どのような市場においても潮流となっている。
債券市場においても、そのことは例外でないと思うが、個人が債券市場に影響を与えていくほどの投資家になるには、まだまだ工夫が必要だ。
今月中旬に東証が上場を予定している債券のETF(日本を除くアジアの国債・公債に投資)は、個人が債券投資を行う導入商品としては期待されている。
また、賛否は別にして、本来は限られた者たちの取引であった外為取引で、FX取引(外為証拠金取引)が為替相場に影響を与えるようになったことを考えると、例えば日本国債を取引対象にした証拠金取引が整備されても良いのかもしれない。
 貯蓄から投資への受け皿は、何も株や投信に限られることではない。限られたプロの市場にも、個人が参加できる仕組みを整える努力をすることが、証券や金融に求められていることではないか。
ちなみに、CDS市場の整備に、個人も参加させるとの考え方はあるようだ。



新興市場について (5月21日) 
 企業にとってIPOは資本市場の入口であり、またIPOにおいて、新興市場の果たす役割は大きい。
 しかし、ここ一年の金融危機による資本市場へのダメージがなくとも、新興市場の機能に関する疑問符が、投資家のみならず、市場関係者といわれる発行市場業務に携わる証券業界の関係者間でも、出されていた。
確かに、財務報告に関する虚偽記載や極端な資本政策が問題となる新興企業もあったが、不祥事は新興企業だけの問題ではない。それだけで、投資家の信頼を失ったという訳ではないだろう。
 そんな中で、プロ向け新市場TOKYO AIMが今月中にも認可され、上場第一号が夏過ぎにも上場される見通しであることが、5月19日の東証社長記者会見で明らかにされている。
 この市場は、特定投資家という定義のプロと海外投資家しか売買に参加できないが、上場企業を市場に誘導し、かつ上場後もサポートするスポンサー制(J−Nomad=日本でノミネートされた上場アドバイザー)をとっており、この制度は英国の新興市場AIM(ロンドン取引所)のNomad制度を模したものである。
 実は、冒頭のような新興市場からの投資家離れの動きは、何も日本だけではなく、欧州などの新興市場でも、一時その傾向は強まっていた。しかし、スポンサーが強く上場企業をサポートするAIMの成功を見て、AIMの様なスポンサー制度を強化するのが、世界の新興市場での潮流となっている。
 東証とロンドン取引所の合弁会社が開設する新市場は、この制度を取り入れスタートするが、6月中旬には、日本やアジアの新興企業を上場サポートするJ−Nomadが選定・公表されるようである。
 一方、既存の新興市場はどうするかというと、日本証券業協会によるワーキングチームにおいて、同じく19日に、新興市場のあり方に関する報告書が発表されている。
 新興企業を市場へ誘導する仲介者=証券業者からの新興市場改革の提言がされていて、概略は以下の様になっている。
○上場審査時における引受証券と取引所間の情報共有の強化
○上場後も新興企業へのサポートを強化するため、スポンサー制度を参考に、企業との情報交換を強化する
○流動性向上に向けて、マーケットメーク制の改善等の検討を行う
○上場廃止基準について明確化・厳格化
○新興企業の情報発信を支援・強化する取組を行う
●公開価格のプライシングにつき研究
◎アナリストカバーを上げるため、新興企業に対するレポートに褒賞制度導入を検討
関係者には大変申し分けないが、なんだか具体性に欠けた内容になっていて、グリーンシート市場に関しては実務的提言さえない。
 新興市場の一番の問題は、何なのだろうか。
新興企業の情報が不足するのであれば、◎は直ぐに取り組んで欲しいし、新興企業が市場ルールに慣れていないのならスポンサー制を取り入れるべきだろう。但し、上場主幹事にスポンサー的対応を取らせるのではなく、スポンサー自体がメリットのある仕組みでなければ、制度の実効性と継続性は確保できない。
●は、筆者の私見だが、この問題が持続的な売買に障害を与えていて、新興市場問題で一番重要なことではないかと思う。
 つまり、公開価格の2倍近い値段で初値が付くようなプライシングを放置した結果、一般の投資家・機関投資家が離れるような状況になったのではないか。報告書では、プライシングについて研究を行うとあるが、プライシングの実態を詳細に調査し、企業のフェアバリューに近づける努力を、証券業者にさせることこそ、企業・株主・投資家3者が、メリットを受ける新興市場を、持続させる要諦だと考える。  


IPO市場回復の為には (4月27日) 
金融危機により、資本市場全体が萎んでしまったが、金融当局や政府系金融機関によるCP・社債買取などで、大企業の利用する分野では、多少の改善傾向が見える。しかし、証券化市場は引続き停止状況に近いし、信用デリバティブなども回復には、まだ遠い。まして、小企業が資本市場を利用するIPOは、復調の兆しも見えない。
 昨年度のIPOは49社となって、16年ぶりの低水準となっているが、そんな環境下で、プロ向け新市場TOKYO AIMが始まろうとしている。
厳しい経済状況にあって、企業側のIPO意欲はどうなのかというと、4月24日、帝国データバンクによる2009年度の株式上場予定・希望企業の動向調査が、公表されている。
 株式上場予定・希望企業の動向調査
 この調査は、帝国データバンクが、独自の調査で上場希望ありとした企業や、ベンチャーキャピタルが出資した企業に、調査票を送付して実施された。(2009年度は4,346社に送付し、1,605社が回答)
 何点か、気になる点を上げてみる。
一つは、厳しい経済状況の為なのか、上場希望企業数が860社と前年度に比べて120社以上も減っているが、これは2004年度(1,412社)から毎年減少していること。
二つめは、上場目的の第一位が、知名度や信用度の向上(75.5%)で、資金調達力の向上(59.9%)を上回っていること。
 投資家側からみると、IPO企業は成長力があってこそ、リスクマネーを提供するのであるが、リスクマネーを必要とする成長企業数が、減っているのであろうか。確かに、2002年以降のベンチャーファンド投資ブームが、一段落した観はあるが、成長企業数が4割も減少するような経済情勢が、5年以上も続いているのだろうか。
 この間、企業不祥事が相次いだり、金融商品取引法の制定もあり、公開企業の開示負担は相当増加した。また一部企業のMSCBが問題になり、企業ファイナンスが、結果として制限される方向のバイアスが、強まっていた。つまり、新興企業にとって、上場後のコストが重い割には、ファイナンスのメリットが受けにくい市場になっていったのでは、という疑念を持つ。
 勿論この問題は、新興企業をIPOのステージに上げ、その後のファイナンスをサポートしいく市場仲介者としての証券会社の責任が、大ではある。
 しかし、調査にある上場希望860社の内、まだ稼働していないTOKYO AIMや海外市場上場を希望している企業が56社もあるのは、日本の既存新興市場における上場維持コストやファイナンス機能を問題にしているのではないだろうか。このことは、3つ目の気になる点である。
 TOKYO AIMは、プロ向け市場なので、制度開示が一部軽減されて、四半期開示や内部統制報告書は必要ない。また、ロンドン取引所の参加者も、直接市場参加できることから、欧州のリスクマネーも期待できる。シンガポールの新市場カタリストも、アジア企業のみならず日本企業へのアプローチも伝えられる。
 既存の新興市場にも、企業の負担を軽減する仕組みや、リスクマネーを引き付ける取組みが必要だろうが、結局は、その市場に直接参加する市場仲介者=証券会社の自助努力に、頼るだけでは心もとない。プロ向け市場が開設されることで、既存の新興市場も活性化されることを強く望むが、その為には、新興企業のメリット・市場仲介者のメリットを打ち出す新しい取り組みを、新興市場運営者に期待したい。
 



J-Nomadと主幹事 (4月9日) 
 いきなり専門用語、それも先の方は、まだ正式には使われていない言葉から始まってしまったが、このどちらの言葉も、企業を資本市場と結び付けていく上では、重要な機能を果たしている。
 先のJ-Nomadは、今月下旬にはスタートすることが予想されている新市場Tokyo AIMにおいて重要な市場仲介機能を持つ指定アドバイザーのことである。
 Jは日本という意味、ではNomadはというとNominated Adviser=指定アドバイザーのことで、誰が指定するかと言えば、新市場Tokyo AIM(=Alternative Investment Market)に上場を希望する企業が指定をする。その機能を簡単に紹介する。
○上場前の企業に対して
・上場プロセスについてアドバイスを行い、当該会社の上場適格性に関する調査・確認を行う。
・新規上場に関する事務を行う。
○上場後の企業に対して
・上場企業に開示義務等を順守させるとともに、その開示事務を行う。
・アナリスト・レポートが広く発行されるよう努力する。
○上場後のマーケットメーク等の流動性に努める【流動性プロバイダー】(自ら兼ねても良いが)を確保するように努める。
 といった、通常の主幹事業務と取引所業務の一部まで取り込んだような手厚い対応を、企業に対して行う機能を持つものである。
 グローバルな新興市場として成功しているといわれるロンドン取引所のAIMにおけるNOMAD制度を、ほぼ同様の形と取り込んでいる。
 以前の店頭取引市場(=現JASDAQ)において、ディスクロージャーに対する指導義務を負っていた主幹事制度を思い出したが、更に企業には手厚い対応となって、開示そのもの上場会社を代行して行うことには多少の驚きを感じる。
 一方、各国の不振の新興市場でも、このNOMAD制度と同様のものに移行することによって、新興市場を活性化しようとする流れが出来ていて、この方法がグローバルスタンダードなのだろう。
 ただし、新市場への仲介者としてのJ-Nomadのハードルについては、アドバイサーとしての実績はまだしも、専門知識や実績の要件を求められる専任者3名以上の確保など、相当に高いと思われる。
 かたや主幹事については、旧店頭取引市場の開示やルールの遵守等を指導する主幹事制度が無くなった今は、四季報等のアンケートによって決まる名目的な地位である。(ファイナンス時の主幹事・幹事ではない)
 しかし、実態としては、企業から資本市場に関連する要請を真っ先に受ける可能性が高いこともあって、証券会社が落とせないポジションでもある。
 J-Nomadは企業との契約が必要なので、その対価たる報酬も適正なもので受けていくのだろうが、一方の主幹事だけは、基本的に無報酬で相談に、のらざる得ない。
 主幹事としての対価は、将来のM&Aやファイナンスなど資本市場での大きなディ―ルの期待に支えられているのだろうが、J-Nomadの機能は、資本市場に関するアドバイス業務が専門化・洗練されていく過程となるかも知れない。
 適正な価値には、適正な価格を、・・・アドバイスであっても。
  

 


 リーマン破綻と日本の決済システム (3月12日
 日本にとっても、戦後最大の金融機関の破綻となったリーマン・ブラザーズ証券。
昨年9月16日に日本においても民事再生手続き開始の申し立てを東京地裁に行った後、市況は別にして、前回の金融危機1997の三洋証券破綻時に比べると、業界での混乱は、それほど大きくなかった感がある。
 それは、リーマン破綻後の、証券決済関連の対応が、比較的迅速に行われたからで、この事につき、日本銀行が、以下の検証報告レポートを公表した。
 概略は、国債取引に関しては、9月分だけでも数兆円規模あったようであるが、相対決済の部分は、取引相手の事後的キャンセルがなされ、その取引相手のポジション再構築も、数営業日で終了したようである。
また、国債の清算機関利用分・株式や上場デリバディブの取引所取引に関しては、各清算機関による一括清算がなされ、資金の支払・玉の引渡等も、概ね9月中に解消した。9月中は大幅にフェールが増加したようではあるが、このリーマン関係の清算による損失は、リーマン提供されていた担保の処分で充足されたようで、各清算機関の資金繰りにも、問題は生じなかったとのことである。
 前回の金融危機後、清算機関機能の強化をしてきた事や、DVP取引の普及で、危機の拡大は決済面には防げたということだろうか。

 ただし、今後の課題として以下の点を挙げている。
(1)清算機関におけるCCP(Central Counterparty)機能の向上
 ・フェイル解消対応の更なる迅速化
 ・資金調達対応の安定性向上
 ・所要担保額計算に関するモデルの精緻化
(2)清算機関のカバレッジ拡充
 ・参加者、対象取引の拡大
(3)その他市場全体として取り組むべき課題
 ・国債決済サイクルの短縮(T+1化)

 国債取引に関しての清算機関利用は、4割程度なので、取引参加者の努力は、まずはここからかもしれない。
一方、上記ではカバーされない相対取引についてのカウンターパーティーリスクは、自己責任ということだろうか。
折しも、CDSについては店頭ディリバティブであるはずだが、その影響が大きかったことから、清算機関を作ろうという動きが強まっているようにも思う。
 いずれにしろ、コストやリスクを負担すべきは、取引参加者である金融機関の問題であるから、当然参加者の自覚が求められもする。

リーマン・ブラザーズ証券の破綻がわが国決済システムにもたらした教訓


優先株とMSCB(3月4日)
 最近、毎日の様に報じられる欧米大手金融機関の国有化問題であるが、その公的資金の注入の多くは優先株の形でなされている。流通する普通株式とは大きく異なる投資条件を付けることが出来るので、新たな資本の出し手の不安を減じることが出来る。今なら、米政府が米国民にちゃんと説明できる投資の有利さといったところか。
 その有利な条件の中には、配当が高かったり、資本の返済期限があったり、普通株への転換する条件が通常よりも有利だったりする。この様な手法は、前回の日本の金融危機における銀行への資本注入時には多用され、金融機関の再生(?)に大いに役立った。
この様な調達スキームを、金融機関以外に、再生企業や新興企業が利用したのが、普通株式への転換価格を発行後に時価の下落した場合に合わせて修正できる下方修正転換条項付新株予約付社債(MSCB)であった。
 しかし、企業の調達目的とは裏腹に、特に新興市場銘柄では、調達先が第三者割当で内外の証券会社及びファンドが多く、その後の株価下落を招いたと見られた為、実質的には発行が規制されるようになったのが2年前の夏。
3月3日のジャスダック取引所の、ジャレコ社債で注意喚起といった記事で、久し振りにMSCB規制を思い出した。
 規制の概略(証券会社を規制するもの)は、
    ○MSCBを発行の合理性を確認
    ○時価以下に転換価格が修正される場合、(たとえば時価の90%に修正)
      ☆売り下がりの禁止
      ☆一日の出来高の25%までの売り
    ○発行の目的が、業務提携・資本提携以外なら、
      ☆月間の普通株での転換は、発行済み株式数の10%まで
    ○MSCB保有者からの売り注文は、上記の規制を遵守するよう要請
  等、
詳しくは、会員におけるMSCB等の取扱いに関する規則
となっている。
 今回のジャレコ社債については、関係者ではないので解説は避けるが、記者発表分を読んだ限りの感想として、記載者の真面目さは感じるが、やはり資金使途については不明と言わざるえないのが残念である。
   
       
 
 こんな今こそ、ハイブリットなIPOビジネスを   (2月26日)
 減少続く新規上場、監査法人が顧客獲得へ攻勢――といった2/26の日経記事に、業界関係者として一瞬違和感を覚えた。
 確かに、この様な市況の中でIPOそのものの減少は予想されていて、一時は年間200件近くあった新規株式公開企業も、昨年は49件、この1〜2月にいたっては17年ぶりに0という関係者にとってはショックな数字となっている。
 IPOビジネスを縮小・撤退するネット証券の事も報じられていたが、IPOのビジネスは証券にとって手間の掛かるビジネスモデルなので、そもそもネット証券でのフルラインは無理があった。
  1.IPOの可能性のある企業の発掘の為の営業活動
  2.対象企業の株式公開の為に行う、財務・経営コンサルティング
  3.株式公開準備の為の取引所審査に対応する指導・コンサルティング
  4.企業価値に対する考え方の整理
  5.そして、ようやく株式公開対応
と、簡単に工程を分けても以上の様になるが、期間は少なくとも2〜3年、チャイニーズウォールもあるので、3〜4つの部での対応が必要となる。
 5.の部分が華々しかったので、多くの業者の参入があったか、今までのIPOビジネスは、証券会社にとってかなり重装備の装置産業であった。大手業者にとっても、大型の民営化案件でもなければ、この重装備の維持は難しかった。
 しかし、このIPOは、企業を資本市場の入り口に連れてくる大事な機能があるので、金融・資本市場関係者は、一層の努力をする必要があると考える。例えば、
  1.については、地域金融機関や地公体との連携を強め、この部分の営業活動を効率化する
  2.〜3.につては、日経記事にあったように、監査法人系コンサルと協働若しくは委託する
など、金融アンバドリングの流れに沿った分業体制の構築も必要だろうし、EXITに困っている地域ベンチャー対策として、プロ専用のIPO市場の構築などがあるべきだ。
 もともとIPOは、リスクマネーを必要とする企業へ、資金を供給する機能。そんな基本に立ち返れば、以下の環境投資とファンドが結びつくような、ハイブリットなIPOが出始めても良い。

大和総研提供レポート
  
拡大する市民風車等と今後のファイナンス・モデル

それでも、やはり学ぶべし米国金融  (2月19日)
100年に一度の経済危機の発火点となった米国金融。確かに投資銀行という業態(投資銀行業務という機能は、引続き重要です)は無くなってしまったが、金融が産業として成り立っているだけに、我が国の金融機関が学ぶべきことが多い。
 米国における商業貸出しの約2割を占める動産担保ローン(売掛債権や在庫などを担保)=ABLに関して、日本政策金融公庫が調査レポートを発表した。
 米国では、無格付けやBBB以下の中堅企業のファイナンスに使われることが多いが、最近はM&AやLBOなどの際の資金調達手段としても使われるようになっており、通常は数十億規模・3〜5年の貸出しも、大口化するケースも見られるようになってきたという。
 換金性の高い動産だから注目されているわけではなく、貸し手側はむしろ
    ☆企業のゴーイングコンサーンを旨
としており、事業の安定性・継続性が重要な判断基準となっている。
これを支えるのが、
    ☆モリタリングの徹底
であり、
    ☆その実務を担うサービス専門会社
であるが、米国金融業の強さは、この様なファイナンススキームを支える専門会社の裾野が広く、また独立したビジネスとして成り立っていることだろう。このローンの実地調査をする専門会社では、在庫把握の為、商品をGPSで追跡もするという徹底さが報告されている。
日本においても、このABLを活用しようとする動きは拡大しているようで、2005年10月に動産・債権譲渡登記制度が施行、2007年6月にABL協議会が発足している。
 金融とは何か、改めて考えさせられるレポートである。

日本政策金融公庫レポート

ポイント
米国におけるABLの機能と実態

ファイナンス―市場仲介者はもっと頑張ろう(東洋紡の資本調達)  (2月18日)
金融危機の解消は、未だ遠しの市場コンセンサスのようだが、企業に資金を供給する金融本来の機能について、日銀の買取機能に期待するのではなく、金融機関自らがもっと頑張って企業ファイナンスに取組むことも必須だろう。
 昨日公表された東洋紡のファイナンスに関して、簡単に解説したい。
☆目的:資本調達(但し連結ベース)
☆手段:
 その1=ケイマンにSPCを作り、優先出資証券を220億円発行
 その2=金融機関8社が同優先出資証券を購入
 その3=東洋紡が永久劣後債を同額発行し、それSPCが購入、結果として上記金融機関の資金が東洋紡に渡る。
☆効果:東洋紡本体は永久劣後債という資本性の強い負債だが、連結ベースで約160億円の資本にカウントできる。(220億の劣後性負債が約160億の資本にカウントするのは格付け機関の評価)

以上が公表ベースだが、少し補足(筆者の推測も入る)すると、
☆目的:金融機関からの借入を減らして財務基盤強化(つまり資本として調達したものを、借入の返済に充てるのだから、会社にとってはデットエクイティ・スワップの効果に近い)
☆効果:会社が発行する永久劣後債は、いつまでも償還しないのではなく、約6年半後にコール条項がついて、東洋紡の意図で返済できる。その間、約4%台の金利を金融機関に払うことになる。
また株で160億円の調達をしようとすると、現状だと1.2億株発行(発行済みの約17%)しなければならないので株価下落も想定された。
☆影響:負債を減らし、資本を強化するのだから、東洋紡の格付け維持若しくは向上にプラス。金融機関にとっては、貸出金が返済期日の不安定な劣後性負債に変わるが、その分金利収入はアップする。株主にとっては、株価に直接影響なく、多少借入金利アップで社外流出は増えるものの、財務基盤が強化される会社になる。と、一応3者一両得のスキームとして現状では評価されるのではないか。

金融危機からの経済環境悪化で、財務基盤を強化したい企業は多々あると思うが、株式での調達が困難な現状にあっては、この様なスキームを地域の企業までが活用できるような、市場仲介者機能の頑張りが、証券や地域金融機関にも求められているのではないか。

東洋紡
ハイブリットファイナンスによる資金調達



   

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