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市況・新金融商品


 
市況・新金融商品について
金融商品としての排出量取引 (9月17日)
新政権への業界の期待 (8月31日)
FX取引について (8月28日)
取引所外取引とPTS (8月27日)
CDSの現状について (8月11日)
小よく大を制すか、個人投資 (8月5日)
長期投資システムとしての401K  (8月3日)
所謂ラップ口座について  (7月29日)
リーマン・ショック後の株式市場 (7月2日)
日本の投信そして世界の投信動向 (6月30日
保険という金融商品 (6月22日)
引き続き、取引所という機能-そして欧州の場合 (6月10日)
取引所という機能 (6月9日)
金融からみた不動産 (6月4日)
祝・新取引所 (6月1日)
大と小―資本市場の場合 (4月24日
CDS取引システムの早期の強化を (4月15日)
金融商品としてのCFD (4月14日)

3つの取引所 (4月7日)
上場ETF対象の他社株転換可能債−基本的には賛成します (3月13日)
金融商品としてみる商品先物−そして市場 (3月11日
優先株とMSCB (3月4日)
いつ治まるのか、金融不安 (3月2日)

排出量取引―金融商品としての取り扱いを早期に!  (2月13日)
金融危機、少しだけ単純に考えてみよう  (2月11日
   
 
金融商品としての排出量取引 (9月17日)
政権ネタはかり追うのは本旨ではないが、新政権は2020年までに二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスを1990年比25%削減する高い目標を掲げた。これに対して、17日に日経に掲載された新日鉄会長のコメントは、無理な削減目標では、生産拠点を海外に移さざる得なく雇用も減り、また中国やインドなど新興国を利するだけだと、相変わらず強い抵抗を示している。しかし、民主党は、日本でもキャップ&トレード方式による実効性のある国内排出量取引市場を創設することを政策として公表している。
 ここで、金融商品としての排出量取引の概要について、少し整理して考えてみたい。
排出量取引は、金融商品取引法において金融商品として定義付けられている。また、金融商品である以上、金融商品取引所において上場及び取引が可能であることが、排出量取引市場拡大にとって必要であるので、東証の事業計画にも、排出量取引市場創設への検討という項目が、2年連続で盛り込まれている。
また、日経・JBIC排出量取引参考価格では、1トン当たりのCO2は、1751.6円(9月14日)となっている。この排出量取引に関して、金融的視点で見直すなら、それは実際の経済活動によって発生するCO2など温暖化効果ガスの削減枠に対するデリバティブ取引と見なすことが出来る。加えて、この金融商品は、通貨の様な性格をもっている。それは、国際的に流通する通貨もあれば、国内で主に流通する通貨、そしてある特定の地域にしか通用しない地域通貨・・・イメージとしては、この仕組みに近い。
【国際通貨としての京都ユニット】
全ての排出量取引のベースになる仕組みだが、以下の4つに通貨の呼称及び取扱い可能者が分かれる。(但し、単位は1t当たりのCO2量)
AAU(Assigned Amount Unit):京都議定書に参加した先進国に割当てられた排出量枠。取引は国のみ。
RMU(Removal Unit):森林拡大部分など加味して、追加した排出量枠。取引は国のみ。
ERU(Emission Reduction Unit):主に東欧やロシアなどに割当て枠で、省エネなどの削減プロジェクト(JI)を実施すると与えられる。個別企業も売買することが可能。
CER(Certified Emission Reduction):主に発展途上国に割り当てられた枠で、個別企業の削減プロジェクト(CDM)に対して与えられる。個別企業も売買することが可能。
※ERUやCERは、例えば火力発電所に代わりに水力発電所を建設したことによるCO2削減予定枠を売買するということになり、京都クレジットと呼ばれる。実際の売買は、CDMによるCERが多い。
【欧州通貨としてのEU−ETS】
 2005年からスタートしているEU域内の排出量取引EU−ETS(European Union Emission Trading Scheme)は、EU域内の大企業の発電所や工場など1万ヶ所以上に対して、温暖化効果ガスの排出量枠を割当るキャップを行い、それを取引するトレードを行わせている。キャップを適用された企業は、必要に応じて排出量EU−ETSを売買するが、それ以外にもトレード主体の業者の売買も認められている。この制度のポイントは、上記の国際通貨である京都ユニットと、このEU−ETSが交換可能な仕組みとなっており、EU−ETS取引の影響が京都ユニットに及ぼす影響も大きい。
【日本の制度:国内排出量取引制度】
 日本国内においてのCERを中心にした京都ユニットの輸入やそれに伴う売買は、電力会社や業界団体の実需をベースに、商社や排出量取引仲介業者も参加して、店頭取引(OTC)で行われている。国内通貨の状況としては、環境省・経済産業省中心に試行的に行われていたが、昨年10月より国内クレジット制度が始まり、以下の概要となっている。
・参加主体:事業所・個別企業(トレード主体の金融機関も可能)・鉄鋼及び自動車の業界団体
・取引対象:今までの試行制度で交付された排出枠、京都ユニット、“国内クレジット”
・国内クレジットについて:この制度に参加する企業が自主的に削減目標を設定、不足が予想される部分は、中小企業などの削減プラン(大企業が技術・資金支援=このプランは政府の委員会が承認する必要がある)を国内クレジットとして購入し、削減枠を達成する仕組み。ちなみに、国内クレジットについては、7月までに約1600トン分(約280万円分)が承認されている。(省エネ法により、削減目標を求められるものは、2010年4月からは、年間のエネルギー使用料1500klの事業者が対象となることが決まっている。)
 現在は、欧州でのキャップ・アンド・トレードとは程遠く、取引所の必要性は見いだせないが、民主党による実効性のある政策で、強制的に削減枠を割り振るキャップ・アンド・トレードが実施されれば、多くの排出量取引需要が生まれる。京都ユニットにおけるCERの様に、国内クレジットも大手企業の削減目標に沿って中小企業が温暖化効果ガス排出量削減に参加することは、中小企業の技術・経営改革にも繋がるので重要な仕組みだろう。しかし、それらの有効にするためには経済効果が明確になる市場原理を使うべきだし、その条件として国内クレジットと国際通貨の京都ユニットの交換を円滑化する仕組みも必要だ。そうすれば、一律の温暖化対策税に頼る必要がない排出量取引市場が、日本に生まれるかもしれない。


新政権への業界の期待 (8月31日)
 政権交代選挙も行方が定まり、安定勢力を確保した新政権に対して、標題の様なことが実際にあるかどうか別にして、金融・資本市場に影響のありそうな政策につき、見てみたい。
【公表されている最終の民主党マニフェスト政策各論より】
 国会を企業に例えるなら、福利厚生面に重点をおいたものが多く、金融・資本市場に直接関係ありそうなものは少ないが、敢えて上げると以下の3つの政策がある。(全体は55の政策各論)
・租税特別措置法を見直し、真に必要なものは「特別措置」から「恒久措置」へ切り替える。=これにより、みなし配当課税や非居住者利息の源泉徴収問題が整理される可能性がある。
・歳入庁の創設構想(国税庁+社会保険庁)があり、税と保険料を一体的に徴収するため、共通の番号制度を導入する。=金融所得一体化の議論も加われば、総合的な損益通算制度が進む可能性がある。
・地球温暖化対策を強力に推進する為、キャップ&トレード方式による実効ある国内排出量取引市場を創設する。=現在、東証を中心に検討されている排出量取引市場創設に向けた動きが、具体化・加速化する可能性がある。
 民主等が、7月中旬に纏めた政策集INDEX2009には、もう少し具体的な業界への施策が書かれている。
【政策集INDEX2009の財務・金融関係より】
・健全な金融市場の育成として、証券取引等監視委員会を改編し、独立性が高く、強力な権限を有し、幅広い金融商品取引を監視する「金融商品取引監視委員会」(日本版FSA)を創設する。また、日本の金融市場の国際的な地位向上を図り、経済を活性化するためには、「貯蓄から投資へ」の流れを加速させることが重要としている。
・公開会社に適用される特別法として、情報開示や会計監査などを強化し、健全なガバナンス(企業統治)を担保する公開会社法の制定を検討。
・包括的な金融サービス・市場法を制定し、銀行・証券・保険・商品(現物・先物)会社等によって販売されるすべての金融商品に対する包括的・横断的な投資家保護法制の整備を図る。
・地域への貢献度や中小企業に対する融資条件などの情報公開を通じて、金融機関同士の健全な競争と経営を促すために、「地域金融円滑化法」を制定。
※其々が実行されると、その影響が大きい様にも思われるが、名称や組織は別にして、其々の現場において、政策の目指す方向で実態が進行していることも多いと思われる。
【政策集INDEX2009の税制・その他より】
・「総合課税」が望ましいものの、金融資産の流動性等にかんがみ、当分の間は金融所得については分離課税とした上で、損益通算の範囲を拡大する。証券税制の軽減税率については、経済金融情勢等にかんがみ当面維持。
・ベンチャー企業の株式購入時に投資額の一定割合を税額控除できる制度の導入やエンジェルネットワークの設立・運営を支援。
 以上の様な政策概要だが、金融・資本市場関係に関していうと概ね大きな方向性は変わらないようだ。
また、新政権への期待もあり市場は堅調なようだし、国債市場も取りあえずの需給から強い。この様な状況に、業界自らが安堵することなく、新政権の政策ベクトルを読んで、日本の金融・資本市場が抱える問題解決の政策提言を行っていくべきと考える。
 例えば、子育て支援に手厚い政権なら、英国のチャイルド・トラスト・ファンドの様に、子供が18歳になるまで、年間投資額100万円までのキャピタルゲインを含む利益に対する課税を免除する累積投資制度導入すれば、子供は大学の学資を自分で賄う仕組みも可能になる。また、年金制度を一本化するのであれば、年金の自助努力を誘導する政策として、主婦や公務員に対して日本版401K(マッチング拠出は、税制改正で認められたが、法案が国会審議出来ず廃案になったが)を解禁する。その様な本気の提言を、業界としては行っていく時期と考える


FX取引について (8月28日)
 証券業(第1種金融商品取引業者)において、FX取引(外為証拠金取引)は高成長分野のようだ。
一般の認識においても、この2〜3年で随分と変わってきて、いい意味で一般化しているようにも思うが、本来の外為市場における存在感も、機関投資家・輸出入業者・ヘッジファンドに並みになってきている。
 先ず、FX取引の現状は以下の様に拡大している。
【店頭取引分】
・平成21年7月の取引金額は、179兆7,418億円(前月比12.0%増)
[同月末の売建玉は7,942億円、買建玉は1兆2,872億円、円キャリー額(円売建玉から円買建玉を差し引いたネットの円の売建額)」は、5,261億円](金融先物取引業協会調べ)
【取引所取引分(東京金融取引所)】
・平成21年7月末の証拠金残高は、1,033億円、口座数は約16万口座
【FX取引全体の推計】
 調査会社によると、FX取引全体の数字は、本年度推計で証拠金額は7000億円、口座数260万口座という数字もある。また、日銀の調査レポート(本邦外為証拠金取引の最近の動向:平成21年8月)によると、一日の取引量は、平均で3・6兆円に達し、円と他通貨のスポット市場に占める割合の14.5%まで達している。(平成20年1〜3月ベース)
 次に、FX取引の実態についても、日銀レポートによる調査報告があるので、その概略を紹介したい。
【FX取引の特徴】
勿論FX取引(外為証拠金取引)の取引は、主婦のみならず個人が主体なので、以下の様な取引の特徴がある。
・基本的には、円売り・外貨買いが主体であり、又低金利通貨の円の特性を活用する金利差収益(スワップ・ポイント)狙いの“キャリー取引”も多い。
・短期的な相場変動と反対方向のポジションをとる“逆張り取引”主体であること。ヘッジファンドなどが順張り傾向あるのとは異なる取引傾向。
・レバレッジ(証拠金に対する建て玉の比率)は、平均するとそれほど高くはなく約6倍程度とみられる。
・米ドルから、高金利通貨へ運用がシフトしているが、NZドルや南ア・ランドは、元々のスポット取引市場も小さいので、FX取引の影響度が増しているとみられる。(グローバル取引の4〜5%にも及んでいるようだ。)
 この様に、FX取引は金融商品としての拡大だけではなく、経済取引としてのプレゼンスも上がってきているが、一般の認知度も、調査会社によると、30〜50代のネット利用者の8割超が知っていて、FX口座を持たない人の約4割超が、FX取引に意欲や興味がある。高いポテンシャルを持つ金融ビジネスに成長している。
【大証FXスタート】
 この様な状況下で、大阪証券取引所が先月21日、新たに取引所外国為替証拠金取引「大証FX」をスタートさせているが、以下の特徴を持つ。
・取引方法は、オークション方式にマーケットメーカーの取引を参加させる複合的な方式をとって、マーケットメーカーの気配情報もリアルタイムで公表している。
・投資家が差し入れた証拠金は、大証が管理し、受入証拠金残高を投資家が直接Web上で確認することが出来る。
・株式や債券等で、証拠金の代用とすることが可能。
テリバティブ取引に注力する大証ならでわの様々な工夫が見える。

 ここで、業界として考えるべきことは、何故FX取引がこれだけ拡大してるのかではないか。
・FXは、個人にとって現在は機関投資家とほぼ同程度の市場情報が入手しやすい。
・参入障壁は低い為、商品先物業からのみならず新規参入が相次ぎ、結果サービス競争が激化して、投資家側が、幅広いサービスを受けられるようになった。
・レバレッジ競争の結果、個人の投機家の存在を許容し、結果として幅広い投資ニーズを吸収し、取引の多様性を確保できた。
 つまり、FX取引の透明性・多様性の確保と、市場・行政の寛容性があったと思う。
  


取引所外取引とPTS (8月27日)
昨日に続き、8月25日の東証社長記者会見内容から取り上げるが、マザーズ改革以外にもう一つの制度改正があった。それは、取引所の立会外取引である“ToSTNeT−1”の取引時間を、現在の午後4時半から一時間延長して5時半までにするというものだ。“ToSTNeT−1”は、主に大口取引の媒介取引などに使われることが多いが、延長するには、この取引システムを使う証券会社側(投資家間の売買の媒介行為を含めて)のニーズが、この時間帯に多いということだろう。実際、東証社長のコメントも、米国など取引価格の公正性の問題があり、欧米のPTS(多分欧米証券会社内の顧客間取引を付け合わせるクロッシング・システムのことを指していると思われる)などがら、東証システムを使わせて欲しいと要望があり、その結果だと述べている。実施時期は11月を目途としている。
 一方、個人の取引所外取引は、私設取引システム(PTS:Proprietary Trading System)でしか対応できないが、最近は、大手証券の参入もあって伸びているようだ。売買金額について見てみると、今年6月、7月のPTSで取扱分は、それぞれ3000億円に達した。勿論、取引所取引(7月分:34兆8513億円)には、遠く及ばないが、取引所外取引(7月分:1兆8269億円)の約17%を占めるまで成長している。
 このPTSは、金融ビックバンによって取引所集中主義が撤廃され、証券における認可業務として認められたことから始まった。5年前の平成16年7月のPTS月間取引金額は、70億円、取引所外取引に占める割合も、0.5%に過ぎなかったが、最近2年でのPTS参入も6社と倍増したこともあって取引を伸ばしている。
 PTS各社の傾向としては、ほとんど夜間取引からスタートしており、一部は昼間取引に拡大し、他社接続も認めて、流動性を高めていこうと努力している。
PTSは、許認可業務でもあるので、金融庁よりその認可の条件として、最良気配や取引価格等を他のPTSと比較できるような形で、リアルタイムで外部から自由にアクセスすることが可能な方法により公表する“売買報告制度”がPTS各社に義務付けられている。その公表手段として、日本証券業協会により「私設取引システム(PTS)価格情報等公表システム」(PTSシステム:PTS Information Network)がWeb構築されていて、このサイトにアクセスすれば、誰しもが各PTSの公表する各銘柄の気配情報・約定情報を閲覧し比較することが可能となっている。
 取引時間は、6社あるPTSのうち、2社が23時59分まで、他の2社が翌日の午前2時までとなっていて、夜間取引に4社が対応している。取扱対象は、ETFやREITも含めてほぼ全銘柄が3社、約1800〜2000銘柄が3社となっている。
また売買価格決定方式は、以下の5つがあるが、各PTSは顧客の使用目的に応じて複数の方式を用いている。
・市場価格売買方式:終値やVWAP(売買高加重平均価格)を用いて売買する方法
・顧客間交渉方式:顧客同士が価格や数量等の条件について交渉していき、双方が合意に達した条件のもとで売買する方式
・顧客注文対当方式:顧客の提示した指値が、取引の相手方となる他の顧客の提示した指値と一致する場合に、その指値を用いて売買する方式
・売買気配提示方式:証券会社(マーケットメイカー)が一つの銘柄に対して複数の売り気配・買い気配を提示し、これらに基づく価格を用いて売買する方式
・オークション方式:平成17年4月より新たに認められた売買方式。取引所と同様のオークション方式により売買を行う事が可能で、板寄や成行を行う事も可能である。ただし、本方式では、他の方式にはない数量規制がある。
 手数料については通常の半額以下の均一手数料で取扱う証券会社もあり、個人利用を促する為の取組みも行われている。
まだまだ欧米(米国ECN、欧州MTF)の様に取引所を脅かす存在となるには遠いが、多様な取引システムで投資家が便益を受けるのが大事なことと思う。東証の持続的改革を促進していく為にも、PTS各社は頑張って欲しい。



CDSの現状について (8月11日)
 十数年前、CDS(クレジット・ディフルト・スワップ)に筆者が金融マンとして初めて接した時、ある種の感動を覚えた。企業の信用力を、デリバティブとして取引できる事に対してである。あの会社は、財務状況が悪化しているから、CDSを売っておこう、―――お金を貸してもいないのに、そんな事が可能となるデリバティブとして期待した。しかし、その頃も、信用力の低い企業が社債を発行する為に、信用力の高い保険会社に保証してもらって社債を発行するというスキームがあった。企業は、保険会社に保証料を支払うのだが、CDSはこの保証料が変形したものに思える。
【基本的仕組み】
倒産リスクやデフォルト・リスクを回避したい金融機関・投資家が保険会社等に保証料を支払うのが原型で、CDSの買い手はこの場合プロテクション・バイアーと呼ばれる金融機関・投資家、売り手がプロテクション・セラーと呼ばれる保険会社、そして保険料がプレミアム。
【基本的な問題】
 CDSは、2000年代に入り、ほぼ毎年取引残高が倍増するように増加してBISによると2008年には、57兆ドルまで想定元本が増加した。CDSは、そもそもデリバティブ(派生商品)なのだが、その元となる企業へのローンや社債発行が、毎年倍々ゲームで拡大するはずはない。対象となる企業は、社債が独自で発行可能な、成熟した大企業なのだから、いくらグローバル化で資金需要が増えても、負債が倍増を続けるはずはない。では何故かというと、CDSプレミアムそのものを、金融機関同士で流通しだしたからだ。同じA社のCDSを、金融機関同士で何度か売買すると、その売買取引条件が多少違えばCDSの取引残高として元のA社のCDSの何倍も膨らむ。そんな膨らんだCDSの受け皿として、AIUと証券化商品のCDOが上げられる。
 AIUは破綻すると、金融機関への連鎖不安が起きるし、CDOは値段が付かないと保有する金融機関の不良資産になる。今回の金融危機の原因として、サブプライム・ローンと並んで主役格にCDSが上げられるのはこのような背景がある。(実際は、金融機関によるCDSの流通が問題ではなく、レバレッジを効かせ為に取引量を膨らませた金融機関同士の取引が問題だろうが)
【応急の対応策】
 今回の金融危機対応で、各国金融当局は金融機関同士(ヘッジファンドを含む)のCDSを始めとする店頭デリバティブ取引に関する監視体制(報告主体)を、年内に構築しようとしている。特にCDSについては、清算機関設立を業界に求めている。清算機関は、CDS取引の一方の相手方になるので、もう一方の金融機関が破綻しても、取引は決済され取引者のカウンターパティーリスクは減少する。また、その為にCDS取引の標準化を行わなければならないので、取引の透明性も高くなり、取引参加者も増加しやすい。欧米での清算機関設立の動きとしては、LCH.Cleanet Ltd(欧州で清算業務を開始)、ICE Trust(欧米で清算業務を開始)、CMEグループがあるが、当初はCDS指数取引に関する清算から、個別CDSへ清算業務を拡大するようだ。
 CDS清算機関が機能拡充していけば、なんだか直ぐにでもCDS取引所が出来そうであるが、実はCDS指数の取引所上場について、EUREX(ドイツやスイスを拠点とするデリバティブ取引所)やCME(米国)で2007年にCDS指数が上場されたが、殆ど取引されず上場商品としては失敗している。
 今回の金融危機に当たり、金融機関の抱えるCDS関連商品を流動化させる為、お互いのクレジットリスクを排除する清算機関設立を共同でCDS取扱金融機関に行わせている欧米金融当局の政策がある。通常だと、順序が逆にも思うが、清算機関整備から取引所機能へ発展すると前向きに見ておきたい。
【日本での動き】
 最近報道された主要銀行の4−6月決算で、保有するCDSの値下がりにより、収益を下方修正との記事があった。銀行がリスク回避の為に購入したCDSが、金融危機再燃が遠のいたことから値下がりして、CDSの評価損を出す為である。何だか、銀行にCDSを売り付けた金融機関の逞しさも感じるが、日本においてもCDS清算機関設立の動きは、東証や東京金融取引所においてある。東京金融取引所は、7月下旬から、CDS指数であるMarkit iTraxx Japanインデックスの価格情報を、公表し始めた。
 清算機関設立は、いずれ取引所取引を誘導するアドバンティージを持つと思うので、日本におけるCDS関係者の努力に期待するところが大きい。だたし、日本においては、社債の流通市場整備も必要だと感じている業界関係者も多いと思う。

 


小よく大を制すか、個人投資 (8月5日)
“小よく大を制す”日本人はこの言葉が好きだ。それは、体躯の小ささをハンディとせずに、日本人が勝ち上がっていくスポーツに感動するし、国土の小ささに囚われずに経済成長した日本に誇りを覚える。
 しかし、金融・資本市場は大きな資金に対し有利な仕組みになっていて、個人より機関投資家、マスセールスより富裕層ビジネスに、この業界の関心が向きがちだ。ただし、投資家層の拡大や、金融教育の必要性は常に言われるが、業界としてどこまで本気か時として疑わしい。この国の投資システムにも、小よく大を制する可能性を感じるものが必要なのだろう。その可能性の一つとして、資産を運用すると言う事とは異なる、資産を形成する為に、継続的に長期の時間軸で投資をするものが有効だと思う。
 現状では、個人が長期に渡る投資をするものとして以下があるが、個人投資の拡大という視点からは問題もある。
○持株会
 従業員持ち株会は、成長期企業の従業員の資産形成には、非常に有効な投資手段であった。従業員が拠出する以外に、会社側が助成金の税制上の優遇措置があれば、更に従業員にとって優位だろう。この制度を拡大活用する日本版ESOPは、従業員の大量な自社株購入を可能とするシステムとして期待されている。但し、持株会制度での資産形成は、自社株のみであり、安定成長期に入った企業の従業員資産形成には向かない。
○日本版401K
 既に340万人が活用しているが、97%が会社型で、企業が提供する退職後の為の累積投資システムに近い。老後に備えた資産形成を自らの手で行うという目的であれば、主婦層や公務員などにも個人型を解放するべきではないだろうか。また現状では運用資産が限定されていて株式や商品ファンドなどの購入は出来ないし、運用資産の入れ替え作業などのオペレーションの利便性が悪い。運用管理機関間の競争を即するような政策が必要である。
○日本版ISA
 平成21年度の税制改正で創設されることが決まったが、本年度の税制改正で詳細が確定する予定である。毎年100万円、累積で500万円までの投資のキャピタル及びインカム・ゲインの非課税措置は、資産形成に有効なので、実施を確実にする為、総選挙後も業界として強く税制改正要望していくべきである。
○金融機関が提供する累積投資制度
 現在も銀行や証券が提供する累積投資制度はあるが、殆どが投資信託をだけのもの。(証券では、株の累積投資もある)この制度では、税制上の優遇措置はないが、日本版ISAや日本版CTFが整備されていく過程で、現在の累積投資制度が下地になる可能性もある。その為には、取扱金融商品の多様化や、取扱いコスト削減の為の商品情報やシステムの共有化があっても良い。
※現状の制度ではないが、日本証券業協会の金融・資本市場に関する政策懇談会から、以下のような英国のChild Trust Fund を模した子供を対象とした税制優遇投資スキーム(日本版CTF)創設検討の提案がされている。
☆CTF概要
・利用者の資格:2002年9月以降誕生したイギリス居住の子供(18歳まで運用可能)
・口座開設と7歳の時に、政府から250£補助金支給
・両親、家族等が年間1200ポンドまで拠出可能
・インカム、キャピタルゲインとも非課税かつ申告不要
・18歳以降引出し可能で、使途制限なし

 10年20年に渡る投資は、運用の時間軸が全くファンドマネージャーとは異なるので、大のファンド運用を小の個人長期投資が制する局面も、将来あるかもしれないし、期待もしている。その為に、業界として、制度を確実にしていく為の努力と政策要望も必要である。
 


長期投資システムとしての401K  (8月3日)
 年金制度を論じるつもりはないが、多層構造になっている制度において、個人が自ら運用を行い、自らの将来の年金給付を確保する確定拠出年金=日本版401Kは、個人が長期投資を行うシステムと見なすことが出来る。
 根拠法は、確定拠出年金法で、当然所管は厚生労働省であるが、税制優遇措置(拠出限度額)も係る。制度は2つあって、
・企業型=掛金は企業が保証し、従業員自らが運用。加入者約330万人(4月末、11,800社)
・個人型=自営業者や企業型に加入していない会社の従業員が、自ら拠出し運用。加入者(自営業者分約3.9万人、従業員分6.3万人)
のような現状であるが、証券業界からの要望もあって、企業型では、従業員が企業拠出分と同額まで拠出が認められるマッチング拠出が法改正で可能となり、合算された拠出限度額の上限(月額)も約1〜2割程度引き上げられる(平成21年度税制改正)。ただし、主婦や公務員は現行制度では加入できない。
 制度運用の基本的仕組みは、
@企業若しくは個人が、運用管理機関を選択する。
A運用管理機関は、加入した企業の従業員若しくは個人に対し、運用商品の選定をして、その情報を提供する。
B加入した企業の従業員若しくは個人は、自ら運用商品を選択し、指示を運用管理機関へ出す。運用管理機関は、これらの指示を取りまとめ、実際の金融商品や資金管理を行う資産管理会社(個人型の場合は、事務委託先金融機関)へ指示を行う。
C運用指示を受けた資産管理会社は、実際の金融商品の提供を行う証券・銀行・保険などから金融商品を購入する。
厚生労働省のホームページから、制度のイメージ図を簡略化すると以上の様になる。
 401Kに加入した従業員若しくは個人の接点は、この運用管理機関なのだが、4月末現在で200社ある。企業型は、企業の担当者がこの運用管理機関を選択するので、従業員は選べないが、個人型は、運用管理機関の選択から始まる。地銀・信金やゆうちょ銀行も含まれているので、窓口としては広域をカバーしているといえる。
 しかし、長期運用を前提にしたシステムとして、現状の運用管理機関の機能には、以下の様な問題があり、“貯蓄から投資へ”の促進で、国民資産をリスク資産投資へ向かわせるには、不十分な運用管理機関機能とみられる。
●従業員に提供する金融商品が、品揃えとして十分でない。
−比較的商品数が充実していると言われるA社の金融商品内容を見ると、全部で28商品あるが、内訳は定期預金型が5、保険型が2、投資信託型は21ある。投資信託型が21もあると、一見投資対象の選択には十分な様に感じるかもしれないが、債券運用型の3つを除くと、殆どインデックスか、主要銘柄をパッケージにしたもので、運用者任せになる。例えば、中国株やインド株に投資したいとか、商品指数に投資したいという想いは満たされない。
●運用管理機関のシステムが、積立投資主体に作られていて、従業員や個人が運用指図する仕組みになっていない。
−同じもの積み立てていくには問題はないが、一応運用ということであれば、今までの運用資産を売却して、新しい金融商品で運用することもある。現状システムは、前の運用資産売却が完了してから、新しい金融商品購入注文が出される。管理口座内で運用資産は引き出せないのだから、通常の株式売買の様に、売却注文執行と同時に売却代金も確定出来る訳だから、買付注文執行も同時に行って欲しい。現状の受渡対応は、運用者にとって不便なものとなっている。
●運用管理機関間で取り扱う金融商品が異なるので、もし企業なり個人がこの運用管理機関を変更する場合、一旦今までの運用資産を売却して清算し、現金で新しい運用清算機関へ移さなければならない。
−預金や保険は、難しいかもしれないが、投信が運用対象になる場合、これらはペーパレス化され、移動も簡単になっている。また、200ある運用管理機関も、証券保管振替機構に参加しているはずなので、この金融商品の移動の問題は、法制度整備で早急に解決して欲しい問題である。その事が、運用清算機関間の競争を促し、運用者である従業員や個人にメリットを与える。

 制度設計をする政策当局者や、金融関係者は、自ら使って見ると、この制度の現状の問題が見えてくる、と思うのは筆者だけだろうか。


所謂ラップ口座について  (7月29日)
 日本の金融ビックバンにおいて、手数料自由化に始まり、金融機関による投信の窓販解禁など、個人資産を市場へ誘導する政策が取られているが、所謂ラップ口座も、2004年4月から投資顧問業法の改正で、証券会社が兼業方式で投資一任業務を行うことが可能になったことから、日本でも始まった。
 証券会社のビジネスとしても、個人資産の運用・管理サービスとして、株式売買委託手数料自由化後の収益構造を変えていくと期待されているが、先行する米国の約180万口座・資産残高約76兆円(2007年6月末のSMAの数字、この他ファンドラップは約327万口座・資産残高約45兆円)には、遠く及ばない。投資顧問協会によると、2009年3月末では、所謂ラップ口座は、37,138口座・投資一任されている金額は4,571億円となっていて、前年の41,615口座・7,469億円から大幅な減少となっている。
 この所謂ラップ口座に関して、少し整理しておきたい。
そもそものラップ(WRAP)とは、包むという意味から、一つの口座で様々な資産運用サービスを包み込むという意味で、ラップ口座と言われているが、資産運用を完全に証券会社に一任してしまう(実際はいくつかの投資パターンから選択)口座をSMA(Separately Managed Account)口座として、証券会社・信託銀行が販売している。運用資産残高に応じて手数料を課すので、証券会社(投資運用業者)の運用が上手くいって、顧客資産の残高が増えれば、証券会社の報酬も増加するビジネスモデルである。
SMAの口座毎に、プロの運用者が対応し、助言者としても専任SMAコンサルタントがつき提案やアフターケアをするモデルが一般的のようだが、適切な分散投資を図る必要上、一定規模の運用資産を要する。
 証券会社等によって異なるが、最低契約金額を数千万から数億円に設定していて、ターゲットとする顧客層は、明らかに億円以上の金融資産を有する富裕層であり、証券会社の手数料は、概ね成功報酬となっている。
一方、金融資産数千万までのマス富裕層(団塊世代の退職者等を含む)を顧客ターゲットにしたものが、ファンドラップ口座であるが、これは投資対象をファンド(投信)に限っているので、そもそも分散投資の為の資産規模は小さくとも済む。顧客の投資方針に応じた運用スタイルを、営業部員が提案し、投資一任契約を結ぶが、証券会社の手数料は、概ね固定報酬のみとなっている。
 ラップ口座の手数料は、資産規模により異なるが、1〜3%程度が主流のようである。また、サービス提供の流れは、以下の様になっている。
@専任コンサル若しくは営業部員が顧客と面談、ヒアリングシートで顧客の投資方針を確認
A専任コンサル若しくは営業部員が、投資戦略・ポートフォリオを提案
B顧客と証券会社の間で、投資一任契約を締結(自社が投資運用者の場合、外部に運用者がいる場合は、その投資運用者と契約)
C定期的に運用状況を報告(SMAは専任コンサルがアフターケア、また報告頻度も毎月)
D顧客の状況の変化、投資環境の変化に応じて投資計画を見直す。

 証券会社にとっては、期待の大きいビジネスモデルではあるが、米国並みに拡大していくには、いくつかの課題も見える。
例えば、SMAでは大口化への期待もあるようだが、そうした場合、プライベートバンク業務との整理をどの様に行っていくか。また、ファンドラップの受入限度を下げていった場合、既に小口で投資出来るETFの増加や、各種インデックスファンドでの運用と、どう差別化していくか。そして、顧客が高めのコストでも納得する投資助言サービスの提供体制整備などがある。


リーマン・ショック後の株式市場 (7月2日)
 金融危機後の景気回復シナリオがW型なのかJ型なのかは別にして、日本の株式市場も日経平均が再び1万円台を回復して多少の安堵感を持たれた方も業界関係者には多いと思う。最近気になる企業の大型ファイナンスも、大手企業や金融機関が、日本経済の回復を見込んで先行きの積極的な投資を行う為(先行きのリスクを負ってでも)、資本市場の機能を使ってリスクマネーを調達していると思えば、市場全体の先行きは明るいのかもしれない。また証券会社にとっても、普段は余り収益性の高くない株式売買だが、相次ぐエクイティ・ファイナンスで、数%の手数料が稼げるので、収益改善の契機となるかもしれない。
 ところで、株式市場そのものはグローバルにみて、どの様な状況になっているのか。最近では、中国市場が、リーマン・ショック前まで回復したことが伝えられ、その他の新興国市場も、不安定ながら上昇基調にある。その実態を、世界取引所連盟(the World Federation of Exchanges:WFE=52取引所)の集計数字から見てみたい。(集計数字は5月末時点)

○世界の株式時価総額:38兆4800億万ドル(リーマン・ショック前の昨年8月末は、50兆2200億万ドル、約76.6%まで回復している。)
○地域別の株式時価総額:南北アメリカ15兆2600億ドル(世界の39.7%←リーマン・ショック前42.5%)、太平洋・アジア12兆7100億ドル(同33%←同27.8%)、ヨーロッパ・アフリカ10兆5100億ドル(同27.3%←29.7%)
○主要な市場のリーマン・ショック前(昨年8月)からの回復度(5月末時点、時価総額の金額は100億ドル単位)
・ニューヨーク取引所=9兆5700億ドル←13兆5700億ドルで、70.6%の回復度
・ロンドン取引所=3兆600億ドル←2兆2000億ドルで、72.1%の回復度
・欧州ユーロネクスト=2兆2600億ドル←3兆2700億ドルで、69.2%の回復度
・ドイツ取引所=1兆1300億ドル←1兆6700億ドルで、68%の回復度
・上海取引所=2兆700億ドル←1兆8600億ドルで、111%の回復度
・ボンベイ取引所=1兆300億ドル←1兆800億ドルで、95%の回復度
・BM&FBovespa(ブラジル)取引所=9200億ドル←1兆2200億ドルで、75.5%の回復度
・東京証券取引所=3兆1000億ドル←3兆7500億ドルで、82.7%の回復度

やはり中国の上昇が目立つが、上海総合指数は6月以降も12%以上の上昇を続けている。日本も欧米に比べると、何だか健闘しているようにも見える。
 しかし、今年に入ってからの取引量比較(1月〜5月)の前年同時期比較でみると、予想通り上海は15.7%の増加、深センも25.2%の増加している以外は、概ね4割前後の取引量の減少になっていて、本格的な回復過程というには、まだ遠く感じる。ちなみに、東証は39.1%の減少、ニューヨークは43.7%の減少であるが、ロンドン55.9%ユーロネクスト66.1%ドイツ54.3%と欧州の市場取引の減少が大きいのは、次の危機は欧州からという市場の懸念と重なって心配に思える。

 一方、最近何かと話題になるETFについて、日本でも随分増加した様な気なっていた。しかし、5月末の国際比較では、東証60銘柄・大証11銘柄に比べて、ニューヨークの1025銘柄は断トツだが、欧州の主要な取引所の概ね400前後の銘柄数に、遠く及ばない。銘柄数の多さは、一瞬投資判断を複雑にするようにも思うが、あまり意味がない企業グループ・ファンドは別にして、例えばアジアの電力会社に投資したいと考える個人投資家にとって、アジア電力会社ETFなどがあれば、いちいち証券会社に調べてもらうより投資しやすい。多様な投資ニーズを資本市場に取り込むためには、収益性に多少の疑問があっても、投信会社・証券会社は、ETF増加の為の不断の努力が、求められと筆者は思う。その事は、資本市場の仲介者としての責任である。


日本の投信そして世界の投信動向 (6月30日)
 大業な標記になってしまったが、最近データを見るたびに少し違和感のある数字がある。
今年1月初めの株券電子化移行で、日本で流通する有価証券(日本で発行・組成されたもの)は全て株式保管振替機構に集約されたが、その中での投資信託は、公募・私募約6000銘柄が取り扱われている。
 市況の回復もあって、3月から投信の新規設定も増加しており、3月・4月其々約1700億円、5月約3400億円となり、既存のファンドへの資金流入も伝えられているが、株式保管振替機構の残高は約106兆円と今年に入って殆ど変化がない。
 一方、世界の投信動向に関しては、日本証券経済研究所から以下のレポートが公表されている。
金融危機発生後の世界の投資信託の動向
概要は以下の5つのポイントで、
@世界の投資信託は、2007年末の26.4兆ドルをピークに、2008年末は28%減少の19兆ドルへ
=上記数字は44ヵ国が加盟する国際信託協会の数字、その中で株式投信からMMFに資金が流出している。2009年に入っても第1四半期は、若干減少している模様だが、世界全体の株式投信残高の半分を占める米国の状況では、4月以降、株式投信への資金回帰傾向が見える。
ABRICs4ヵ国の投信残高状況
・ブラジル=残高4793億ドル、GDP比30%(日本は10.3%)、公社債投信が55%を占める。
・中国=残高2763億ドル、GDP比6.3%、株式投信が48%
・インド=残高628億ドル、GDP比5.2%、公社債投信・MMFで66%
・ロシア=残高20億ドル、GDP比0.1%、株式投信が55%
(※相当な増加余地があるということだろうか)
B米国MMF動向
・昨年9月のリーマンショックで、初めて個人向けMMFが、一時的に元本を割り込んだ(97%まで)。
・直後の2日間で、6%の資金流失
・米財務省がMMFの元本保証制度を導入。(米国のMMFは、小切手振出しも可能な決済手段、またMMFはCPの半数近くを買う投資家で、CP市場混乱を恐れての措置)MMFの元本を保証する最長1年間の制度(今年9月まで)で、保証金額の制限はない。
・この結果、昨年10月以降安全資産への逃避としてMMF残高が増加した。
C米国確定拠出年金(DCプラン)動向
=米国におけるDCプランは、2007年末で9.2兆ドル(2008年末、7.1兆ドルに減少)となっており、投信保有はその内約半分に相当する。特に株式投信の53%まで、DCプランの資金が占めていた。今回の金融危機に際して、運用を変更した人が37%、変更しない人が59%(2009年1月、マッキンゼー調査)と比較的冷静な対応。
DETFの多様化が進展
・2008年末、世界のETF残高は7250億ドルと順調に成長(米国5312億ドルに対し、日本280億ドル)、2年以内に残高1兆ドル突破の予想も。
・保有者は、個人が5〜6割、
・米国ETFの内訳は、50%が国内株指数連動、21%が外国株、11%が国内株セクター、10.8%が債券。6.7%が商品。スタート時の指数連動から多様化している。

以上の様な報告になっているが、最も注目すべきは、世界で5.8兆ドルと残高が積みあがったMMF、その逃避した投資待機資金の行方ということのようだ。
 



保険という金融商品 (6月22日)
金融審議会の“保険の基本問題に関するワーキング・グループ”において、金融商品としての保険のあり方に関する議論が纏まり、“中間論点整理”という形で19日に公表された。
 ここで、振り返って金融商品としての保険について考えてみたい。
そもそも「保険」とは何か。広辞苑を引くと、「人の死亡・火災などの偶発的事故の発生の蓋然性が統計的方法その他によってある程度まで予知できる場合、共通にその事故の脅威を受ける者が、あらかじめ一定の掛金(保険料)を互いに拠出しておき、積立金を用いてその事故(保険事故)に遇った人に一定金額(保険金)を与え、損害を填補テンポする制度。」とある。引用が長くて申し訳ないが、これは金融商品なのだろうか。長年、金融商品の開発に携わってきた身とすれば、やはり多少違和感がある。しかし、証券も銀行も窓販において保険商品を売ってきた。
 銀行の保険商品販売の経緯は、
※2001年4月:信用生命保険、火災保険や海外旅行保険など解禁
※2002年10月:変額年金、定額年金を解禁
※2005年12月:一時払い終身・養老保険、個人向け損保商品(自動車保険を除く)を解禁
※2007年12月:終身保険や定期保険などの死亡保障保険と、医療保険やがん保険、自動車保険など全面解禁
となっているが、保険と投資の複合商品としての変額保険は、販売時の手数料も大きいこともあって、ここ5年間では平均で50万件以上の新規契約数を増加させていた。
 金融商品として、何が問題なのだろうか。
保険契約として膨大な約款からの分かり難さ・保険料不払い、未払い問題・そして最近の変額年金保険の販売停止。
そろそろ金融商品として、整理する時期にきているのだろう。ワーキング・グループの報告書概要は、以下の様になっている。(なお、カッコ内は筆者の私見)
○情報提供の義務:「契約概要」(簡易目論見書に相当)、「注意喚起情報」(リスク情報開示)などが既に導入されているが、募集時の説明義務を強化すべく、これらの書面交付義務を法定化
○適合性の原則:これも既に導入が始まっている「意向確認書面」の法定化 ○募集文書:募集時の文書が全体に多すぎるのでこの簡素化と、約款を読み易く簡易化すべき。当面は、「契約概要」の活用状況を検証
○公告規制:保険商品は一旦誤認されると訂正が難しいので、自主ガイドラインの検証と運用の強化
○募集主体:平成7年に導入された“保険仲立人制度”の利用が進んでいないので、制度の見直し
○募集コスト開示:代理店が保険会社から販売に際して受け取る手数料情報の開示を検討
○募集人の資質向上:不払い・支払い漏れ問題を踏まえて、研修・試験制度の改善
○保険金支払い:支払いへの迅速な調査義務、支払い請求への情報提供義務・注意喚起義務などのルール化
○商品のあり方:簡素化を進めるべき
○保険料積立金等の支払:解約返戻金に係る商品審査基準を明確化等

 保険商品は、人のライフ・スタイルやライフ・サイクルなどのライフ・プランに関係するので、人々の生き方が多様ならば、それに即した多様性があってもいいと、筆者は考える。
 しかし、貯蓄性や投資性などの金融商品と結びついた時、どの部分がライフ・プランに関したリスクで、どの部分が金融商品としてのリスクか、明確に説明出来るのでなければ、金融商品取引業者としては成り立たない。


引き続き、取引所という機能-そして欧州の場合 (6月10日)  
 上場株式の取引は、株式取引所で行わなければならないという取引所集中義務がなくなってから10年以上(1998年12月)経つが、その間に証券会社が運営する私設取引システム(PTS)や取引の匿名性を重視するダーク・プールなどが、日本でも取り入れられた。
 しかし日本では、まだまだ取引所取引の割合が大きいイメージが強く、例えば、東証が発表している3市場(東証1、2部とマザーズ)の5月の売買株数は約458億株、これに対して日本証券業協会が会員からヒアリング集計している同月の取引所外取引は約20億株で、5%にも満たない。PTSの取引に関しては、最近数カ月の平均で、その取引所外取引の1割程度である。
 PTSについては、最近大和証券の参加もあり、月間売買株数は1億株台から4月には3億株と倍近くに増加しているが、まだまだPTS参加者が少なく、取引の主体もネット取引主体のようだ。
ダーク・プールについても、一部の外資系証券が持ち込んではいるが、機関投資家などの売買ルールが障害になっているとされて、日本での取引所外取引システムは、それほど増加していないと見られていた。
 本当にそうなのだろうか。
実態は、なにか欧米で起きた様な変化は進んでいないのだろうか。例えば、株券電子化になって、株式の移動に伴うリスクやコストは低減された(若しくは、される)はずだが、そのことが何か影響していないのだろうか。
株式保管振替機構が発表している上場株式の移動を示す株式振替株数1日平均の5月の数字でみると、取引所取引約16億株に対して、一般振替株数約55億株となっている。一般振替そのものは、金融機関間の単純な株の移動も含むが、その3分の1は資金の移動を伴うDVP取引で約8万件(1日平均)ある。
レンディングや株式レポなどの取引もあるだろうから、全てが株式売買取引とはいえないが、上場株式の取引所外取引が、全体の5%程度しかないのは実態とは思えない。
 例えば、米国やカナダでは、取引所取引を代替するシステムが、ATS(日本のPTSに相当)やダーク・プールとして発展し、取引所取引に迫るような状況になっている。そんな海外の機関投資家が、日本株でも、海外にあるダーク・プールを使って、売買してもおかしくない。
 欧州においても、金融商品指令(MIFID)により、2007年11月より取引所集中義務が廃止されて、取引所外取引が解禁された。取引所代替システムとしてChi−XやBATSヨーロッパなどのマルチラテラル・トレーディング・ファシリティ(MTF=日本のPTSに相当)が急速にシェアを伸ばし、全体の2割に達したようだ。

日本証券経済研究所が以下のレポートを公表している。
ヨーロッパの市場間競争
欧米での、このような既存の取引所と取引所代替システムの競争は、取引の主体である投資家に、メリットを、もたらすはずである。
単に、夜間取引するとか手数料の安さを競うだけではなく、日本のPTS及びダーク・プールも、株券電子化を契機に、機関投資家の売買取引ニーズに応えていく可能性があることを、期待している。


取引所という機能 (6月9日) 
資本市場にとっては、水や空気の如くあるのが当然と思っている“取引所”といものも、そのインフラとしての機能を、時々考えさせられることがある。
 最近、東証の売買高がアジアの中でもそのシェアを落としていると報じられたが、かつてバブル時代の世界一位だったことが、遠い昔になってしまった。これは、国際取引所連合(WFE)が月次で公表しているデータにおいて、アジア・太平洋地区の18取引所(日本は東証とジャスダック、大証)の1−4月の総取引額(ドルベース)で、東証がこの地区の25%まで低下、上海取引所が27%と初めて取引量首位に立ったことを指摘している。東証・ジャスダック・大証のオール日本の合計でも、この地区のシャア26%に対し、上海・深セン・香港のオール中国は49%と、アジア・太平洋地区の取引量半数を占める。中国投信が、売れるはずである。
中国株の年初からの隆盛を思えば、なんだか納得してしまいそうだが、経済規模では、まだ世界2位で、金融・資本市場もアジアでは断トツで発展していると思っている日本国民から見ると寂しいニュースである。一応、時価総額(ドル)ベースでは、東証の25%に対して、上海取引所の18%となっているが、これも、オール日本27%で、オール中国の36%に大きく差をつけられていて、こちらの方が驚愕すべきことかもしれない。
 この取引量や時価総額のことは、経済・政治と幅広い国力を反映しているのだから、ここで論じることではないか、取引所の資本市場に機能としては、どうなのだろうか。
 市場の機能を単純化して考えると、売買する人・取引の場の提供・決済と保管に分かれる。この内、決済と保管に関しては、今年年初に株券電子化を終え、これで投資家が扱う債券・投信と有価証券全てが電子データで取り扱えるようになった。このこと自体は、証券決済インフラの飛躍的向上に繋がるはずで、世界に誇って良いことだろう。
 しかし、現状では、取引自体はあまり変わらない。インフラの向上に合わせた、取引サービスそのものが変わらないからである。確かに、6月からTOKYO AIMも始まり、東証の売買システムも来年度強化される予定とのことであるが、新しい取引サービスが、日本でも発達する為には、東証も国際市場を睨んで努力するであろうが、その東証の取引所取引に対抗する取引サービスの発達があってこそ、双方の競争により、取引サービスが強化され、日本の資本市場も強化される。
取引所に対抗する取引システム→PTSやダークプールなど、取引所取引を代替する取引システムの発達が、その答えだと考える。このことで、野村総研が以下のレポートを公表している。

野村総研
今後の拡大が期待される日本の代替執行市場
 ここで言う代替執行市場とは、取引所取引以外で何からのシステムを使って行う取引を言うが、始めは社内の異なる顧客の注文付け合わせから始まったダークプールやPTSなどの代替取引システムは、欧米においては、取引所と競争しつつ発展している。日本でも、株券電子化を契機に、この様な取引所取引を代替する取引システムの発達が望まれている。




金融からみた不動産 (6月4日)
不動産について門外漢で、少し無謀かもしれないが、金融からみた不動産について少し考えたい。
今回の100年に一度の経済危機、その原因になった金融危機は、米国においてはサブプライム問題が発火点であった。よって、米国においては、原因の原因である住宅市場の回復がなければ、本格的な回復にはならないのだろうが、日本の金融・資本市場においても真っ先に行き詰まったのは、不動産関連企業である。そのことを考えると、日本の景気本格回復の前提としては、不動産市場の回復も大きな要因なのかもしれない。
 前回の金融危機からの回復過程において、不動産は証券化という形で流動化され、そのことが不動産市場の回復にもつながったが、今回の金融危機ではどうなるのであろうか。Jリートであれ、特定目的会社であれ、GK-TKスキームであれ、それらは集団投資スキームとして、投資家の資金を集めて、特定の不動産に投資された。
 5月26日、国土交通省より平成20年度の不動産証券化の実態調査が公表されている。
○平成20年度中に証券化された不動産資産額は約3.1兆円で、過去最高となった平成19年度
の実績(約8.9兆円)から大幅に減少した。件数は470件で、過去3年間平均の三分の一規模。1件当たりの資産額は約65億円となり、平成19年度に比べて増加した。
○スキーム別実績は、信託受益権で合同会社等を通じて証券化する方法(GK-TK 等)がもっとも多く、
1兆1,763億円で全体の約38%を占めている。J リートが6, 2 7 7 億円(Jリートの累計は、過去12年間で、約8.6兆円)。
○用途別実績は、オフィスが全体の37.7%、住宅が15.1%、商業施設が21.6%などとなっている。前年度と比較すると、住宅の全体に占める割合が減少し、オフィス及び商業施設の全体に占める割合が増加している。
 ここ10年、不動産に限らず証券化が様々の資産に対して進み、その派生商品(デリバティブ)も金融商品として成長したが、今回の金融危機で、限られた参加者でもメリットを享受できた初期の成長段階は終わった。不動産証券化市場も、更なる拡大を目指す為には、透明性を高め、取引の標準化を進めて、多様な取引参加者を呼び込むことで、成長の第二段階たる成熟した市場の拡大を目指す時期に入ったのではないだろうか。

 国土交通省の不動産リスクマネージメント研究会では、この3月に、不動産リスクをコントロールできる市場の整備として、不動産証券化市場の活性化を目的としたデータベースの整備を以下の様に提言している。
○オープンな不動産評価データの整備
・不動産価格データの利用可能性の拡大
・証券化商品など構成資産の詳細開示
・ベンチマークとしてのインデックス、標準的な不動産評価モデル整備
○物理的データの整備
・自然災害や土壌汚染など地歴データ
・過去の住宅地図など
○オペレーショナル・リスクに関するデータベース化とその整備
・事業者のサービス評価の為のデータ(苦情・クレーム等も含める)
不動産リスクマネジメント研究会の総括と今後の課題について

市場が、限られた参加者のものから、金融市場とリンクする拡大された市場を目指す為には、取引を標準化する必要がある。その為には、情報を共有し、それを公表して、市場の透明性を確保するオープンなデータべースの構築は、他の金融商品市場でも、最も重要なことである。




祝・新取引所 (6月1日) 
 新しい株式取引所(金融商品取引所)が出来る。先週末、新取引所TOKYO AIMが、6月1日より取引所業務を開始することを、自ら公表している。
 ここ10年、新興市場は、既存の株式取引所に5つも開設されたが、新しい取引所ということになると、実質的に1983年の店頭登録市場=現ジャスダック証券取引所以来、26年ぶりの新しい株式取引所の開設である。その間、京都・広島・新潟の地方株式取引所は閉鎖された。
 証券業界にとって、新しい取引所の開設は、喜ばしいことである。
それで、この新取引所を少し、業界目線で解説してみたい。
【その1=新取引所の概要】
株式会社組織で、東京証券取引所が51%ロンドン証券取引所が49%出資の合弁会社=TOKYO AIMが運営する取引所である。当面(一年程度)は、現在の東証の建物とシステムを使う模様である。
【その2=参加者たち】
 これも、当面現在の東証参加者とロンドン取引所の参加者達が、取引参加する市場となるが、日本の参加者は、プロ投資家(特定投資家)の注文しか取り次げない。日本では、初めてとなるプロ(特定投資家)向け市場である。一方、ロンドン取引所の参加者達は、日本に拠点がなくとも、この市場に直接参加し、英国を中心とする海外の投資家の注文を取り次ぐことが出来る。日本では、初めて海外証券業者(といってもロンドン取引所の参加者に限定されるが)が直接アクセスできる取引所となる。
 このことは、海外投資家の日本市場誘導という意味で、非常に重要なことであると考える。
【その3=上場企業たち】
 取引参加者の半数は、ロンドン取引所の参加者になるとすると、共通言語は英語で、会計基準は国際会計を想定するが、日本語や日本の会計基準でもOKであり、当然日本の成長企業も上場することが期待される。しかし、金融危機前の新市場整備の議論段階では、海外の特にアジアの成長企業を東京の新市場に呼び込みたいとの意図も強くあった。
 近年、SOX法対応や国際会計基準強化・日本の開示制度強化など、上場企業にとってディスクロージャーに係るコストは大きなものになっているが、新市場は、成長企業を呼び込むことを目的にしているので、このディスクロージャー負担を極力低下させた制度設計になっている。
 監査証明は直前期のみで、四半期開示や今年から始まった内部統制報告書は求めない。そして、株主数や売上高・時価総額の数値基準も設けないので、新興企業が入り易い市場となっている。
【その4=市場誘導者たち】
 前記の様に、上場企業には負担が軽い市場となっているが、その分市場誘導者(証券会社など)には負担の掛る制度である。つまり、上場前・上場時は勿論、上場後のディスクロージャーに関して、責任を持って支援・指導する専任アドバイザーとして機能する為に、新市場は、この市場誘導業務の専門家3名以上を組織立てて維持する必要があるJ−Nomad制度(ロンドン取引所のNomad制度を模したもの)を取っている。
 また、このJ−Nomadは、上場企業の流動性確保に努める“流動性プロバイダー”を自ら行うか、その確保に尽力しなければならない。
 今やこのJ−Nomad制度の様な専任アドバイザー制度は、世界の新興市場の潮流でもある。
何か昔のジャスダックの登録申請会員制度を思い出す部分もあるが、新興企業の市場誘導業務を、証券会社として改めて考え直し、また、既存の新興市場の問題点を改革していくには、いい機会だとも考える。
やはり新取引所がスタートするのは、資本市場機能の充実にとって良いことなのだ。


大と小―資本市場の場合 (4月24日) 
世の中が成長している過程なら、大と小の違いはあまり問題にならない。しかし、そうでない前提だと、大と小への対応の違いが、問題になってくる場合が、増えるのだろう。いくつかのニュースに接して、そう思った。
 例えば、今回の金融危機の主因の一つとなったCDS取引。殆ど大の金融機関のみで取引され、限られた取引者間の市場において、膨らんだとこで一気に萎んだ。もっと、小の参加者が多数参加する市場なら、実質的に市場崩壊するようなことは無かったかもしれない。
 かたや農業の産業化があまり進んでいなく、雇用の受け皿として、最近の農業ブームの割には問題があるといたニュース。こちらは、あまりにも小の農業者に配慮して、大の企業参入の阻害要因になっている農地法の問題。
 大に頼り切って、自壊した市場。小に配慮し過ぎて、成長しない市場。
ちなみに大のCDS取引は、取引や価格情報の提供促進や、取引ルールの基準化や決済機構設立で、中小の投資家(個人も含む)を取り込もうという市場改革が、官中心に行われそうである。
 資本市場においても、大と小の問題は顕著になってきている。
例えば、コーポレート・ガバナンスに関して、昨今の企業不祥事や敵対的M&Aとそれに対する買収防衛策・大量の第三者割当など、投資家が問題にしている経営者の行為に対して、独立性の高い社外取締役導入を義務づけようとする動き。
大企業に対しては当然と思うが、新興市場の中小企業は、年々重くなる開示負担に加えて、更なるコスト負担が強いられる。
 取引所であれ金商法であれ、このルール導入を議論している人たちは、新興市場には、成長が期待されているが、まだ成長していない中小企業もいることを、意識して欲しい。
 一方、FX取引において、証拠金のレバレッジを規制して30倍程度まで抑える行政の動きが報じられた。確かに大銀行は、レバレッジを掛け過ぎて、失敗したが、FX取引は個人投資家主体である。
レバレッジの大きさを問題にして、大手金融に機関に対する規制論理を個人に当てはめて良いのだろうか。
行政が行うべきは、個人の投機を排除するのではなく、FX取引を取り次ぐ業者が、その個人のリスク管理を適切に行っているか、注文執行は適切か等、仲介者への管理行政ではないだろうか。個人の投機をなくしたり、投機を無理やり投資にする必要は、ない。
 今、資本市場の機能は、多少回復したとはいえ、一部機能は停止したままである。
グローバルな流れから、資本市場において、大に対する規制が厳しくなるのは、しっかり受け止めて対応しなければならない。しかし、小に対する規制については、緩和している部分があっても良いのではないか。特に、資本市場への参入及びその規制に関して。
 来月には新取引所TOKYO AIMもスタートしそうである。そして、既存の新興市場改革も、いよいよ本格化する。
成長しない企業の退場を促すことは、結構だとおもうが、上場の間口を広げ、市場誘導者への負担の軽減を行うことで、資本市場に新たに参加するまだ小の企業にも、市場関係者は配慮して欲しい。
 資本市場における大と小の隙間を埋めるのは、中の機関投資家かもしれない。




CDS取引システムの早期の強化を (4月15日)   
今回の米国発金融危機の発端になったサブプライムローン、更に危機を拡大した証券化商品CDO。このCDOの源資産になるのが、CDS(グレジット・ディフォルト・スワップ)であり、最近のニュースとしてAIUに投入された公的資金のかなりの部分が、このCDSの契約履行の為、ゴールドマン始め、自らも公的資金注入を受けた欧米の大手金融機関に、流れたことが話題となった。
 BIS(国際決済銀行)によれば、このCDS取引の想定元本残高は、2005年から2008年の僅か3年間に、10兆ドルから57兆ドルに急拡大していた。
 CDSはデリバディブ取引であるから、基本は相対取引で、その決済もお互いの信用リスクの上に行われる。勿論、取引にレバレッジをかけていた方が悪いのだか、もしAIUが破綻していたなら、世界の金融システムが壊滅的打撃を受けたことは、想像し難くない。
 この様な状況もあり、欧米金融当局は、CDS取引の透明性を高める為の動きを強めているが、CDS取引の清算機関設立に向けた後押しも、その一貫である。
 このCSD取引清算機関は、CCP(セントラル・カウンターパティ)と呼ばれ、CDSの売り手、買い手双方に対して直接の決済相手として機能する。取引参加者の破綻などが、他の取引参加者に及ばない仕組みであるが、もう一つの目的は、取引の標準化である。
 もともとデリバティブ取引は、相手の信用状況やニーズを加味して契約するので、内容は多様であったが、これでは金融当局が実態を把握し難い。取引の標準化が進めば、金融当局によるCDS取引の実態把握が用意になる。
 金融機関側でも、規制強化と渋るだけではなく、前向きに捉えようという動きも強まっているが、取引が標準化されて、清算機関があれば、当然ではあるがCDS取引所である。
 大手の金融機関による節操なきレバレッジが今回の金融危機の本質かもしれないが、CDS取引が取引所取引として経済実像に合わせて拡大していけば、グローバルな金融機能も回復が早まる。
 ただし、自国の金融機関や、更にCDSの対象となる大手企業に影響するので、清算機関設立の主導権争いのような動きも、既に始まっているようだ。
 野村総研レポート
 欧米における複数のCDS清算機関設立の動き
 一方、我が国においても、東京金融取引所が2010年度中、CDSの清算機関を設立して営業を始めると報じられている。
 東京金融取引所のCDSに対する取り組みについて簡単に触れると、2004年から日本に於けるCDS取引の情報を金融機関から集約し、それを参考値として算出し直したものを公表している。 現在は、125銘柄に及んでいるが、いずれも日本を代表する企業である。
 また、ISDA Japan Credit Derivatives Committee: Research Working Group作成による、CDS取引に関する情報提供を、Q&Aの形式で行っている。(Q&Aの内容について、機関投資家への情報提供としても十分な水準と筆者は思う。)
 詳細は、東京金融取引所が運営するJ-CDSという専用サイトをご覧いただきたいが、
  @関連する情報を集約して、売り手・買い手双方に平等に提供する
  A取引を標準化し、ルールを整備する
  B清算機関を設立し、取引の決済の円滑化を進める
これらは、取引所としての基本だと思うが、CDSに関して取り組まれている東京金融取引所に対して敬意を払いたい。
 できれば、欧米の金融機関の取り組みに先んじて、金融インフラとして整備していただきたいが、その為、我が国金融機関の協力は、必須である。


金融商品としてのCFD (4月14日)  
新しい商品が市場に出回るのは、基本的には市場全般の活性化に繋がるので、良い事である。
表題のCFDは、Contract For Difference の略称で、直訳すると“差金決済取引”をとなるが、その仕組みは、ヘッジファンドなどが投資銀行との間で行っていた”エクイティ・スワップ”と同様のものである。 2005年末から、日本でも個人投資家向けに取り扱う証券会社が出始めているが、昨年までは5社程度であった。
 注目されだしたのは、昨年の金融危機以降の株式市場や商品市場の急落局面で、個人投資家の参加が増加が目立ち始めたようで、今年に入って予定も含めて、新たに5社が取扱いを始める。
 以下、簡単に仕組みを紹介したい。
○取引対象となるのは、個別株式・株式関連指標・海外株式・海外株式関連指数・海外債券指数・海外金利指数・商品関連指数等。
○証拠金を元に、取引額にはレバレッジをかけるが、現在日本の業者は数倍〜40倍までを受けている。(一部100倍を超えるものもある。)
○インターネットを使って、24時間取引が可能。
○原資産を直接保有しない。(この取引をカバーする金融機関が、源市場での直接の売買者)
○海外株や商品など、個人にとって、取引コストが安い。 等
基本的な構造は、外為証拠金取引と同様なので、第二のFX取引にと期待する向きも出始めている。
 もともとは、ファンドなど機関投資家を相手に、投資銀行が取り扱っていた取引であるが、欧州市場では、今も機関投資家のCFD取引が主流である。
 このCFD取引が、源市場へ与える影響も大きくなっているようで、ロンドン取引所においては、CFD取引業者のカバー取引が3割を超えているとの報告もある。
ただし、CFD取引は相対取引なので、取扱業者にとっては直接カウンターパティーリスクを負うことになる。昨年来の金融危機の様な状況では、このカウンターパティーリスク管理は、投資家・取扱業者・カバー金融機関それぞれにとって、重要事項となっている。
 このため、一部CFD取引に関しては上場物として管理しようとの動きも強まっているようで、ロンドン取引ではFTSE100、東京金融取引所でも日経平均株価を投資対象とした上場CFDが2009年中に上場される予定である。
注目を浴びる金融商品「CFD」
 行政の動きに関しては、このCFD取引は、店頭デリバティブとして対応しており、CFD取引の証拠金についての分別管理は、金融商品取引業者として徹底するように、法規制の改正を準備している。
(但し、商品CFD取引に特化した業者に対しては、現状では金融商品取引法の規制は及ばない。)
 このCFD取引が、新しい金融商品として発展していくことを願いたい。
制度整備や取扱業者・カバー業者のカウンターパティーリスク管理も大事なこのビジネスの仕組み作りではあるが、実は最も大事なのは、投資家のリスク管理ではないだろうか。
 取扱業者である金融商品取引業者にとって、個人投資家にレバレッジを提供するなら、同時にそのリスク管理の仕組みや情報も提供すべきで、取引の勧誘時にはロスカットルールの徹底も同時に行って欲しい。これは、各社対応がまちまちなFX取引の損失カットルールに関しても、同じように思うことである。



 3つの取引所 (4月7日)  
別に、東証と何処どこの取引所を、比較するつもりではない。
今更ながらではあるが、資本市場の中核を担う取引所機能の充実に関して、以下テーマ3つの最近の動向を取り上げてみた。
1.リスクマネーの受け皿と、その供給機能の充実
2.流動性確保の為の動向
3.上場企業へのコーポレート・ガバナンス関与の仕組み
 まず、1.に関しましては今月スタート予定のプロ向け市場”TOKYO AIM”について、
○日本初のプロ向け市場の開設であること
○東証とロンドン取引所の合弁の新取引所であること
○アジアの企業の上場や、ロンドンの投資家の投資も想定された作りになっていること
などは、一部機能不全に陥りかかっている資本市場にあって、非常に期待されることである。
しかし、この新市場の機能は、本来日本のプロ=機関投資家の運用力向上を目指していたのではなかったのか。
・金証法のプロ定義に拘りすぎて、それほど開示負担が軽くない。(四半期開示・内部統制報告書は不要だか)
・指定アドバイザー=J−Nomadとして市場仲介機能を担う者の負担が重く見える。
・国内の新興企業にとって、既存の新興市場との明確な違いが、今の段階ではイメージしにくい。
など、問題点も感じるが、新しいプロ向け市場には期待したい。
 2つ目は、金融危機で問題になったシャドーバンキングならぬ取引所代替機能を発揮し始めているダークプールの動向に関して、機関投資家の流動性確保の視点からも注目している。
 最近日本でも私設取引所PTSによる取引が多少は増加しているが、欧米での取引所外取引システムの利用などに比べると機関投資家の利用は限られている。
野村総研レポート
米国の株式取引市場におけるプロップファームの影響力
上記レポートでは、大手金融のプロップ部門ではなく、独立系のプロップファームが流動性を供給するトレーダーとして力をつけてきていて、取引システムまで立ち上げ、ダークプールとして力をつけてきている、といった紹介がされている。
 最後の3つ目になるが、取引所が資本市場の機能の一つとして、上場会社のコーポレート・ガバナンスにどう関与していくべきかといった議論も、現在金融審議会で行われている。
 上場会社等のコーポレート・ガバナンスのあり方について
 議論されておられる先生方には申し訳ないが、簡単にいってしまえば、海外の投資家からも信頼されるよう上場会社のコーポレート・ガバナンスはちゃんとしないといけないが、会社法や金証法で縛るのは限界があるから、取引所ルールで規定してはどうか、という方向性のようである。
 例えば、社外取締役の独立性は会社法でなく、取引所ルールで規定・規制してはどうか等。
取引所ルールの最大のペナルティーは、退場=上場廃止であるが、運用は取引所の自主規制機関なのだろうか。
 以上の3つは、取引所若しくは取引所的機能で期待される処でもある。
ただし、新しい取引所機能は、その仲介の労を取る者にメリットがないと拡充されていかないとも思われるので、市場仲介者の負担が軽くなるシステムの確立を願っている。


 上場ETF対象の他社株転換可能債―基本的には賛成します (3月13日)
 最近の金融危機から、資本市場における発行機能(プライマリーマーケット)は、未だ回復の兆しが見えない。
政府系金融の買取に頼るCPや社債、また、かつて社債の発行市場があれほど嫌った担保付社債ついて、”カバードボンド機能の活用”として再考している業界関係者をみるにつけ一抹の寂しさを覚える。(※筆者は、欧州の公共体が活用しているカバードボンドの機能に疑問を持っているわけではない。)
 3月13日に報じられた政府・与党の市場安定化策で、久々に発行市場にとって明るい話題があった。
これは、上場投信(ETF)を株式取得機構が買取り、その資金調達をETF転換権がついた政府保証債を発行、これを個人投資家に売るといった内容である。
 仕組みを簡単に述べれば、ETF版他社株転換可能債の発行である。これを、株式取得機能が発行し、政府保証を付け、元本保証した上で、個人投資家に販売し、調達した資金で、市場からのETF購入資金に当てるというものであった。
 株価形成に関する介入是非やETFが株かどうかの議論は置いて、この1995年の日米通商合意から有価証券として認められている他社株転換可能債=所謂EBについて、少し述べたい。
  ○発行者は、通常信用力のある発行体(今回の場合、株式取得機能で政府保証がつく。私募の場合は、買手が納得する発行体)
  ○発行者とは別の企業の株式に転換することが可能(今回の場合は、上場ETF)
  ○株式への転換権が、債券の買い手にある場合は、その機能は通常の転換社債=CBに近く、逆に発行者側にある時は、所謂EB(プットオプション型の)に近いものであった。
〈所謂EBについては、比較的短期の高金利債として流行ったが、株価の下落局面では、結局下落した株式で償還されたので、一部の個人投資家にはイメージが悪いかもしれない。〉
  ○税制面において課税時期が問題となり、他社株転換可能債を購入した時期を基準として、転換権が行使されて株式を取得した時期か、又は対象となる株式を売却した時期か、確認が必要なこともあった。 
 筆者が今回のETFへの転換権がついた社債の発行に賛成するのは、今縮小している発行市場にあって、もう一度この他社株転換可能債の機能を見直す機会になればと思うからである。
 今の段階では、このETF版他社株転換可能債(=日経はETF転換債券と呼称)は未定だろうが、業界にとっては、1000円高速道路と同様にヒットする政策として期待したい。
 但し、これを金融機関自らにさせた方が、営業現場での販売努力もするだろうし、投資家需要に合わせたETF版他社株転換可能債の発行も可能となって、更に金融界の進歩に繋がったかもしれないとも思う。  


金融商品としてみる商品先物―そして市場 (3月11日)
最近は、金でも原油でも何かが上がっていると、ほっとするような状況だか、投資理論の大原則の分散投資も、結局経済が拡大していることが大前提。今回の様な危機には対応できなかったことが検証できただけでも、良しとしなければならないのだろうか。
折しも本年度の金融商品取引法改正では、商品先物取引を金融商品取引とも見做して、証券取引所の下に、商品先物取引所(逆も可能)が開設できる制度変更が行われた。
 年金資金や個人を対象としたファンドまで、原油や食糧など商品先物に投資している現状では、市場の情報とともに、決済機構や取引ルールの制度設計も、金融市場の投資家ニーズに応えられるもの、早急に構築し直す必要がある。
 日本だけの事(勿論、日本の商品先物の制度整備は、喫緊の課題)ではなくて、グローバルにもルール等の整備が必要なのだろう。IOSCO(証券監督者国際機構)による商品先物市場タスクフォース最終報告書が、3月10日公表された。
 これは、昨年前半の農産物やエネルギー商品の価格急騰に対してG8財務大臣会合の懸念から、昨年10月に急騰調査のタスクフォースが設置されたもの。報告書の概略は以下の4点、
○商品先物市場における価格形成に対する投機の影響
 急騰の原因は、投機よりファンダメンタルズ。
○現物市場等に関する情報の重要性
 先物市場は現物市場の情報に、多いに影響される。特に原油に関するデータの統計やその公表に問題があった。
○現物市場等を利用した相場操縦行為の増加
 近年の相場操縦行為は、先物、店頭、現物市場をまたいで行われるようになっているなど、そのスキームが多様で複雑なものとなっている。
○規制当局間の国際協力の重要性
 IOSCO に対して、当局間の協力の制度化検討を要望。
 
 商品先物市場も、間接的には、個人の投資資金も流入しているのだから、情報の非対称性を前提にした市場は、もはや許されない。
 ヘッジファンドに対しても、最近規制論議が高まっているが、市場や制度の歪みをついた裁定取引なのか、何らかの相場操縦なのか、キチッしたルールを自ら公表するぐらいの矜持を求めたい。

経済産業省公表
 商品先物市場タスクフォース最終報告書の公表 


優先株とMSCB (3月4日)
 最近、毎日の様に報じられる欧米大手金融機関の国有化問題であるが、その公的資金の注入の多くは優先株の形でなされている。流通する普通株式とは大きく異なる投資条件を付けることが出来るので、新たな資本の出し手の不安を減じることが出来る。今なら、米政府が米国民にちゃんと説明できる投資の有利さといったところか。
 その有利な条件の中には、配当が高かったり、資本の返済期限があったり、普通株への転換する条件が通常よりも有利だったりする。この様な手法は、前回の日本の金融危機における銀行への資本注入時には多用され、金融機関の再生(?)に大いに役立った。
この様な調達スキームを、金融機関以外に、再生企業や新興企業が利用したのが、普通株式への転換価格を発行後に時価の下落した場合に合わせて修正できる下方修正転換条項付新株予約付社債(MSCB)であった。
 しかし、企業の調達目的とは裏腹に、特に新興市場銘柄では、調達先が第三者割当で内外の証券会社及びファンドが多く、その後の株価下落を招いたと見られた為、実質的には発行が規制されるようになったのが2年前の夏。
3月3日のジャスダック取引所の、ジャレコ社債で注意喚起といった記事で、久し振りにMSCB規制を思い出した。
 規制の概略(証券会社を規制するもの)は、
    ○MSCBを発行の合理性を確認
    ○時価以下に転換価格が修正される場合、(たとえば時価の90%に修正)
      ☆売り下がりの禁止
      ☆一日の出来高の25%までの売り
    ○発行の目的が、業務提携・資本提携以外なら、
      ☆月間の普通株での転換は、発行済み株式数の10%まで
    ○MSCB保有者からの売り注文は、上記の規制を遵守するよう要請
  等、
詳しくは、会員におけるMSCB等の取扱いに関する規則
となっている。
 今回のジャレコ社債については、関係者ではないので解説は避けるが、記者発表分を読んだ限りの感想として、記載者の真面目さは感じるが、やはり資金使途については不明と言わざるえないのが残念である。

 いつ治まるのか、金融不安  (3月2日)
 原因が解消されなければ、当然に経済の回復も望めない。
で、いったいつになったら、金融不安は治まるのかというのは、市場関係者のみならず、何らかの経済活動をしている者の、最大の関心事だろう。
 日銀やFRBその他各国の金融当局がかなり思いっきりのいい市場介入を行い、欧米各国政府による大銀行の実質的国有化策が示されても、金融機関の資金流通は改善しても、この金融に対する不安は、未だ払拭されたとは言い難い。シティ株式を3ドルだといっても、今は市場の方が、心配だから1ドルでも売っておくと不安にかられる。金融バブルの反動の、金融不安ブラックホール化といっては関係者を逆撫でするだろうか。
 しかし、下り坂も必ず底があることを、政府は今こそ市場参加者に示すべきである。その為の矢継ぎ早の市場対策こそ、景気対策に先行して望まれることは、金融・資本市場関係者なら誰しも思うことである。
 例えば、日銀が銀行から保有株式を買い取る・銀行の時価会計を一時停止する、・・というだけではなく銀行の簿価より保有株が下がった場合の損失分を政府保証する・・・
そんな金融不安の解消策を示されているのが、植田東大教授である。(NIRA伊藤理事長との座談会レポート)
 また、金融機関の運用関係者をあれだけ悩ませたバーゼルU対策も、今回問題になっている証券化商品対策だったことを、改めて思い起こしたが、米国がこの規制を一部しか履行していなかったとは、あまり認識がなかった。
 確かに、今回の金融危機の原因は、レバレッジを効かせすぎた米国金融かもしれないが、植田教授が座談会の中で触れられているように、運用成績が悪化しても、そこそこの報酬を受けるファンド・マネージャーや格付け機関など、金融インフラの整備を我々関係者が怠っていたのにも問題の一部はある。
 今後、市場強化策などの金融政策を期待しつつも、ファンド規制など規制は強化される方向にあるのだから、市場関係者も自らのインフラ整備に努力することが、国民から期待されていると思いたい。
 NIRA座談会レポート
金融不安は治まったか


排出量取引―金融商品としての取り扱いを早期に!  (2月13日)
 上海環境エネルギー取引所で既に排出量取引、3月の取引所竣工を前に、日本の政府・経済界に働きかけ。という2/13の日経記事に、久し振りにCO2排出量の価格を調べてみたが、日経・JBIS排出量取引参考気配は1200円(1t当たりのCO2排出量)で、一年前の半分以下、年初の1600円から25%も下げている。一年前に比べて、CO2の排出量が半分以下に減ったのかという悪いジョークは、さて置き、金融商品としての取り組みは、進んでいるのだろうか。
 東証では、年内に取引所開設を目指すというが、誰が、どの様な排出量を、どの様な取引方法で、取引していくのか、一般の方々には分かり難い。確かに、京都クレジットのCER取引前提に議論しているようだが、国内で始まる排出量取引とは?東京都が計画している排出量取引とは?信託銀行が販売し始めた受益権信託型の排出量とは?
また、電力が発行しているグリーン証書、一部流通が始めたカーボンオフセット商品との関連はどの様になるのか。取引の参加者になる金融機関の営業現場で対応できるのだろうか。
(※上記は、其々の制度が違うが、一部リンクしている部分もある。)

三菱総合研究所提供レポート 
 望まれる日本発「排出権」の整理

金融危機で、日本の金融機関も諸々の後ろ向きの処理に追われているだろうが、周回遅れと言われた金融機能を、今こそリードできる可能性があるのだから、業界をあげて早急に金融商品としての排出量取引制度を整備していくことを決意されては如何か。そのことが、この様な厳しい環境の春一番となって、我が国の産業界の競争力強化に結果として繋がると信じたい。ここに文章を書きます。

金融危機、少しだけ単純に考えてみよう  (2月11日)
 少し眉間に皺をよせて、肝を据えたように会見していたガイトナー財務長官の金融安定化策が公表され、市場は失望売りから入った。どうも不良資産買取りの仕組みに市場の不満があるようだが、そもそもの金融危機の原因は、米国発なだから、実効性のある思い切った政策に、大いに期待するのは当然だろう。
 しかし、詳細な分析はアナリストに頼るとして、今回の施策は、失望するほどのものなのか。
 金融危機なのだから、あちこちで金流が滞り、金溜まりをつくって、各経済部分が麻痺してしまう。だから、国債や社債・CPの買取りを積極的に行い、とりあえず短期資金の滞留を解消させる政策を、各国とも実施している。
加えて、米国は不良資産(民間だけでは値段がつけ難い)買取という、長期資金供給に影響が強い施策を、決定した。これで、金流の滞りは、かなり解消に向かうのではないだろうか。
 実態経済の悪化が進むのは仕方ないとして、これで金融=金流の問題は解決に向かわないのであれば、更にドルは暴落してしまうのだろうか。
 市場においてセンチメントは重要だが、最終的な方向性は需給が決める。最近、短期金融市場におけるドル不足という情報は浸透してきたが、ガイトナー財務長官の必死の形相を受けて、米大手銀行の経営者も、意を決して、不良資産の売却に応じることを、祈るばかりである。

日本証券経済研究所提供レポート
国際金融危機と短期金融市場


   

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