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新政権になっても、地方の自治拡大の流れは変わらないだろうし、地方への財源委譲とともに地方自治体の地銀に頼らない資金調達能力の拡充も求められるだろう。その手段としては、地方債の機能整備が第一に上げられる。そして、何が地方債の機能整備に一番重要かという点については、筆者は流通市場整備だと思うが、まだまだ発行機能についても工夫余地がありとの地方債関係者(主に発行体や関連機関)の考え方も強くあるようだ。その中心になるのが、地方債の共同発行という考え方だ。
会計検査院より公表される“会計検査研究”9月号に「地方債の共同発行に関する論点整理」が報告されているが、地方債の共同発行に関しては、共同発行市場公募地方債とこの6月に発足した地方公共団体金融機構(元々は公営企業金融公庫)が取り扱われている。このうち地方公共団体金融機構は、政府保証のない債券を独自に発行して、地方自治体の上下水道や交通など15の公営事業と地方道整備に貸し付ける機能なので、間接的に地方自治体の共同発行と言えなくもないが、地方自治が絡んで市場からは分かり難い部分もあるので、本稿では共同発行市場公募地方債について、金融市場的視点で取り上げてみる。
【共同発行市場公募地方債の沿革と実状】
・2003年4月に、27団体でスタート
・2009年度は、33団体参加で総額1兆3900億円(毎月1200億円程度の発行)
・直近の発行は、8月25日発行10年債(満期一括償還)応募者利回り1.54%=第77回共同発行債
[信用補完](地方債に対する“政府の暗黙の保証問題”は別にして)
・各参加団体が連帯債務を負う形で発行
・各自治体の減債基金の積立金の一部を募集受託銀行に預入れるファンド設定
[共同発行のメリット]
・発行ロットの拡大により流動性が確保しやすくなる。(少額発行の地方自治体に有利)
・信用補完により、信用力が向上して調達コストが低下する。
では、実際の流通市場でどうなっているか以下の状況となっている。(9月8日基準値複利利回りベース:地方債協会)
・第77回共同発行債=1.455%
・長期国債301回リオープン=1.324%
・東京都672回債=1.423%
・北海道平成21年6月債=1.571%
【共同発行市場公募地方債に対するコメント】
金融市場的視点でみると、地方債の共同発行スキームは地方債版CBO(Collateralized Bond Obligation:社債担保証券)と言えなくもない。しかし、CBOの場合は、引受業者が小口の発行ニーズを集約し各引受審査を実施した後に債券を組成するが、共同発行市場公募地方債は、発行体である自治体の共同発行連絡協議会自らがその組成を行う。また、共同発行する自治体の内、三分の一程度は格付を取得していないので、一般からみて格付け比較による利回りスプレッドを比較することが出来ない。
共同発行による地方債発行のメリットは十分に地方自治に活かされるべきと思うが、やはり市場機能を活用しようとするなら、市場基準に沿った対応の方が、投資家層を拡大しやすい。
共同発行の自治体間においても、自ら格付取得しディスクロージャーに注力するところは、単独発行での調達コストも低いので、共同発行調達コストが上回った場合の判断が問題になるようだ。そのことから、東京都そして2007年以降は福岡県・横浜市・名古屋などが共同発行を取り止めている。
地方自治体が自らの資金調達能力として地方債機能の活用を考えるなら、市場規律をもって市場に誘導するのは金融機関の勤めだとも思う。市場の自己責任原則が、各自治体の自治機能強化に役立つよう、業界としての努力も必要だろう。
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政権選択選挙も始まって、10日後には結果が出るのだろうが、選挙戦前の人気知事達の活躍もあって、地方分権(若しくは主権)の動きは強まりそうだ。そうなると財源が注目されるが、税収の国からの移転だけでは当然賄えなく、国債から地方債へ借金の方もシフトしていく動きが多分強まるのだろう。
結果、国債から地方債への金融商品としての重心も移っていく可能性もある。
そこで、金融商品として地方債を考えてみたいが、実はこのことは少し難しいのが現状と思われる。理由は、地方債の多面性にある。例えば、地方銀行が証書(債券発行でなく)で引き受ける部分も、銀行等引受の証書方式といって地方債にカウントしてしまう。また、一時のブーム様な取り上げられ方はしなくなったが、住民向け公募地方債があって、一般の市場公募債を発行している地方公共団体も、病院や記念館・環境施設建設の為に別途地域住民から募集する。更に、10以上の地方公共団体が共同で地方債を発行したりもする。当然であるが、償還財源は各地方公共団体により、別に国が保証している訳ではない。(暗黙の保証といった考え方は、一部にはあるようだ。)この様な、多面性をもった商品を、標準化や透明性も求める金融商品と同一視してよいのかという議論もある。しかし、道州制などで地方分権が強まれば、やはり地方債を重要な財源=重要な金融商品として考えざる得なく、その投資家として海外投資家や個人に馴染む金融商品化する事が求められる。約62兆円(民間消化分)ある地方債残高であるが、金融機関での消化に頼るのではなく、個人や海外投資家に如何に保有してもらうかというのが、金融商品としての地方債の大きなテーマになっていく。
地方債における海外投資家への取組みに関して、地方債協会の研究会により、この3月に公表された報告書があるので、内容をいくつかご紹介する。
・2008年3月末時点で、海外投資家保有の地方債は29銘柄で総計1,072億円全体の0.17%
うち20年・30年の超長期債が投資額の94%
・海外投資家の業態=欧州のカバード・ボンド発行銀行、アセットマネージメント、銀行・生損保・年金、ヘッジファンド、中央銀行、政府系ファンド
・クロス・カレンシー・アセット(自国通貨・短期金利ベースに引き直す)後、LIBORベースでの水準で魅力があるなら投資。カバード・ボンド発行銀行の30年債投資は、ほとんどこの投資。
・アセットマネージメント、中央銀行、政府系ファンドは、円ポートフォリオの中で投資を検討。一部日本国債の代替投資を検討
・2007年度には、東京都・福岡県・地方債協会による地方債の海外IRが行われ、投資家への個別訪問も実行している。海外投資家から求められ情報として、以下の3分野が上げられている。
○地方自治法・財政法など信用力・安定性に関する情報=特に暗黙の政府保証が地方債制度を支えていることを説明する論理構造を説明した資料
○発行スケジュールやアスク・ビットなど、金融商品として発行・流通に関する基本的情報
○欧州の金融機関が、内部格付けシステムに必要とする財務指標等に関する情報=自主財源比率・経常収支率・将来負担比率など
日本株のみならず、日本の債券の受け皿として海外投資家と個人投資家は非常に重要になってくる。海外投資家に関しては、今は規模が小さく、投資スキームが偏っていても、いずれ金融機関の会計制度改善に合わせたような、投資促進の改革を行っていけば、その保有シェアは飛躍的に拡大するかもしれない。一方、個人投資家向けに金融商品としての機能を整えていくことも、業界関係者として期待したい。そういえば、地方債の住民向け発行が始まった8年程前に、ある取引所が個人向け地方債市場を創設されようと尽力されたことがあった。地方債も電子化され、PTSも多様になってきた今こそ、地方債にも金融市場インフラが必要と、改めて思う。
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今回の金融危機は、米サブプライム・ローンで顕在化し、CDS(クレジットデフォルトスワップ)で一層深刻化したが、いずれも証券化商品であった。この金融機関に溜まった証券化商品が、流通しなければ、金融は安定化しないと関係者は誰しも思っているだろう。官民ファンドの動きが注目されるが、一方、証券化市場回復の為、金融サミットでは年内までと期限を区切った取組みが続く。先月末には、証券監督者国際機構(
IOSCO)が、「資産担保証券の公募及び上場のための開示原則( ABS
開示原則)」を公表した。これは、証券化市場回復の為に、開示の基本項目を増やし、共通化し、アレンジャーとなる金融機関にも一部保有を求める考え方だ。
一方、中小企業の資金繰りの為、地域においてCLOやCBOの債券市場を整備していく目的で、東京都債券市場構想や広域CBOの取組みがある。
いずれも東京都が主導しているが、東京都債券市場構想の方は、10年間で16,100社に7,100億円の資金を供給している。ここ3年では、大阪市や横浜市・神戸市なども参加しているが、基本的スキームは、CLOやCBO発行を前提に、信用保証協会の保証がついたローンや社債を、地元中小企業に発行させて、それらを集約した上で証券化する。投資家は、主に金融機関や企業であるが、一部を大和証券などが個人投資家にも販売している。
毎年の発行額は、概ね600〜800億円の水準となっていて1000億円を超えた年も2回ほどあったが、今年3月の発行額は、流石に109億円に減少している。
CLOに関しては、デフォルト率(東京都分について東京都保証協会が代位弁済したもの)も公表されているが、既に償還されている5年分については平均して6%弱となっている。発行額が1,247億円の発行となった2006年3月発行分は、既に13%のデフォルト率に達している。(本年3月末の状況)
また、広域CBOに関しては、これも東京都が主導して、東京都債券市場構想と同様の考え方で、2006年3月に、東京都を含む7自治体(大阪などの政令都市)が参加、期限3年強で発行総額881億円となった。2回目も、2007年3月に発行されたが、発行総額は164億円にとどまった。(3回目の本年の発行は中止)広域CBOに関しては、東京都が運営する専用のホームページまで容易されている。
この広域CBOの1回目元本割れ償還が、7月3日に報じられた。優先劣後の構造で、4本に分かれたうちの3本841億円分がデフォルト対象となり、発行当初のトリプルA格だったB号が85%の償還率になるとのことだ。
関係者への失礼を承知で率直に申し上げるなら、中小企業を対象にしたCLO・CBOのみならず小口ローンを集約したものは、その債券を構成する個々の案件のデフォルトが必ずある。今回の経済危機の様な状況になれば、元本を毀損することも当然発生する。それを承知で、投資家が納得する発行条件をアレンジするのがアレンジャーの能力であり、資本市場の機能である。
東京都債券市場構想の様な取組みは、資本市場の機能を広く利用してくためにも、間違いなく必要である。
また、証券化商品に個人投資家を参加させていくのも必要なことだ。しかし、その為には、格付けなどの信用情報や価格情報を、個人投資家が入手しやすくする工夫が必要だとも今回の件で感じた。
東京都の努力というより、アレンジャーを中心とした金融機関の努力である
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地方証券取引所は、本当に必要なのかという議論をよく耳にする。
結論からいうと、間違いなく必要なのだが、それは存の公開株式を売買する投資家の為ではないようだ。
既存の株式は、電子化されデータとなっているので、どこの誰でも、そのデータにアクセス出来れば、取引は出来る。名古屋、札幌、福岡の各取引所は、その売買システム・情報システムに関して既に東証のシステムに乗っているので、その地方の投資家が、その地方の上場株式を売買する場合であっても、別に地方取引所である必要はない。東証と地方取引所の重複上場のことをいっているのではない。
地方取引所の単独上場銘柄であっても、既に売買・情報インフラは、東証のものを使っているのだから、形だけ、東証の“地方部”として、東証で実質的に売買しても、問題はない。
また地方の企業に不便かというと、売買も情報も、データ化されて、全国の投資家に伝わるので、取引所がどこにあるかは、彼らの問題ではない。新興企業や地方企業は、取引所によって多少上場基準という入口が違うが、成長する企業株を、売買する前提であれば、これも大きな問題ではない。
取引参加者の多くは、東証や大証の参加者なので、市場仲介者の多くも困らない。
多少の暴論覚悟だが、公開株式は東証か大証に集約してしまっても、実は大した問題ではないのだ。
この基準だけで議論すると、常に地方取引所の不要論がでる。
また、地方取引所の運営についても問題がある。
それは取引所の成り立ちに係るが、取引所とは、そもそも取引参加者による取引の場の提供から始まったので、建前上、その運営は、取引参加者である取引所会員によって為される会員制組織である。株式会社されても、会員である証券会社が株主へ入れ替わっただけなので、ガバナンスは、取引参加者である証券会社が握る。その取引参加者の多くは、東証や大証の取引参加者でもあり、別に地方で取引参加するインセンティブは、その全国ネットの証券会社にはない。つまり、ガバンンスを握る全国展開型証券会社に、地方取引所活性化の差し迫った目標を押し付けるのは、無理がある。また、地方取引所の人員不足により、地域の有力企業や金融機関から、スタッフが出向しているが、そのスタッフ中心に、地方市場活性化議論をしてみても、目新しい施策は出にくい。
それでも、やはり地方取引所は必要なのである。
それは、資本市場の裾野拡大の為である。二つの目標があって、
@中小及び新興企業(上場前の)の資本市場機能利用の場の提供
A地域機関投資家の投資関連情報共有の場の提供
と筆者は考える。
時価総額10億以上の企業しか相手にしない、運用資産10億以上の投資家しか情報が流れない・・・そんな大手投資銀行ビジネスモデルを超えて、中小利用型地域投資銀行モデルをサポートする場の提供にこそ、地方取引所の活路があると考える。
具体的には、
・放置されているグルーンシート市場及びフェニックス市場の再活用
・ベンチャー、地方再生ファンドの流動化支援
・私募債流通市場
・地方債流通市場
・地域ファンド組成とその流通
等あると思うが、地方取引所として議論する相手は、これらの売買に関与することが想定される新しい取引参加者である地域金融機関及び地域ファンド等ではないだろうか。
少なくとも、東証と同じ目線で、新興市場活性化策を議論するのは、地方においては意味がないと筆者は考える。
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信用金庫と信用組合は、それぞれ会員(組合員)間の相互扶助を目的として設立された協同組織金融機関であるが、当事者の方々(信金281金庫で約11万人、信組164組合で2万人、8万人強の証券界の1.5倍の従業員規模)には申し分けないが、信金と信組は一体なにか違っていて、そして何が問題なのか、少し整理してみたい。
【実態の概略】
○信金・信粗とも協同組織の非営利法人
○出資は、実質的に地域(信組の場合、業種、職域別もある)を制限された会員(組合員)で、個人もしくは、規模を制限された法人。実態は、従業員が50人未満・売上規模5000万未満の企業が95%を占める。
○預金を預かることに関して、信金は制限がないが、信組は組合員以外の預金は20%までに制限。実態は、殆ど地元の個人・中小企業から。
○貸出に関する制限は、地域外(信組によっては、業域・職域制限)への制限がある。また、会員(組合員)外への貸し出しは、信金は総資産の30%、信組は20%に制限される。
となっていて、以下の問題点を考える上では、大きな違いとはいえない。
【問題点】
○預貸率は、両者とも50%台半ばに低迷している。貸出以外の預金は、預け金として信金中央金庫や全信組合連合会の中央機関に預けられるのと、有価証券で運用されるが、有価証券運用の方が多い現状では、昨今の金融危機の影響が懸念されている。
○地元中小企業への貸出が中心なので不良資産比率が、平成19年度では信金6.4%・信組10.3%と、地銀の4.4%に比べて高いが、最近の経済危機で、更に上昇していると見られる。
○会員は約920万人、組合員は360万人と、合わせると全世帯数の4分の1に及び、この状況は20年間変わらない
以上のような信金・信組の実態を基に、金融審議会のワーキング・グループでは、そのあり方について現在議論されている。
【議論】
・中小企業から資金を集めて、中小企業へ貸し出す相互扶助的組織なのだが、本当に資金を必要とする中小企業に資金が適正に回っているのか。特に新規案件や再生支援など、地元が期待する企業へのコンサルティング機能は、果されているのか。
・金融機関のガバナンス組織の在り方として、総代会制度(株主総会に相当)や理事会制度(取締役会に相当)・監事制度(監査役会に相当)の改革が必要ではないか
・組織の在り方や業務内容(余剰金の運用など)に対して、ディスクロージャーを高めるべきではないか
等であるが、大前提となってるのは、銀行などの金融機関とは異なる相互扶助を目的とした金融機能は、必要だということである。
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金融機関からみると、営業店のお客様の富裕層は、中小企業の経営者と重なることが多いので、中小企業向けの事業承継セミナーを開催するのは、今や当たり前の営業活動だろう。内容は、保険商品から節税対策、そして今はM&Aが中心となっている。
そんな金融機関的な視点を恥じるような中小企業に関するレポートが、常陽地域研究センターの月刊誌JOYO ARC 6月号に公表されたので、紹介したい。
☆経済混乱期における中小企業
早稲田大学商学学術院の鵜飼教授による。
指摘されると当然のことのようにも思うが、中小企業は多品種少量生産である。しかし、これらの受注は、直接か間接的かは別にして、大企業に発注元がある。今回のような経済不況の中、大企業の大減産の影響を一番受けやすく思うが、様々な工夫により環境の変化への対応力・付加価値力をつけて生き残りを図る事例が、その背景まで含めて紹介されていて、目を洗われる思いであった。
この大不況の中でも、不要な不安感を持たず淡々と業務を拡大している事例が取り上げられているが、
○取引先と仕事内容を多様化する。
○仲間の工場と専門的な工作機械など生産インフラを融通しあうネットワークを持っている。
○技術力のある会社同士が、より高度な受注を取るために連携を図る。
など、独自の技術を持つ専門家として生き残る為、自発的・自律的に交流を行い、連携を作りだす努力が中小企業生き残りのポイントなのだろう。彼等は独自の技術に特化した専門家集団なのである。
このような生き残りを図る中小企業に対して、M&Aビジネスとして取り組む金融機関は、大企業へのM&Aサービスとは全く異なる対応が必要なのかも知れない。企業価値向上や企業価値・事業価値判断は、中小企業の経営者自らが行うし、ファンドが求めるような効率性は、現場では通用しない。
そうなると、公的機関や商工会議所が行っているような支援サービス的なことが、中小企業を想定したM&Aビジネスの中心になるのだろうか。
実は、金融の中においても、中小企業が生き残るためには、“多品種少量生産”が必要だと筆者は考える。
顧客が出す多様なニーズに、付加価値をもってサービスしていくためには、顧客からみた専門性が重要になってくるし、金融のアンバンドリングの進展で、大手の金融機関でさえ、一部専門的業務を外注するようになっている。高い専門性が求められるM&A業務も、当然この流れに沿って、最近は独立系のM&Aアドバイザーも増加している。
製造業もM&Aアドバイザーも、生き残るためには、独自の技術(専門性)が必要だが、中小のM&A業者や地域金融機関がM&A業務を推進する為には、M&A関連情報を共有するようなインフラの共有や、適時にお互いが連携できるようなネットワークの構築が必要なことは、生き残っている中小企業を見ても明確である。
公的に準備されている事業承継ネットワーク基盤を、M&Aビジネスにおいて有効に使う為には、これらM&Aビジネスの中小企業(専門家)を積極的に取り込んでいくことが重要である。
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証券の支店や地域金融機関で経営者を相手にしている部門の話を聞くと、その殆どが事業承継といったテーマに集約され、現場でのお客様のニーズも高いのだろう。
以前は、相続税対策の金融商品販売が、営業上の目的だったが、考えてみれば、これは子息など身内に事業を引き継ぐ場合を、想定している。商工会議所などの調査によると、中小企業の6割程度がこのケースで、残り4割近くは、後継者が未定となり、第三者(従業員も含む)への譲渡若しくは廃業を、想定しなければならない。
最近の営業現場でのセミナーも、事業承継―M&Aの可能性についてなど、他者への譲渡を前提にしたものが増えてきている。
また、事業承継に対する公的支援制度も年々拡充されてきており、以下の様な支援の枠組みが整備されている。 【税制】
○事業承継に係る相続制・贈与税の納税猶予制度(平成21年度の税制改正で創設予定) ○事業承継に係る相続時精算課税制度
○小規模宅地等の課税特例 【株式の移転】 ○後継者への自社株式集中を可能とする民法特例
○分散した自社株・事業用資産の取得資金に係る融資制度 ○中小企業投資育成株式会社による株式引受けによる経営安定化
○親族以外の後継者が自社株式・事業用資産を取得する資金に係る融資制度 【第三者との接点】 ○開廃業マッチング支援
○事業承継ファンドによる出資・支援 ○M&A支援事業
税制以外のこれらの施策は、事業承継の現場である地域で、地方公共団体・政府系金融機関・商工会議所などにより取り組まれるが、製造業の中小企業が集積する大阪において、国会図書館が、現地調査を行っており、これを紹介する。
大阪府における中小企業の事業承継をめぐる動向
報告においては、大阪商工会議所が、率先して取り組んだM&A手法の活用である“M&A市場”(1997年4月)が、紹介されている。これは、M&A仲介者などを、登録アドバイサーとしてネットワーク化したもので、企業の売却ニーズ吸上げに、役立っているようで、東京やその他の地域でも、同様のネットワーク構築を模している。今まで25件のM&A成約案件があるという。
中小企業の事業承継対策は、官民あげての取り組みであろうが、これだけ制度が整備されてきたのだから、今後は、民の取組み=特に地域金融機関の対応が期待される。特に、中小企業のM&Aに対して、単なるリレーションシップ・バンク対策での、顧客企業への支援サービスではなく、M&A仲介者としてのビジネスの確立(収益性を確保したサービスという意味)が必要ではないか。
中小企業に一番近い立場にいる地域金融機関が、M&Aビジネスのインセンティブを持ってこそ、中小企業の第三者への事業承継が、促進されると思うのだが。
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証券の営業現場では、ここ数年、経営者向けセミナーは、殆どが事業承継・M&Aセミナーの類が殆どである。かつては、この事業承継は、相続対策→その為の節税金融商品の販売が中心だったが、最近はM&Aニーズに繋がるものが増加している。
一方、地域金融機関においても、地元経営者からの後継者問題・事業承継相談から、直接M&Aの話に繋がることが増加していて、事業承継⇒M&Aの図式が、証券・地域金融機関の営業現場で定着しつつある。また、地域の企業にも、M&A=乗っ取りの様なイメージが薄らいできており、地域における事業再生としても、M&A手法の活用が期待されている。
M&Aの最大のメリットは、売り手は勿論、買い手も、その効果を測定するために、第三者の視点で企業価値(事業戦略を含めた)を測り直すことあると思うが、そのお膳立てをする仲介者機能の充実が必要である。
内閣府の経済社会総合研究所により、この2月に公表された、M&A研究会報告2009においても、地域活性化の為に、M&A活用を促進していく提言がなされている。
報告書の第IV章地域活性化に向けて
地域のM&A事例(2007年以降の報告から抜粋)
地域におけるM&A案件は、全体の2割程度(2008年は売り手ベースで630件)であるが、その動機は、
(イ)地方の金融機関の再編、
(ロ)民事再生、破産、経営難、債務超過等の要因
(ハ)マネジメント・バイ・アウト (MBO)
(ニ)投資会社やフィナンシャル・バイヤーによる投資
(ホ)小売・流通(事例としては小売の事例が多い)
(ヘ)首都圏及び他地域への進出
(ト)大企業からの営業譲渡や大企業のグループ再編に伴い事業を切り出して移すという動き
(チ)第三セクター関連
となっている。
報告内容に関しては、地方のM&A活動の現場での、企業や金融機関の息遣いが感じられるような再生事例記載に、興味を覚えた。また、注目したいのは、以下のポイントである。
○地域金融機関のM&Aに対する取組みで、銀行間では大きな相違がある。
マッチングや仲介業務以外に、
・企業価値算定に関するアドバイス業務
・第三者割当増資に関するアドバイス業務
・中期経営計画策定のサポート
・PMI(Post Merger Integration)等
幅広く手掛ける体制を整備し始めた銀行もある一方、まだ多くは、業務のローテーションの中で対応
○M&A情報の流通の円滑化、信頼できる情報のネットワーク化の必要性
地域金融機関が其々持つ売買ニーズの案件情報を、ビジネスべースでマッチングする為に、ネットワークでつなぐような仕組みが必要
○地域金融機関の支店長の役割が大きくなっている。
M&A関連の相談案件の吸上げ、成約後のフォローアップ
○第三セクターの整理問題における活用
地域再生においては、重要なテーマであり、もっとM&A手法を活用すべきだが、地域における関係者が多すぎて、地域の首長次第か。
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産業再生機構が、また必要な経済情勢が続きそうであるが、地方において、中小企業再生への取り組みが本格化することが、期待されている。企業も人間と同じように、誕生・成長と衰退のサイクルを繰り返すのだから、事業や人材を承継する為に、合併や事業譲渡などM&A的手法が使えれば良い。しかし、事業承継に悩む多くの中小企業は、その前に、不良資産部分を切り離して、再生へのプロセスに乗せるシステムが必要だった。
地域という現場で、地域の金融機関が独力で行う再生支援には限界(再生支援者とお金の貸し手としての利益相反等)があるとされ、1999年[産業活力再生特別措置法](現在は改正法)により各都道府県毎に、中小企業再生支援協議会が設置された。
この活動内容について、日本証券経済研究所レポートで、報告されている。
地域における中小企業再生の取り組み
簡単に紹介すると、支援プロセスは以下の様になっている。
@一時対応:専門家(会計士等)による相談プロセス、再生計画の策定の必要性を判断
A二次対応:再生計画策定支援プロセス
・関係金融機関を含んだ個別支援チームの編成
・デューデリジェンス
・DES、DDS,事業譲渡等の再生スキームの調整
B再生計画の実施におけるフォローアップ
この様な取り組みを行う協議会が、全国47都道府県に設置されており、地域金融機関出身者を含む平均的には5名程度の再生マネージャーによって、中小企業再生を支援している。
中小企業庁によると、2008年末までの相談取扱い企業数累計は16,526、再生計画策定完了数は1,971に達している。
発足当初は、地元商工会議所の相談機能を中心としたものが多かったようだが、2007年に、この47協議会の情報共有や再生計画策定サポートを行うネットワークのハブとして、中小企業再生支援全国本部が、設置された。
この本部から、地方の現場で不足がちな再生専門家の派遣や、地域金融機関との再生条件の調整なども行うことが、可能となっている。
地域企業の再生は、地域の現場でといった意識に囚われず、2008年4月には”中小企業再生支援協議会事業実施基本要領”など現場マニュアルを公表しており、再生計画策定を実務的に機能させていく共有システムとしては、評価できるので、今後の本部の活動に期待している。
地域における企業再生への取組みは喫緊の課題なのだろうが、新しい企業を育てるベンチャー支援対策に関しても、地方現場では専門家の不足が指摘されており、この再生本部の様な共有ネットワークの構築を、”官”に対して強く期待したい。
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地域金融機関による、リレーショナルシップバンク機能強化を目的とした、地元企業への金融サービス取り組み事例が、3月31日金融庁より公表されている。
全体はビジネスマッチング的な対応や経営指導的な事例も多いが、資本市場からみても注目する事例もあるので、ここで紹介したい。
地域密着型金融に関する取組み事例集の公表について
概要は以下の様になっている。
T.ライフサイクルに応じた取引先企業の支援
【事業再生支援:旅館や水産業の再生支援や、外部専門家のチームアップなど14事例】
【経営改善支援:ビジネスマッチングを中心に29事例】
【創業・新事業支援:ファンド活用や産学官連携など18事例】
【事業承継支援:ファンドやM&Aを使った6事例】
U.事業価値を見極める融資手法をはじめ中小企業に適した資金供給手法
【目利き機能の向上:スペシャリストの養成など4事例】
【ABLなどの担保・保障:動産担保の拡大や流動化など22事例】
V.地域の面的再生・地域活性化につながる多様なサービスの提供
【面的再生:地公体と協働した町おこしなど13事例】
【多様なサービス:環境対応やビジネスマッチングの強化など19事例】
上記の事例では、外部の専門家の活用や外部組織との連携強化が多くなっているようにも思うが、資本市場からみて注目したいのは、ファンドの活用とM&A業務の強化である。
一つ目のファンドの活用に関しては、地域企業の再生・ベンチャーの創業などへのリスクマネー供給については、中小機構のファンドスキームが整備されていて、地公体拠出部分を加えると、全体の7割を公的資金で担うことが可能となっている。上記の事例からみていくと、このファンドスキームが活用されているが、注目したいのは、このスキーム活用が目立つ地域には、独立系の地域ベンチャーファンドやプライベートエクイティの専門家集団が育っていることである。
また、もう一つのM&A業務に関しては、同一地域の4つの信用金庫が、顧客企業のM&Aニーズに応える為に、M&A情報と取りまとめる共同の委員会を設置してM&Aニーズを集約化しようと試みていることである。個別企業の情報は、勿論守秘義務で守らなければならないが、M&A仲介者の金融機関同士が、ニーズをマッチングさせる機能を持つことは、M&Aビジネスの拡大に直結する。
この様な仲介者のニーズマッチングの場が整備されていけば、地域金融機関のM&Aビジネスも、実のあるものになると思う。
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金融危機も、どうやら谷を一つ越えた感が出始めている。
社債の発行なども、昨年の10月〜12月期に比べて、本年の第1・四半期は倍以上の発行ということで、ホッとされている金融関係者もおられると思うが、リスクマネーを供給する資本市場の機能回復までは、まだまだ遠そうである。
金融システムに関していうと、今週2日にはG20での金融サミットが開かれるが、ファンド規制やデリバティブ開示などの規制強化は避けられない。今までの、欧米型総合金融から、金融機関側も転換が求められていくと思う。規模と信用のレバレッジをかけたものから、経済実態に沿ったものにビジネスモデルも変化していくのだろう。
折しも、先週日本中を沸かせたWBCでは、日本や韓国などの(投げる・打つ・走る)の基本に忠実な”スモールベースボール”が、結局世界を制した。
資本市場の再生も基本に戻るべきであるが、その入口には、最初に企業にリスクマネーを提供するベンチャーファンドがいる。
その機能について、金融の基本に戻って考える時期に来ているとも思うので、1年前のレポートながら、ベンチャーファンドの実態と環境について纏められた信金中央金庫総合研究所のレポートを紹介する。
地域ベンチャーファンドの可能性
ベンチャーファンドは、既に1兆円弱の投資残高になってはいるが、米英などに比べると一桁規模が違っていて、企業育成の面では、その規模はまだまだ不十分である。
しかし、政策や制度整備などは以下の様に行われてもいる。
○2003年度以降は、リレバン対応により地方銀行の関与が地域ベンチャーファンドについては高まっている。
○中小企業基盤整備機構により、以下の地域ファンドスキームが用意され、地方公共団体が参加した場合は、最大7割の公的資金が提供される。
地域ファンドスキーム
○平成20年度から、エンジェル税制が拡大して、最大1000万円までが所得控除対象となる。
また、この分野の主力プレーヤーであるベンチャーファンドについては、大手金融機関系の大手業者が6割以上と圧倒的でもあるが、スモールベースボールならぬスモールベンチャーキャピタルとしての独立系地域VCの存在感が増してきている。
筆者の感想として、大手VCは予算の関係もあるのだろうか、小口案件の多い初期段階のリスクマネー供給には積極的でなかったように思う。
地域密着の独立系ベンチャーが、今後活躍されることを大いに期待したい。
勿論、その為にはEXIT環境整備が必要なのだが、地域ベンチャーの規模にあったM&AやIPOへの繋ぎをする機能は、地域金融機関に期待されている”スモールベースボール”なのだとも思う。
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国債が、最大の金融商品であることは誰しも否定しないだろう。しかし、個人にまで投資家層が拡大することはまだしも、財政出動が求められる今の様な時期を除いて、国の借金なのだから、発行残高が一方的増加するような市場拡大は、誰しも望まない。金融商品なのに、規模が余り拡大してもらっては困るのが、国債市場の特質でもある。
一方、地方債に関しては、地方自治拡大とともに、マーケット機能を活用した地方債市場の拡大が永年関係者の間では望まれている。
この地方債市場は、当然今後の拡大も予想されるし、また市場化推進の期待もされる分野である。
地方債の発行形態に関して、昔流にいうと縁故債と公募債なのだろうが、今は、
・銀行等引受地方債
・全国市場公募型地方債
・共同発行市場公募地方債
・住民参加型市場公募債
と、4つに分類するようだ。
市場公募型のものは、18都道府県・14政令都市の合計32地公体で発行されているが、最近の金融危機もあって、発行延期などの影響も出ているのは当然だろう。
地公体が、発行者として市場の機能を使っていくなら、市場環境や投資家ニーズに合わせた以下の対応が求められる。
○発行年限の多様化
○変動債やディリバティブ活用の債券の多様化
○発行単位の大型化・発行時期の平準化
そして、市場公募化推進の為には、何より
○引受機関の充実・強化 であろう。
最近、地公体の資産を担保にした欧州型のカバードボンド議論が、関係者間で出始めているが、難しい発行環境の今こそ、引受業者による工夫した提案も必要だろう。
一方、地公体の公金を取扱う銀行による縁故引受も未だに多い。
公金取扱サービスと債券引受リスクはバーダーなどとは、誰も思わないが、今回の金融危機で、逆に公金を預ける7割近い地公体側が、2005年4月のペイオフ解禁後、久々に不安を感じているらしい。
また、公金の運用についても、専門家の不在・金融機関評価手段の未確立などについて、半数近くが認識しているようでもある。
ちなみに、地公体は申請しなければ、金融商品取引法ではプロでも、まして適格機関投資家でもないことを、金融機関側も認識すべきでもある。
野村総研レポート
金融危機が地方債・公金管理に与えた影響と今後求められる取り組み
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会社は株主のものだけでもないし、まして経営者のものだけでもない。しかし、株主のものでもあり、経営者・従業員のものでもあり、その事業に関係する者が属する社会のものでもある。
商工中金が昨年11月に実施した、中小企業の事業承継に関するアンケート調査を拝見して、考えさせられた。
対象は、商工中金と取引のある中小企業ということで約3500社に回答によるものだか、売上規模10億円以上が全体の三分の二・従業員数が50人以上が55%なので、実態は地方における中堅企業といったところだろうか。いま問題になっている雇用では、今後の調整が心配される層でもある。
商工中金提供レポート
中小企業の事業承継に関するアンケート調査
後継者問題で悩む経営者には失礼を承知で、投資銀行的に敢えて中堅企業の事業承継というと、営業現場は、税対策の金融商品(保険を含む)の販売か、M&Aの相談ということを真っ先に思い浮かぶ。
確かに、相続税対策や事業を継承する受け皿探しは大切だか、この中堅企業群の経営者の半数以上が、この問題の相談相手として税理士や会計士を選んでおり、資金繰りから経営まで関与している金融機関を選ぶのは、2割に満たない。
金融機関は、この現実をもっと真摯に受け止める必要があるのではないだろうか。
中堅・中小企業にとって、相続税対策や後継者教育は大事だか、M&Aはもちろん事業の証券化や優先株・ハイブリット調達など金融技術を、今こそ駆使して、中堅・中小企業に対して金融サービスを提供していくことこそ、金融機関に求められている行為ではないだろうか。 |
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