資本市場研究所きずな


証券・投資銀行業務の情報共有で、皆様が使える資本市場を




   
   
 
 法規制

 M&A

 ファンド

ディスクロージャー

ファイナンス

コーポレート・ ガバンス

地域金融

市況・新金融商品


コーポレート・ガバナンスについて
誰が為の公開会社法 (9月14日)
企業が考えるコーポレート・ガバナンス (8月19日)
証券は何を期待されているのか:個人編 (8月17日)
投資家の求めるコーポレート・ガバナンスとは何か(8月7日)
コーポレート・ガバナンス向上の目的は (6月18日)
コーポレート・ガバナンス改革-その全体像 (6月11日)
ガバナンス強化は投資要因か (6月3日)
上場制度の整備について (5月20日)
東証―上場制度改革の方向性 (5月7日)
コーポレート・ガバナンス−監査役の機能強化 (5月1日
投資家にとっての独立取締役 (4月8日)
何故、上場会社のコーポレート・ガバンス改革は必要か (3月26日)
会社機構としてのコーポレート・ガバナンス (3月19日
雇用と報酬―投資銀行の場合 (3月5日)
会社は誰のものか―日経の場合 (2月25日)
会社は誰のものか―コーポレートガバナンス強化における機関投資家  (2月16日)
   

誰が為の公開会社法 (9月14日)
 会社は誰のものか、といったコーポレート・ガバナンス上の議論をする時、それは会社という組織内において権力を有する経営陣を牽制したり、短期的利益の追求から、組織にとって時に横暴と思える要求をする株主の行為を制限しようという意図が含まれる場合が多い。
 勿論、会社は株主を含むステークホルダーのもの(社会全体の)であろうが、公開会社の場合は、市場の機能を使って資金調達もするのだから、投資家という将来株主もこのステークホルダーに含める必要がある。
民主党の新政権になって新しい政策が注目されるが、マニフェストにはなかったものの政策INDEX2009には公開会社に適用される特別法として公開会社法の検討がある。目的は、公開会社の情報開示や会計監査などを強化し、健全なガバナンス(企業統治)を担保する為である。民主党には、公開会社法プロジェクトチームもあり、7月に纏められた素案が9月14日の日経では特集記事となっている。
 この素案は、日本取締役協会や経済財政諮問会議のワーキンググループで検討され2年前に纏められた“公開会社法要綱案(第11版)”がベースになっているようだが、元々の要綱案には、従業員代表が監査役会に参加する案はなかった。
ここで、目的としているコーポレートガバンンス強化の一連の動きについて整理しておきたい。
そのそも、エンロンやワールドコムの不正に限らず、日本でも、虚偽記載や偽装問題など明らかなる不法行為以外にも、大量の第三者割当増資や大幅な株式分割・併合など少数株主にダメージを与える資本政策などがあった。経営者の行き過ぎた行為を誰がチャックするのか、経営者が知らなかったという会社の歪みをどう修正するのか。
このコーポレートガバンンス強化に関しては、2つの流れがあったが、一つは開示の徹底、もう一つは経営や業務に関する監視機能の強化である。
【開示の徹底】
会社法上では、内部統制システム構築の基本方針の明文化義務付け(大会社)とその事業報告での開示。
金融商品取引法では、四半期開示・内部統制報告書の提出。
取引所開示では、適時開示(タイムリーディスクロージャー)の更なる徹底、コーポレート・ガバナンス報告書の充実。
これらの結果として、公開企業の開示負担は、ここ数年相当に重くなってきている。
【監視機能の強化】
・J−SOX法対応ということで、内部統制システムの構築を公開企業はここ数年求められてきた。
・M&AやMBOなどで、経営者と株主の利益相反が懸念されるような場合、最近は第三者委員会を設置して、外部意見書を公表するケースが増えている。
・社外取締役の独立性に関しては、機関投資家や海外投資家などから独立性強化を求める動きが強く、これを受けて上場規則改正の動きがある。
・監査役の監査機能強化については、大会社は半数以上の社外監査役が必要で、その監査機能強化の為にも、監査役選任への監査役会参加や監査スタッフの充実をするための上場規則改正の動きがある。
つまり、コーポレート・ガバナンスの強化に関する開示対応は、現在相当行われているし、監視機能の強化については、取引所の上場規則で対応しようとする動きがある。
 会社法・金融商品取引法・上場規則と確かに3つにわかれている事を、公開会社法として一つに取りまとめることは一見効率的にも思えるが、ことコーポレート・ガバナンス強化を目指すのであれば、今は最近取り組まれた諸々の施策の実効性を見極める事と、この6月まで議論されてきたガバナンス強化策を早急に取引所規則に取り込み実効性を上げる時期ではないだろうか。
 公開会社は、コーポレート・ガバナンス強化は勿論必要だが、企業として成長しなければならない。また、次のテーマとしてIFRS(国際財務報告基準)への対応も控えている。
公開企業のあり方について、常に議論していくことは必要だろうが、統合議論による混乱は、ステークホルダーが避けて欲しいと思うことでもある。


企業が考えるコーポレート・ガバナンス (8月19日)
会社は誰のものかという時に、会社は株主のものでもあるが、そこで働く人や、取引先などステークホルダーのものでもある。ここ数年、コーポレート・ガバナンス向上に向けた取組みは、経済産業省の研究会・金融庁の金融審議会・そして東証などで議論されてきたが、どちらかというと株主若しくは将来株主である投資家寄りであったかもしれない。企業側の立場では、この4月に、経団連が、コーポレート・ガバナンスについての主要論点の中間整理として提言を行っているので、その概要を紹介しておく。
―監査役会設置会社(東証上場企業の約97%)におけるガバナンス強化について
【論点1:社外取締役の設置義務について】
東証上場会社においても、半数以上は社外取締役を設置していない。しかし、取締役会を補完する目的で社外有識者によるアドバイザリー・ボードを設置している企業もある。米国の様に取引所規則で社外取締役設置を義務付けても、不祥事が起きる場合も目につくので、形式論での議論は無意味。各企業の自主的選択が認められるべき。また、企業は投資家との会話を増やす努力をIR活動などで強化していて、取締役が適正な監督を行う見識や能力があるか、株主は投票行動で判断できる。投資家から社外取締役を求める声があるなら、各企業がIR活動を通じて丁寧に説明していかなければならないこと。
【論点2:社外性要件の独立性要件への見直しについて】
 機関投資家や海外から、親会社や取引先等の社外取締役に対する批判がある。経営陣からの独立性に関しては議論されなければならないが、逆にステークホルダーの一員として外部の立場で企業価値の向上に役立っている面もある。その社外性については、取引所開示などで充実してきているので、多様性を認め、最終的には、選任する株主が判断する現行の仕組みが望ましい。
【論点3:監査役の役割と権限の強化について】(社外取締役設置や社外性の独立性強化などが難しければ、監査役の権限を強化してはとの考えがかることについて)
 現在の会社法上、既に、監査役には取締役とともに業務執行に対する監査権限が与えられている。この権限を十分機能させる為、各企業は監査役業務をサポートする事務局体制の充実や内部統制部門との連携整備など各企業が努力していくべき。
【論点4:会計監査人を選任したり、報酬を決定する権限を、取締役から監査役に移すべきとの議論について】
 会計監査人選任・報酬決定に関しては、既に監査役には影響を行使する権限がある。監査役に、会計監査人の選任議案や報酬を決定するという業務執行権限を与えることになれば、監査役は経営陣からの独立の存在としての監督機能を果たすという制度趣旨に反し、業務執行と意思決定の二元化をもたらしかねない。(筆者注:この部分は分かり難いので、主要論点の中間整理(概要)の記載そのまま)
【論点5:総会における議決権行使結果の公表】
 最近は多少増加したとはいえ、それでも総会議案の投票結果公表は30社弱程度。株主とのコミュニケーションを一層充実させる観点から評価できるが、実務的に株主総会当日出席の賛否の詳細集計を省略している場合がある。また投票結果を広く公表することで、株主総会の外からの影響力が増大する心配もあり、個々の企業の判断に委ねるべき。
【論点6:大規模第三者割当について】
 有利発行でない限り、授権株式の範囲で取締役会に授権された権限ではあるが、株主が予想しない支配権の移動や、権利の希薄化は問題。発行会社としてのアカウンタビリティを充実させ、既存株主の権利が不当に毀損されないよう、取引所での割当先に対する実質審査や開示は充実されるべき。

 上場企業の開示負担は、四半期開示・内部統制報告書など相当に重くなっているし、IRコストも増加している(日本IR協議会調べでは、2008年のIRコストは1社当たり2,210万円と大幅に増加している)。また、上記のようなことを、コーポレート・ガバナンス強化目的で、全て上場規則化してしまうのも、途中でルールを変更する競技のようで、競技参加者としての企業は負担に感じるのだろうか。
 しかし、企業としてコストも余り掛からない経営判断によることなら、投資家・株主との会話促進や総会運営の透明性確保努力など、合理的な物差しで対応していただきたい。


証券は何を期待されているのか:個人編 (8月17日)
証券業も金融サービス業なのだから、サービスを受ける側の投資家が、何を望んだり何を不満に思っているのか、個人の場合について少し考えてみたい。
 金融庁が定期的に公表している“「金融サービス利用者相談室」における相談等の受付状況等”の4月〜6月分では、個人から同相談室に毎日200件以上の金融サービスに関する質問・相談・意見等が寄せられているようだが、その内約30%3,815件は投資商品・証券市場制度等の金融商品取引法関連所謂証券関連業務分である。
 主要な証券業務別に、その相談等の事例内容をみてみると、
【金融商品の販売に関して】
・株式、債券、投資信託等の金融商品を購入しようする際、財産の状況を詳しく聞かれたり、長時間の説明を聞かなくてはいけないかとの問い。
=金融商品取引法により、契約締結前の書面交付義務があったり、金融商品の販売時に、適合性の原則の確認等の行為規制がある為、初めての顧客に関しては長時間の説明・確認行為が行なわれているようだ。
しかし、顧客が不快に感じない時間内での対応が出来るよう、確認作業の効率化やネット活用などは、サービス業として取り組む課題なのだろう。
【投信の販売に関して】
・銀行で投資信託を購入する際の注意に関する問い。
=銀行・郵便局でも投信の購入が可能となるのは良い事で、何処でその投信を販売しようが金融商品取引法上は、前述のような義務と行為規制に対応しなければならない。もし、銀行で売っているものは元本が保証されると錯覚する投資家がいるのであれば、金融教育の問題のような気もするが、投資家としての自立も求められるのではないだろうか。
【未公開株式について】(今回は未公開株関連の相談が大幅に増えている)
・金融庁等との関係を騙って、未公開株を勧誘したり、買い増しを薦めたりする業者に関する相談
・既に購入している未公開株式に関して、買い増しや買取りに関する詐欺的行為に関する相談
・業者から、値上がり確実等の勧誘をうけた相談
・購入した未公開株の名義書換えに応じない業者に対する相談
・事業会社からの未公開株勧誘にかんする相談
=IPO市場が低調なのに、上場等を前提にした未公開株勧誘に関する相談が増加しているのは皮相な想いもする。中には、取り込め詐欺的な事例もあるようだが、反面、成長期待のある未公開株投資に関して、個人投資家側の強い期待もあるのだろ。しかし、業界としてこの成長企業投資ニーズに応える努力が不足しているのも、事実ではないだろうか。IPO企業が少ないのは、審査ルールの厳格化に業界が上手く対応していない結果(決して経済や市況環境だけではない)だし、未公開株で唯一勧誘が認められているというグリーンシート市場銘柄は、実際に取り扱わない証券会社が多く、情報も一般の投資家から遠い。
ベンチャー投資に関しては、上場ベンチャーファンドや所得控除が1000万円近くまで拡大されたエンジェル税制などの施策があるが、業界の営業現場では殆ど取り扱われない。相談事例の様な業者を排除する為には、業界として未公開株投資ニーズに応える取組みが必要だし、それが成長企業へのリスクマネー供給にも繋がる。新興市場・グリーンシート・ベンチャーファンド・ベンチャー投資への取組みは、業界の頼る資本市場の基盤作りとして考える時期かもしれない。  



投資家の求めるコーポレート・ガバナンスとは何か(8月7日)
企業は株主のものでないと担当大臣にコメントされるのも寂しいが、間違いなく企業は株主のものでもある。そして、コーポレート・ガバナンスは、ステイクホルダーに配慮されたものであるが、株主特に少数株主の立場を守るという原則が貫かれていると信じたい。経済産業省の企業統治研究会より6月に公表された報告書においても、経営に直接関与することのない一般株主(機関投資家を含む)にとって、経営者に近いところで、企業価値の向上についてモニタリングする仕組みとして、社外取締役・社外監査役に期待する意見が強いとされている。大量の第三者割当や、MBO、買収防衛策の導入などが、独立性の高い社外の目で、企業価値を向上させるかどうかとの視点でチェックして欲しいのである。
 しかし、東証上場企業においても社外取締役は、監査役設置会社の55.9%が導入していない。(数字は、東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2009で、2008年の各社コーポレート・ガバナンス報告書をベースに集計。以後の数字も同様)また、社外取締役がいても、親会社・関係会社・大株主・親族など経営者との関係が近い者が41.8%では、その独立性が問題にもなる。 独立性の高い社外取締役が東証上場規則で義務付けられるか、今夏以降の上場ルール改正で注目されるところである。
一方の議論として、監査役会設置会社(マザーズの18社を除く)は、その半数が社外監査役であることが義務付けられているので、監査役会機能の充実する考え方もあるようだが、社外監査役の20.4%は親会社・関係会社・大株主・親族など経営者との関係が近い者であるという現状もある。
投資家としては、企業価値向上の為の判断が出来る機能で、ある程経営者に牽制機能が働く独立性が大事なので、独立取締役導入の上場ルール化が難しいのなら、企業価値向上のコーポレート・ガバナンス格付けの様なものを取引所が公表し、投資家に投資判断材料として提供する仕組みを作ってはいかがだろうか。
その分が取引コストとして負荷されても、投資家側のクレームにはならない。
次にコーポレート・ガバナンス報告書が開示を求めるものとして、取締役へのインセンティブ・報酬関係があるが、ストックオプショが33.6%、業績連動報酬が17.3%の企業が導入している。業績連動報酬制度としては、ストックオプションは好ましく思えるが、投資家としては、社外取締役や社外監査役に付与する必要があるか、付与対象はどのマネージメントの範囲までなのか、権利行使の条件が業績と連動しているか、又、役員の退職慰労金制度と代替としては、付与条件・行使条件が適切かなど、実はストックオプションの中身について開示及び評価がされなければならない。報酬額の個別開示に関しては、コーポレート・ガバナンス機能上それほど問題ではないが、株主代表訴訟に備えた責任限定規定が定款に定められている場合は、実質的な総報酬として開示されるべきだろう。
株主にとって起業に対する具体的行動を起こす場である株主総会関連の運営に関する事は、実務的に重要な部分であるが、最近の注目度は低いようにも思う。
・株主通知の早期発送:法定期日よりも3営業日以上以前に発送した企業は、全体の33.0%
・総会集中日の回避:3月決算期のうち集中日を回避した会社は。38.4%
・電磁的方法による議決権行使:ネットによる議決権の行使など、電磁的方法により議決権を行使できる会社は全体に20.4%と未だに低い。また東証が提供する機関投資家向け議決権行使プラットホームへの参加者数が338社に留まっているのは、この問題に対する企業側の基本姿勢を疑う。プラットホーム参加のコストが問題であれば、いっそ協会等が負担しては如何か。
最後にディスクロージャーの問題になるが、個人向け説明会の定期的開催企業は全体の26.9%、アナリスト・機関投資家向け説明会開催は70.9%、海外投資家向け説明会開催は16.3%となっている。
個別企業のIRに対するスタンスが異なるのは構わないと思うが、株主間や投資家間で、会社情報に関する情報の非対称性が発生することは、コーポレート・ガバナンス上も問題がある。その様な配慮として、説明会内容のホームページ上での開示は、必須と理解していただくよう取引所や協会は、企業に働きかけるべきである。コーポレート・ガバナンスの基盤作りの為に。


コーポレート・ガバナンス向上の目的は (6月18日)
 上場会社のコーポレート・ガバナンスについて、永年議論されてきた。金融庁の金融審議会での“我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ”において2年半、経済産業省では研究会の名称が変わっていったが、ここ5年以上は議論されていた。
 そもそも、このコーポレート・ガバナンス向上は、何の為だったのだろうか思い出してみたい。前商法の改正・会社法制定により、委員会設置会社など会社形態の選択肢は随分広がった。また取締役会の権限も強化され、企業統治のあり方もコーポレート・ガバナンスとして議論された。しかし、日本の企業の企業統治のあり方とは別に、これは上場会社のコーポレート・ガバナンス強化なのだ。
 10年以上前の前回金融危機で、金融機関の保有する株式の受け皿として、外人か個人しかいない中、国際的な投資基準として、海外に通用するコーポレート・ガバナンスの強化が求められていたはずだった。
 その間、買収防衛策議論や不正会計処理、MBOやM&Aでの取締役会と株主の利益相反問題などが顕在化した。米SOX法などの影響もあり、内部統制も強化されたが、日本の上場会社のコーポレート・ガバナンスは、国際的な投資基準からみて改善されたのだろうか。
 17日、金融審議会のスタティグループ・経済産業省の企業統治研究会それぞれがコーポレート・ガバナンス向上にむけた報告書を公表した。金融審議会の方は、既に拙稿(6月11日)で取り上げているので、ここでは企業統治研究会報告書の提言概要について紹介したい。
提言内容を纏めると、
上場会社の企業統治の形として、以下の3つの形態がある前提で、
A:委員会設置会社(東証上場企業の2.3%)
B:監査役会設置会社で取締役会に社外取締役がいる(同43.7%)
C:監査役会設置会社で取締役会に社外取締役がいなく、監査役会の社外監査役のみ(同55%)
カッコ内の実情を踏まえて、
【社外役員(取締役・監査役)の独立性】
・当該会社及びその子会社のCEO等でない事に加えて、親会社・重要な取引先の親族も含めてCEO等でないことを独立性の要件に。(3ないし5年年限が経過していれば要件を満たすとの考えもあり)
【社外取締役】
・一定数の社外又は独立取締役の導入をルール化。
・導入が困難な場合は説明を求める。
【法規制】
・会社法改正と上場規則等の制定を組み合わせる前提。
以上のような内容となっているが、昨今の経済危機を意識して、欧米型ガバナンス強化への信頼の揺らぎがあるのだろうか、独立性の確保に関しては少しトーンダウンしている感がある。
 しかし、この上場会社のコーポレート・ガバナンス強化について、別に欧米の年金基金向けだけではなく、新興国の機関投資家など、国際的な投資判断基準に耐え、かつ先端を走って海外投資家の信認を得ていかなければ、資金は東京市場に集まらないとの認識が、市場関係者にはあったはずだ。
 この基本に帰って、東証ルールでの規則整備を関係者には望みたい。  


コーポレート・ガバナンス改革-その全体像 (6月11日)
 上場会社のコーポレート・ガバナンスに関する強化案が、6月10日金融審議会の“我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ”で、報告書案として明らかになった。
このスタディグループでの議論は、過去何度か取り上げたが、報告書案も出たところであり、その全体像を紹介して、今後の展開を推測してきたい。
 報告書案によると、コーポレート・ガバナンスの問題は、企業と投資家双方の問題としているが、まず資本市場における企業の問題行動を、規制する事項として、以下が挙げられている。
1.新株式の発行等
(ア)第三者割当増資一般についての対応
―資金使途の詳細・割当予定先との資本関係・事業上の契約や取決め・割当先の保有状況や保有方針の詳細・増資資金の手当ての確認などの開示を、法定開示及び取引所ルールで。
有利発行かどうか明確でない場合、発行価額について監査役の意見表明及びその公表の義務化。
(イ)希薄化や支配権の移動を伴うような大規模な第三者割当増資等への対応
―第三者からの意見表明若しくは株主総会決議へ。取引所でのチャックの強化。
(ウ)MSCB等の発行に対する対応
―既にルールは整備されているが、MSCBに類似した取引も対象へ。発行条件の合理性や行使状況を開示。
(エ)当局や取引所等における執行面の充実・連携強化等
―金証法157条(不正行為の禁止)違反も、課徴金の対象へ。
2.キャッシュアウト
―現金を対価として行う少数株主の締め出しに関して、第三者割当後の予定がある場合は、開示を義務化。
3.グループ化
―子会社の経営上の重要な行為や経営状況が、重要な影響を与える場合の、当該子会社経営陣の見解の開示。
4.子会社上場
―取引所ルールで、親会社から独立性の高い社外取締役及び監査役の選任を求める等、少数株主の利益に配慮。
5.株式の持合い
―持合い状況の開示へ。銀行保有株については、銀行等保有株式収得機構の活用等で解消することを望む。
次に、会社の機能であるガバナンス機構に関しては、
1.取締役会のあり方
―取引所がコーポレート・ガバナンスのモデルを提示、上場会社はガバナンス体制の内容とそれを選択した理由を開示。
2.監査役の機能強化
―監査役監査を支える人材・体制の確保、独立性の高い社外監査役の選任、財務・会計に知見を有する監査役の選任。
3.社外取締役・監査役の独立性
―独立性に関する会社の考え方の開示
4.監査人の選任議案・報酬の決定権
―監査人の選任議案・報酬の決定権を、監査役の権限とする。
5.役員報酬の開示
―役員報酬の決定方法及び報酬の種類別内訳の開示。
また、投資家による議決権行使等もめぐる問題については、特に機関投資家の議決権行使について、
@受託者責任に基づく適切な議決権行使の徹底
A議決権行使に関するガイドラインの作成及び公表
B議決権行使結果の公表
が、機関投資家それぞれに求められており、上場会社はこれに対して、
@上場会社等による株主総会議案の議決結果の公表
A議決権行使に係る環境整備(総会日の分散、招集通知の早期発送、ホームページへの掲載等)
B議決権電子行使プラットホームの利用促進(現状1割程度)
C有価証券報告書・内部統制報告書の株主総会提出
となっている。

いろいろ議論もあったようだが、これらは主に上場規則などの取引所ルールや、開示省令の改正によって今後進められそうである。



ガバナンス強化は投資要因か (6月3日) 
上場企業のガバナンス強化に関して、金融審議会の“我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ”において、現在議論されているが、委員会設置会社であれ監査役会設置会社であれ、社外取締役・社外監査役の独立性が問題になっている。
 中小企業まで含めた会社法が定義するところの、社外取締役・社外監査役の独立性は、上場会社としてガバナンスに関与する監督機能の中で、本当に社外のチャック機能が働くのか。親会社や、大手取引先で会社の業務に近い者が、外部の目で業務執行を監督出来るのか、社外取締役・社外監査役の独立性について、特に海外投資家・機関投資家から問題視する声が強い。
 コーポレート・ガバナンス強化に関する具体的な要望としては、「東証上場会社のコーポレート・ガバナンスに関する投資家向け意見募集に対して寄せられた意見の概要について」(2008年8月)によると、以下の要望が寄せられている。
◇大幅な稀釈化を伴う新株発行および不透明な割当先に対する第三者割当の制限
◇株式持合いに関する情報開示
◇株主権を奪う株式併合の制限
◇買収防衛策の導入および発動条件の強化
◇社外取締役の導入促進と独立性強化
◇社外監査役の独立性強化
◇議決権行使時の制約緩和と行使結果の開示
 また、海外の有力機関投資家の団体であるエイシアン・コーポレート・ガバナンス・アソシエーション(ACGA)は、日本企業に最低3人の独立取締役の導入を求めている。
 確かに、昨年までは買収防衛策をブームの様に導入する企業が増えていたし、大幅な第三者割当や株式併合など資本政策で、一部新興企業の問題ある行動が目立った。
 コーポレート・ガバナンスが強化され、経営の透明性が高まった方が、確かに投資し易いだろうが、では、日本の株は、本当にコーポレート・ガバナンスに問題があるので買われないのだろうか。
 昨年、外人は3.7兆円日本株を売り越したが、これは金融危機を契機とするヘッジファンド等の売りが主体だったとする向きがいる。しかし、金融ビックバン以降順調に増加してきた外人持ち株比率も、ここ数年で頭打ちとなっていて、海外機関投資家が、日本株を買い進んでいるとは言えないことも事実である。
 では、コーポレート・ガバナンスが強化され、今議論しているような独立取締役制度が導入されれば、外人や機関投資家は、日本株を買うのであろうか。

 ニッセイ基礎研究所が、独立性の高い社外取締役を有する企業と、それ以外の企業の外人持株比率を比較したレポートを公表している。
ガバナンスは、海外投資家の銘柄選択要因となるのか
当レポートによると、
○独立性の高い社外取締役のいる会社の外人持株比率は、平均で17.4%と、社外取締役のいない会社の平均12.6%を大きく上回っている。(独立性の低い社外取締役しかいない会社の平均は、12.7%)
○過去11年間の外人持株比率の増加をみても、独立性の高い社外取締役のいる会社は、9%増加しているが、社外取締役のいない会社は、6.8%増加に留まっている。(独立性の低い社外取締役しかいない会社は、5.8%増)
 独立性の高い社外取締役の導入が、海外投資家の銘柄選別に影響を及ぼした可能性は、高いと言えるのではないだろうか。
 


上場制度の整備について (5月20日) 
表題の様なことを書くと、一昔前なら大半が新規上場の為の基準やルール改訂に係るものであったが、商法(会社法)での資本取引の原則自由化や会社組織の柔軟化など、上場会社が取り得る資本政策が多様化して、株主及び投資家に判断に大きく影響することも随分多くなった。
 例えば、
○極端な株式分割や株式併合
○現物市場と裁定のし易いMSCB・優先株式の発行
○企業価値を毀損する可能性のある買収防衛策
○大量で支配株主が変わるような第三者割当
○開示される財務上の数字の虚偽記載
 これらの事に対して、今までは個別に対処したり、企業行動規範ということで、上場企業が順守すべき事項として定め、公表措置に原則ペナルティが限られていた。(適時開示等の規則違反に関しては、改善報告書を求め、上場廃止まで至る事案かどうかは個別に審査していた。)
 極論して申し訳ないが、上場という入り口では、その基準は明確だったが、上場維持の為のルール、若しくは上場廃止に至るルール違反の基準が、資本市場の変化に追いついていなかった。
 この事に関して、5月19日東証より、今までの企業行動規範を上場ルール化するような制度整備が好評されている。
 つまり、今までの企業行動規範の遵守すべき事項に違反した場合、今までの公表措置に加えて、上場契約違約金という金銭的ペナルティーを課すことをルール化する。加えて、改善報告書の提出を求め、一定期間は特設注意市場銘柄として指定する。
 また、適時開示等の規則違反についても、今までの改善報告書を求めることに加え、公表措置を明文化し、上場契約違約金を課す。これも、一定期間は特設注意市場銘柄として指定する。
(今までの、注意勧告制度は廃止する。)
 大枠は以上の様に、(上場維持の為の)ルール化を明確にするもので、個別に整備されることでは以下の対応がある。
〈第三者割当で、大量の株式が発行される場合〉
・希薄化率が300%を超える場合は、上場廃止。
・支配株主が異動した場合、支配株主との取引について年一回以上報告義務。3年以内に健全性が著しく毀損し、他の株主の利益侵害するおそれが大きいと認められる場合、上場廃止。
・希薄化率が25%以上の場合は、独立性の強い外部の意見書若しくは株主総会での決議(緊急性の高い場合は除く)
〈第三者割当〉
・割当先の資金手当ての確認
・発行価額の算定根拠及び具体的説明
・割当先が反社会的勢力と関係ない旨の確認書 等 を必要とする。
〈株式併合〉
・株主が不当に議決権を失うような場合は、上場廃止。
〈MBO〉
・MBOを行う場合、必要十分な適時開示を行うことを、企業行動規範の遵守すべき事項として定める。

 以上のような、上場規則の明確化は、資本市場では好ましいことであるが、今回の企業行動規範整備にあたって、東証への事前相談要請も、明文化されている。
 制度浸透の為には必要なことかもしれないが、事前相談が、行き過ぎた窓口規制にならぬよう、企業との対応現場で、規則整備の目的の徹底を、東証にも、お願いしたい。



東証―上場制度改革の方向性 (5月7日) 
上場会社のコーポレート・ガバナンス強化について、上場規則により、定めようという金融審議会等の動向は、お伝えしているが、先月23日、東証の上場制度整備懇談会より、上場会社のコーポレート・ガバナンス強化の一環として、「投資者が安心して投資できる環境の整備」と「株主と上場会社の対話促進のための環境整備」を目的に、以下の提言が公表されている。
安心して投資できる市場環境等の整備に向けて

提言のポイントは、
○第三者割当について
 ・既発行株数の300%を超えるものは、取引所の上場に関する審査の対象
 ・既発行の25%から300%は、株主総会若しくは独立機関からの意見確認
 ・割当先が支配権の移動のある場合、その株主との間の取引について確認
 ・10%を超すディスカウントの場合、監査役の意見を公表(CB、新株予約権は必須)
 ・割当先の資金手当ての確認、公表
○株式併合について
 ・株主併合の結果、多くの株主が、支配権のない単元未満株主へ移行を余儀なくさせられるようなケースは、取引所による実質審査のプロセスを設ける。
 ・株主の利益にできる限り配慮して、反対する株主の株主買取請求権が確保されるような代替手段がある場合には、これを求める。
○議決権行使を容易にするための環境整備について
 ・集中日開催日の回避(最終日の一日前に9割以上が集中した状況は、2008年度48%と改善されているが、最終週への集中は、まだ85%)
 ・招集通知の早期発送(発送から総会まで、法定期限の2週間に対し、平均18日となっている)
 ・招集通知等の電磁的提供(HPでの開示は、全体の35%のみ)
 ・招集通知等の英訳(全体の15%が対応)
 ・電子投票の導入(全体の21.9%が導入)
○議決権行使の開示について
 ・欧州では、インターネットによる開示が義務付への方向性が決定している。

 会社法制定までに、旧商法では保守的に解されてきた会社の資本政策について、金庫株解禁・新株予約権制度・種類株の整理・株式分割と併合・資本準備金の扱い等、順次定められて、取締役会が取り得る資本政策の自由度は、ここ10年で随分と増した。
 勿論、既存株主に悪影響を与えるような資本政策は、ごく一部の企業に過ぎないのだが、上場会社である以上、不特定多数の株主及び投資家に対応する義務は、全ての上場会社が負うものである。
 最近の開示制度の改革や、内部統制対応で、企業の負担は相当増加していると思うが、先ずは比較的コストがかからない、HPでの情報開示の強化・電子投票の導入などは、早々に対応してほしい。
 また、機関投資家・海外投資家の議決権行使を促進する議決権行使プラットホームの参加が、まだ339社と東証上場会社の15%未満なのは、問題である。この制度などは、本来は企業側のメリットが大きいはずだが、コスト負担を嫌う企業側の意向があれば、いっそ取引所のインフラとして、取引所自らがコストを負担し、企業の利用を強制させては如何だろうか。





コーポレート・ガバナンス−監査役の機能強化 (5月1日) 
3月期決算発表も、たけなわになってきたが、企業によっては6月の株主総会への準備に追われる時期でもある。会社法という企業活動を支える法律が、2006年5月1日に施行されてから、ちょうど3年が経つが、その間、企業の不祥事もあったし、資本市場でも、大量第三者割当やMSCB、買収防衛策問題などがあった。
別に、海外投資家を意識しなくとも、公開企業のコーポレート・ガバナンス強化は、資本市場における最優先課題である。
 ガバナンス=監督機能であるから、企業の日常の行動を監督するのは、取締役会の機能の基礎。と教科書的であるが、前段の問題に対応する為、取締役会に、外部の独立性の強い機能を、取り入れようというのが、金融審議会等での、議論の中心になっている。
 企業のガナナンス=監督機能の形は、以下の3つある。
1.委員会設置会社:(指名・報酬・監査3つの委員会からなり、各委員会の半数は社外取締役)
  東証上場の2351社中、56社で、全体の2.3%
2.社外取締役:(現在の議論は、この社外取締役の独立性を強めた”独立取締役”制度導入を、上場会社に義務付ける案が中心か)
  東証上場の2351社中、監査役会設置会社2295社であるが、その中で、現在の基準の社外取締役がいる企業数は、1003社で、全体の43.7%
3.社外監査役:監査役会の半数が、社外監査役でなければならない。
  東証上場の2351社中、社外取締役のいない取締役会での監査役会設置会社が、1292社で全体の55%
 改定が予想される東証上場規則で、独立取締役の導入が義務付けられるか分からないが、3.の様な会社が過半数を占めるのだから、先ずは監査役の機能を強化してはどうかという流れもあるようだ。

 以下、金融審議会資料から、その案の内容を抜粋すると、

○社外監査役(社外取締役も)の社外性を、独立性の観点から厳格化する法改正
○監査役会議長は、社外監査役。社外監査役の役割強化
○買収防衛策に対しては、社外監査役(社外取締役)を構成員とする特別委員会で判断
○大規模第三者割当増資・親子上場について、監査役会による意見を開示
○株主提案については、その是非について監査役も判断するよう法改正
○監査人の選任・監査報酬に関して、現在の同意権から、提案権を新たに付与
○監査人による内部統制監査報告書の株主総会提出、併せて株主総会提出の事業報告及び監査役会監査報告に内部統制の運用結果等に関する評価を記載するよう法改正

 会社法によって、企業は多様な運用形態で運営されることが可能となったが、公開会社としての責任は、その運営の透明性を高める=つまり業務がどの様に管理され、また誰がどの部分に関して、責任があるのか、明確にすることだと思う。


投資家にとっての独立取締役 (4月8日)   
上場会社等のコーポレート・ガバナンスは、何故強化されなければならないか。
 法制度議論は別にしても、資本市場的見方をすれば、安心して投資してもらう企業の在り方が注目されているのだろう。 
 現在、経済産業省の主催する「企業価値研究会」や金融庁の金融制度改革の為の「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」(金融審議会)で議論がされ、ガバナンス強化への取り組みの主要テーマになっているものとして独立取締役の導入がある。
 この独立取締役に関しては、海外の機関投資家なども強く求めているものではあるが、では会社法に定める社外取締役では不足なのか。会社法施行時にも、この社外取締役の独立性は問題になったが、会社法は上場会社だけのものではないので、社外=独立性の問題は、結局それぞれの立場で判断するということになった。
 しかし、上場子会社での社外取締役が親会社や主要取引先からでは、いったこの社外の意味は何であろうかと、投資家でなくとも思う。
 また、日本の主要な機関投資である厚生年金基金連合会(現企業年金連合会)では、平成16年に”株主議決権行使基準における社外取締役の独立性に関する判断基準”として以下の独立性のない要件を上げている。
@企業又はその子会社の業務執行取締役又は社員として勤務経験を有する者。(5年以上経過した場合は除く)
A企業の大株主又は主要な取引先企業の業務執行取締役又は社員。
※大株主とは、総議決権の3分の1以上の株式を保有する者をいう。
※主要取引先とは、当該企業への売り上げが上位10社に入るような会社をいう。
B企業から取締役報酬以外(コンサル料等)に報酬を受けている。
C企業の取締役と親族関係にある。
D当該企業との間で取締役を相互に派遣している。
Eその他、当該企業との間に利害関係を有し、社外取締役としての職務を遂行するのにふさわしくないと認められる場合。

 では、独立取締役導入で上場企業の経営者にとって、負担やリスク以上のメリットはあるのか。
海外機関投資家が言うように、独立取締役を3人まで増やしたら、企業を支持する投資家は増えるのか。結論は、制度導入後の実証研究がないと言い切れないが、以下のコラムで独立性の高い社外取締役を選任している企業と、そうでない企業の外人持ち株比率を比較されている。
RIETIコラム
独立取締役の導入は、海外投資家の市場参加を促すのか

結果は3割以上保有比率が違うそうだ。
 独立取締役が機関投資家の投資を促進する要因かどうかは正確には分からないが、M&Aや企業再編などの重要な決定をする場合、推進力に対する制御システムは、上場会社の中にあった方が良い。ただし、会社法や金商法、若しくは公開会社法という法律で定めるのではなく、取引所ルールのようなソフトローでの方が、資本市場関係者としては好ましく思う。

 
何故、上場会社のコーポレート・ガバンス改革は必要か (3月26日) 
3月26日の報道で、米国の社債市場回復(といっても高格付け企業の)が伝えられていたが、日本の発行市場は、回復というには程遠い状況だと思う。
 そもそも、信頼できる資本市場でなければ、リスクマネーを引き付けることなど出来るはずがない。その為の、金融・資本市場改革であって欲しいが、再三お伝えしているように、現在金融審議会の我が国の金融・資本市場の国際化に関するスタディグループで、上場会社等のコーポレート・ガバナンスのあり方について、検討されている。
 ルール整備等の手法論点は以下の3つで、
 (1)法制度のあり方
 (2)取引所ルールのあり方
 (3)その他手法のあり方
で、この中で監査役会機能の充実や独立社外取締役の拡充、公開会社法の検討などが議論されている。
 この上場会社のコーポレートガバナンス強化と目的には、当然その原因となる上場企業の不祥事があった訳であるが、審議会資料として最近3年間で11社の不祥事分析がされているので、ここに紹介する。
 株式会社プロティビティ ジャパン作成
不祥事事例の分析レポート 2009 年3 月版
中には、資本市場の仲介者たる金融機関の事例もあって、資本市場への信頼回復は、ここから徹底すべきとも思える部分もあるが、不祥事に至った主な原因を以下の様に上げている。
 ○経営者の問題(リスク認識欠如・保身による隠蔽)=3件
 ○内部環境(売上至上主義・法令順守の社内体制)=2件
 ○法令順守などのリスクの評価・対応=2件
 ○管理体制やマニュアル不備などの統制活動=2件
 ○監視活動の問題=2件
となっている。
 会社は誰のものかといった議論から我が国のコーポレートガバンナンス議論は始まったようにも思うが、今どき会社は株主のものだけと思っている人は、この国の資本市場にはいない。しかし、株主や投資家の信頼を得なければ、この資本市場の機能を使っている公開会社としての維持も難しいのが現実でもある。
 結局、コーポレートガバナンスは、会社にとって、資本市場から信頼を得るための仕組みといった理解を、公開会社にしていただければ良いのではないだろうか。
 会社法だけでは、上場会社のコーポレートガバナンスは充足されないと思うし、一部に議論のある公開会社法は、屋上屋を重ねるような違和感も現状ではある。
 業界関係者としては、取引所ルールの充実と、その運用に対して、資本市場関係者が自ら責任を持ってあたることのが、この国の資本市場の信頼を守ることになると信じたいのだが。

 


会社機構としてのコーポレート・ガバナンス (3月19日
ソニー、日立、そして東芝と、大手電機メカーのトップ交代が相次いで伝えられている。
その背景の説明として、厳しい経済環境と共に、これらの会社が、委員会設置会社であって、その指名委員会の機能として、一年毎に取締役の再選を厳しくチェックする仕組みが、報じられてもいた。
 コーポレート・ガバナンスの機能が働いている事例として、紹介したかったのだろうが、この委員会設置会社はもともと大企業の仕組みであって、東証上場企業でさえ未だ2.3%しか導入しておらず、残りは監査役会設置会社である。
 上場会社は、このどちらかの制度を使っているが、詳しい法律論が別にして、コーポレート・ガバナンス向上の仕組みとしては、委員会設置会社では委員・監査役会設置会社では監査役の半数以上が”社外”である必要がある。
 現在、金融審議会の我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループにおいて、上場会社等のコーポレート・ガバナンスのあり方について、議論が進められているが、正にこの”社外”という外部の客観性の機能が重視されているように思う。
 社外といっても、 
  ・親会社や主要取引先の関係者でないこと
  ・経営を行う執行役との個人的関係が重視されないこと
  ・その上で、業務執行に関するチェック機能が働くこと
が、求められている。
勿論、社外取締役と社外監査役の機能は異なるが、この社外性のチェック機能が働き、不正会計や不正取引が未然に防がれ、TOBやMBOに対しても機能する”社外”性を、投資家は期待している。
金融審議会での議論としては、
  ○委員会設置会社は望ましいかもしれないが、日本の実情に合わない部分もあるので、監査役会の機能充実とともに、独立性のある社外取締役の機能に期待してはどうか
  ○社外取締役に期待することは、
         (平時における)経営者の説明責任の確保
         (有事における)暴走の防止・安全弁
として、独立した社外取締役制度導入を、上場企業に働きかけるようである。
 また、会社は誰のものかといった議論とともに、コーポレート・ガバナンスが誰の責任かといったことは、同根であるから、投資家・株主側もその機能は果たさなければならない。
 この部分の対応に関しては、多くの個人投資家から受託されている機関投資家のガバナンス関与も、同時に期待されている。
 このことを、市場関係者も真摯に受け止めることも必要になっている。

金融審議会資料


 上場会社のガバナンス機構の枠組み
 論点メモ  
 


 雇用と報酬―投資銀行の場合  (3月5日)
 昨日(3/4)の経済ニュースで、昨年1000万ドル以上の高額報酬を得たメリル・リンチの幹部が、写真・実名入りで報じられていた。巨額の損失を出し、バンカメに吸収され、そのバンカメに公的資金という税金を投入しているのに、また米国民の怒りを買うという論調であった。
 確かに、どの様な業界であっても、報酬は収益に貢献したことの対価であるはずだから、巨額の赤字に対価としては説明不可能であるし、ボーナスなどの支払いも、統合される前通常よりも一か月早めてしまって、不透明感が拭えない。これだけコーポレートガバンスにうるさい国の、特にうるさい業態にあって、自分達の会社のガバナンスはどうしてしまったのか、至極残念なことである。
 少し前の数字になるが、筆者も日本における投資銀行の報酬を調べたことがあった。3年前の大雑把な数字で恐縮だか、日本における投資銀行の従業員一人当たり(秘書やその他サポートする人たちも含めた)の報酬額は、日系大手で1,500〜1,700万、欧米大手では4,000〜5,000万であった。
 勿論、全体の報酬の高さもあるのだが、何故欧米投資銀行は同じような業務で3倍の報酬を支払うのだろうか。稼いでいる金額が違う、持っている能力が異なる、−−−確かにそうかも知れないが、やはり雇用体系が異なるからだろう。
 外資系投資銀行の雇用は、実質一年契約だから、稼げなければ翌年の雇用は確保できない。従って、稼げるときには稼ごうとして必要以上のレバレッジをかけて、ついには弾けてしまったというのが今回の米国型投資銀行モデルの崩壊の一因ではないだろうか。
 投資銀行というビジネスモデルが悪かったのではなく、投資銀行の雇用システムが歪んでいた。
といって、トレーダーにしろ、バンカーにしろ、ファンド・マネージャーにしろ、独立した判断が出来るプロは必要である。しかし、本当のプロは一握りで、問題は投資銀行組織全体がこの一握りのプロの報酬体系を真似てしまったことにあるのだろう。
 長い雇用を前提にしなければ、企業とは長く付き合えないと思うのは、何も日本だけではなく、グローバルな常識でもある。
 もし投資銀行が再生していくなら、雇用と報酬制度について、企業や投資家の信頼に耐えるものに変える必要があると、敢えて思う金融不況のこの頃である。

大和総研コラム
欧米金融業界の高報酬は“スーパーバブル”だったのか?
   



 会社は誰のものか―日経の場合 (2月25日)
 金融・資本市場では、会社を投資・融資対象としてみるので、業務内容や財務データ以外に、会社がどの様に運営されているが知る必要があり、コーポレートガバンスという形でのディスクロージャーを会社に求める。
 我が国の金融・資本市場の機能強化の為に、上場会社等のコーポレートガバナンスについて、金融審議会のスタディグループで、今まさに議論されているところではあるが、最近そのコーポレートガバナンスのコアになる”会社は誰のものか”を考えさせられる事が、3つあった。
 1.本日の日経一面の、日経株主資格訴訟の東京地裁判決の記事
 2.与謝野大臣の”会社は株主のであるという考えは、私にはなじまない”発言(24日の国会答弁)
 3.京品ホテルの旧従業員による運営と、その立退き騒動
まず3.については、外資ファンドに売られ整理されるホテルを、旧従業員達が健気に守る姿が報道され、また強制的に退去させられる姿が、雇用環境悪化する中で世間の同情を誘った(?)。
また2.については、共産党議員の大企業が雇用調整のリストラを進めているのに、株主への配当性向を増加させる傾向が強まったことに関する質問に応えたものであった。
 今更に、会社は株主のものだけであると思う人など我が国の金融・資本市場にはいないが、株式会社という仕組みでは、会社は働く人のものだけでもないし、まして経営者のものでもない。
 何々のものといった言い方が適切でないのかもしれないが、会社はそれに関係するステークホルダーのものという考え方が定着している。そのステークホルダーの中に、株主がいて、会社の財務的な資産という面においては、それは間違いなく従業員や経営者のものではなく、株主のものなのである。だからホテルの建物を、占拠している従業員から取り返すのは正常な行為なのだ。
 そして1.の日経記事について、株式会社である日経には当然株主がいて、社員株主の場合の売買は社内ルールで外部者に譲渡できないことになっていた。そのルールの運用をめぐって、外部に株式を譲渡してしまった元社員と争われたものであった。
 会社法の株主の所有権の行使と、社内ルールの正当性(公正な報道を目的とするため)が、それぞれ主張されたが、東京地裁判決は、社内ルール運用の正当性を認めたものとなった。
 我々金融・資本市場関係者にとって、日経の報道には毎日何時間も接していて、その目的である公正な報道を守られるのは、何より大切なことである。ある意味で、日経のステークホルダーであり、日経は”我々のもの”でもある。
 しかし、この記事は一面で取り上げるべき記事なのだろうか、まして元社員の譲渡先の個人名と広報コメントを一面で載せる必要があったのだろうか。それより金融・資本市場に関する重要な記事があるという想いは、多くの読者にもあると思い、苦言を申し上げる。
 公正な報道がなされる為に、日経のコーポレートガバナンス対して期待したいし、それを考えさせられる本日の一面記事であった。


会社は誰のものか―コーポレートガバナンス強化における機関投資家  (2月16日)
 今さら株主のものと単純な答えは無くなったと思うが、京品ホテルの一連の報道にも違和感を持つ。会社が、関係者=皆のものなら、その会社の維持にも、関係者其々が責任と其れを果たす義務を持つべき。
 株主+将来株主を含めて投資家は、以下の形で公開会社のコーポレートガバナンスに参加するが、
 1.売却、若しくは買付ける。
 2.議決権の行使を通じて、ガバナンスの発揮を図る。
 3.IR活動等の経営者との会話の中で、経営について議論を行う。
これらを可能とするには、投資家側の売買・議決権行使の基準も、公開企業の経営者にとって明確でなければならないはず。特に機関投資家は、個人投資家からの受託者責任もあるのだから、その議決権行使には、運用目的に沿った明快さがなければならない。
 開示制度による企業への影響は所詮限界があるのだから、株主として参加しているのであれば、議決権行使を通して、ガバナンスに積極的に参加する機関投資家を育てるこそこそ、この国の企業の価値を高め、結果として金融・資本市場の競争力を向上させるとこにもなると期待したい。
 ただし、議決権行使のインフラ整備やIR促進に関しては、取引所やその仲介業者たる金融機関の努力不足も、今なお否めないのも現状である。
例えば、電子議決権行使を促進する仕組みを、企業から費用を徴収するのではなく、業界で企業及び機関投資家に提供する仕組みを提供されては如何か。

金融審議会
我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ
関係資料(コーポレートガバナンス)


   

 Copyright(C)2009 Financial Markets R&D KIZUNA,all rights reserved